会社やサービスを立ち上げた時、その内容を伝えるため必要になる企画書。その中にはどういった情報が盛り込まれ、どんな思いが詰め込まれているのか。ここでは、数多くのプレゼンをこなす起業家、ビジネスパーソンらが手掛けた企画書の中身を公開。企画書を作る上でのこだわりや気をつけていること、アイデアなどを紹介する。
今回は、4月にMBOし、6月に3.5億円を資金調達したクラフトバンクの資金調達時における企画書を紹介する。ベンチャーキャピタルに対し、明確に事業内容を伝えるために留意していること、企画書を作り込むまでのプロセスや効率良く仕上げるために秘訣などを、Founder&代表取締役社長の韓英志氏に聞いた。
クラフトバンクは、建設業向けオンラインプラットフォームの運営や業務管理ツールの提供、DXコンサルティング事業などを展開する建設テック企業。空間、店舗設計やデザインを手掛けるユニオンテックから、4月に分社化、MBOした。全国の約10%の工事会社が登録し、建設会社や職人を全国規模でマッチングできるプラットフォーム「CraftBank」を手掛けるほか、建設会社のDX事業などをサポート。「建設業界を中から変える」取り組みを続ける。
韓氏は、リクルートホールディングスでエグゼクティブマネジャーを務めた後、2018年2月にユニオンテックに取締役副社長として入社。その後、代表取締役社長として内装工事業の当事者として社内DX化を率いた。リクルート時代は「とにかくめちゃくちゃな数の企画書を書いた」とのことで、数を重ね、効率的かつ説得力のある企画書を作る技を身に付けてきたという。
「最近はよほどのことがない限り企画書(パワーポイント)は書かないことにしているが、企画書を作る際のスタイルは以前からあまり変わらず、サマリから書き、各論を詰めてまたサマリに戻る。リクルート時代は新規事業を担当するケースも多く、ファクトが少ない中で、仮説を立て、現場で仮説を検証しながら、ストーリーを固めていくという作業を数多く続けてきた。この際大事なのは『仮説は大体間違っている』という前提でフラットに見られているか。そのため、いろいろな角度から見る、他社や他国で成功している事例を研究するなど、広い視点をもつことが重要」と話す。
異なる視点を持つ重要性は現在にも生きる。「企画書はとにかくたくさんの社員や社外の友人に見てもらったり、あえて、業界外の人に見てもらったりして、さまざまな角度から質問をもらうようにしている。大事なのはパワーポイントに落とし込む作業よりも、(1)自分の頭の中で抜け落ちている観点を整理していること、(2)結果として、誰にでも伝わるプロセスづくり」と言い切る。
韓氏の企画書を作る手法はアナログとデジタルの融合だ。「まず、概略図となるポンチ絵を書き、全体像を1枚の紙にまとめていく。ここに記載するのは本当に大事な部分のみ。それ以外の枝葉はExcelに並べて書いていく。それを元にパワーポイントを書き起こす。その後、書き起こしたパワーポイントをA4サイズの紙に4ページずつプリントアウト。それをはさみで1ページずつ切り離し、大きな括りをホチキスで留めていく」と、紙に落とし込むことを意識する。
韓氏はホチキスで留めてストーリーを並べていく作業を「紙芝居」と呼び、ばらしては並び替えたり、ページを外したり、新たに加えたりという作業を繰り返す。「企画書を作っていると、どうしても思い込みが強くなってしまう。そうならないためにフラットに並べて、別の視点から見ることが大事」と複眼的な視点を持ち続けることの重要性を説く。
クラフトバンクで企画書を書く時、ほぼすべての社員に企画書を見てもらい、意見をもらっているとのこと。「共同で作ると壁打ちができて思い込みが減るのでそれはそれでいいが、ただ自分が作った企画書のほうがプレゼンしやすいので、誰がプレゼンをするのかで、完成させる際には必ず自分でダルマに目を入れる作業をする」と独特な手法も明かす。
リクルート時代には、「最大1000ページくらい作って、30~40ページの企画書に落とし込むこともあり、無駄だらけだった」と語る韓氏だけに、効率的に作るコツも蓄積している。「いいなと思った他社や他人の企画書は保存し、参考にできるように“参考にしたい資料集”というファイルをつくっている。そのほか、ロゴもいちいちウェブから持ってくるのもめんどくさいので、ロゴ集なども1枚にまとめておくと便利。市場規模や予測、市場背景、競合との差別化ポイントなど、必ず必要になる部分はテンプレート化してあり、それをベースに作り変えることで、作業時間の短縮につなげる」とテンプレート化を徹底する。
では、短くなった作業時間をどこにあてているのかというと、情報収集だ。「移動時間や休憩中など、少しの空き時間も含めて情報収集は常にしている。1日のうち5~6時間はスマホをいじっている。そして、気になったらすぐ現場で感触を確かめ、毎日欠かさずに仮説検証をする。企画書の作成はPCを使うが、調べ物はもっぱらスマートフォン」と独自のスタイルを極める。
実際のプレゼンにおいては「あまり細かい話しはしないようにする」「市場規模が大きいことをきちんと伝える」など、噛み砕いたプレゼンを心がける。「プレゼンする方は建設業×ITに明るくない方がほとんど。その人にも、ほかのなじみのある産業(旅行、飲食、ECなど)で用いられているようなフレームワークに落とし、産業としてどういうステータスで、どう市場を見立てているか。その中での切り込み角度は何か。ここの解像度は高く伝えるようにしている。加えて、クラフトバンクのチーム構成をきちんと伝えるようにしている。建設業は社員にとっても最初はなじみのない業界で、優秀な人でもキャッチアップに半年はかかる。そのくらい煩雑な業界構造になる。『職人が評価される社会』という軸足は変わらないが、事業のピボットは永遠に繰り返して事業を創っていくので、この荒波をエグゼキューションできるチームということを説明している。最近は、内容よりもチーム構成を重視している投資家の方は多いこともある」と話す。
韓氏は「建設業界で今起こっていること、何が足りず、何が必要かを、適切に一般化して伝えることが大事。話す相手にとって、ちょうどいい情報の粒度を汲み取り、それを話すようにしている」情報の一般化に気を配る。
「リクルートの新人時代に参加する全ての会議を1枚のポンチ絵で図式化するという訓練を積んできたことで、どんなになじみのないミーティングでも即座に論点整理するクセがついている。それが今の企画書作りに役立っている。僕は無駄が嫌いで、そして資料を作るのは無駄だと思っている。故に、せっかく作るのなら、自分の頭の整理になるように、作ったものが人に伝わるように、作ったものを最小工数で最大パフォーマンスができるようにしたい。パワーポイントという無駄をDXしたい」と語る。「日ごろはクライアントに提案に行く資料も含めて、ほとんどの資料はGoogle Docsで書き出すことで『パワポDX』しているとのことだ。
こだわりの企画書は、多くの訓練と無駄をしたくないという気持ちの上で生み出されていた。
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