【企画書大公開】ピッチイベントを勝ち抜く--「ワンページ、ワンセンテンス」を徹底した企画書

 会社やサービスを立ち上げた時、その内容を伝えるため必要になる企画書。その中にはどういった情報が盛り込まれ、どんな思いが詰め込まれているのか。ここでは、数多くのプレゼンをこなす起業家、ビジネスパーソンらが手掛けた企画書の中身を公開。企画書を作る上でのこだわりや気をつけていること、アイデアなどを紹介する。

 今回は、荷物の置き場所に困っている人と余ったスペースをレンタル収納・ 物置として活用したい人をつなぐ、物置きシェアサービス「モノオク」を展開するモノオクの企画書を紹介する。ピッチイベントで、モノオクを優勝に導いた企画書の中身は、「ワンページ、ワンセンテンス」を意識し、短い時間の中でも的確に内容を伝えるものになっている。

物置きシェアサービス「モノオク」がピッチイベント用に作成した企画書。(次ページよりダウンロードできます)
物置きシェアサービス「モノオク」がピッチイベント用に作成した企画書。(次ページよりダウンロードできます)
モノオクの企画書の表紙。サービスロゴと画面をデザインしている
モノオクの企画書の表紙。サービスロゴと画面をデザインしている

企画書のストーリーをどうワンセンテンスに落とし込むか

 モノオクは2015年4月に設立。以前、民泊のホストを務めていたモノオク 代表取締役の阿部祐一氏が「民泊のホストとして経験した、ゲストの方とのやりとりを通して感じた楽しさ、おもてなしに感謝される喜びを、もっと多くの人に体験してもらいたい。ものを置くスペースをレンタルならば、民泊よりもハードルが低くはじめられる」という思いから立ち上げた。

 物置きや自宅の空き部屋など、人が住むスペースの一部を貸し出すため、スペースを借りたい人が、住んでいる地域の近くにものを置くスペースを確保できることが特徴。3月には、空き家問題に対する解決策の1つとして都内の空き家をモノオク公式スペースとして運用する東京都との実証実験促進事業も本格スタートしている。

 「今回の企画書は、もともと作っていたプレゼン資料をピッチイベント用にカスタマイズしたもの。登壇する時間帯や来場者の属性を見極めながら、専門用語を使うか、噛み砕いだ表現にするかなどを調整している。IVSは、多種多様な業種のスタートアップが集うピッチイベントだったため、少し噛み砕いた表現を採用した」と阿部氏は説明する。作成時間は約1週間。基本的に阿部氏1人で作ったという。

 全30ページの企画書のため、5分程度のプレゼンテーションで割ける時間は1ページ10秒足らず。「企画書は、『ワンページ、ワンセンテンス』を意識して作成している。最初にどういったストーリーにするか考え、その後、そのストーリーをどうワンセンテンスに落とし込むかを考えながら作っていった」と、焦点を絞る。

 「この時はピッチイベントだったので、モノオクというサービスの内容にフォーカスして打ち出している。これが採用イベントであれば、なぜこのサービスに取り組んだのか、どういう人たちの課題が解決でき、それに対してどんなフィードバックがもらえるのかといった『この仕事を通して得られること』を盛り込むようにしている」(阿部氏)とする。

 モノオクの企画書で特徴的なのは、説得力のある写真の数々だ。2ページ目のフィギュアやチラシ、6ページ目の自宅の片隅に積まれたダンボールや収納ケースなど、「困っている」「あきらめなくてはいけなかった」と、誰もが一度は感じたことがあるであろう心情を写真でリアルに切り取る。続けて11〜12ページは「実際の利用者の声」を人物の写真入りで掲載。課題を解決できた実例を掲載することで、説得力をもたせる。

誰もが一度は感じたことがあるであろう心情を写真でリアルに切り取る
誰もが一度は感じたことがあるであろう心情を写真でリアルに切り取る
利用者の声が入ることで、より身近なサービスであることが伝わる
利用者の声が入ることで、より身近なサービスであることが伝わる

 グラフについては「ひたすら見やすい形で収める」(阿部氏)ことを念頭に置く。18〜19ページには、競合サービスであるトランクルームとモノオクの1畳に対する費用比較のグラフを掲載。18ページ目は月々の費用、19ページ目は初期費用の差をシンプルな棒グラフで掲載している。

 「どんなグラフを入れるかはすごくシンプルに考えていて、これだけシンプルなグラフだと、月々と初期費用の2つのグラフは1ページに収める人も多いかもしれない。しかし、これを並べると『使用料が安い』ということだけが記憶に残るが、ページを変えることによって、月々の費用は2分の1、初期費用は10分の1と安さの詳細を理解しやすい」(阿部氏)とページ割りにも気を配る。


あえてページを分けて掲載することで、費用比較を印象的に残す
あえてページを分けて掲載することで、費用比較を印象的に残す

 ベージュやオレンジを多用した明るい色使いは、モノオクのサービスカラーをそのまま使用することで、サービスとの一貫性を出す。デザインルールをデザイナーが作成し、それをもとに作っていくことで、デザイン性も維持する。

 ワンページ、ワンセンテンスにこだわり、情報を削ぎ落としながら企画書を作るのは「どれだけサービスが伸びていて、ポテンシャルのある事業だったとしても、プレゼンが悪ければ、意味がないということが多いため。例えば、自社サービスのいい点が5つあったとして、そのすべてを伝えたい気持ちはわかるが、全部を盛り込もうとすると焦点がぼやけてしまう。それであれば、ずば抜けていい点だけを載せたほうがいい。最大の強みだけを企画書に盛り込んでいくことで、プレゼンも話しやすくなる」(阿部氏)と、削ぎ落とすことに徹底的にこだわる。

収納サービスの課題をシンプルな言葉とイラストで表現する
収納サービスの課題をシンプルな言葉とイラストで表現する

プレゼンは得意というより慣れた、練習が本番の自信につながる

 「プレゼンは得意というより慣れたという感じ。4〜5名の人にプレゼンする機会が多いが、IVSはイベントだったので、これを通して大人数の前でもプレゼンすることができるようになった。ただ、練習はものすごくやっていて、こちらの企画書でも100回は余裕で繰り返している。暗記してしまうと、本番中に飛ばして、プレゼン自体を止めてしまう可能性があるので、このページで何を伝えるべきなのか、それを何も見ずに話せるようになるまで練習を繰り返した」とストイックに取り組む。

 ピッチイベントの前日は、テレビに画面を映し、企画書が大画面で表示される本番の環境に近い形で練習したとのこと。「ラストのページのセリフを飛ばしたり、ドタバタしながら終わってしまったりと失敗もしてきたが、練習が何より。練習したという事実が自信につながり、当日、過度に緊張したりしないようになった。あれだけ練習したから大丈夫という裏付けが当日の自信につながる。」と体験者ならではの心情を明かす。

 現在では、3分、5分、10分と時間にあわせてモノオクの説明ができるようになっているとのこと。「それができるのは、話しをする優先順位が自分の中で理解できているから。3分であれば、ここの部分を話そうという取捨選択が時間に応じてできるくらいになっている」と、企画書の内容を自分に染み込ませる。

 ここ1年はオンラインでのプレゼンが増えているが「どちらかといえばオフラインでのプレゼンが得意。オンラインは話す人の顔がみづらかったり、お気遣いいただいてご自分のマイクをミュートにしてくださる方もいらっしゃるが、反応がわからず戸惑ってしまうこともある。対面だと、表情から、理解しづらかったかもとか、もう少し説明を入れたほうがいいかもということが、その場でわかるため、即座に追加の説明を入れたりできる。例えば、モノオクでは、荷物を預ける方をゲストという総称にしているが、そのゲストが何なのか理解が深まっていないようであれば、改めてゲストの説明を入れるなど、何度か説明することで理解を深められる」とフレキシブルに対応する。

 一方で、オンラインでのプレゼンは移動がなく、どこでもできること。場合によっては録画もできるので、さらに拡散力が高まる」と多くの人に聞いてもらえることがメリットだという。

 IVSが公開しているlaunchpadの過去の登壇者の動画を参考にすることが多いという阿部氏。「とにかく練習することが大事。1人ではなくて、人前での練習もしておいたほうがいい。そして、大きな声で、思っている以上にゆっくり話すこと」とプレゼンのポイントを教えてくれた。

次ページのダウンロードボタンから、今回紹介した企画書全ページをPDFでダウンロードいただけます。なお、ダウンロードするにはCNET IDが必要になります】

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