Appleは日本時間9月2日、日本の公正取引委員会との合意で、デジタルコンテンツを消費するいわゆるリーダーアプリの規約を2022年に変更し、アプリ内にコンテンツ購入などの自社サイトへ誘導するリンク設置を可能にすることを発表した。
今回の合意で言及しているのは、App Store Reviewガイドライン 3.1.3(a)リーダーアプリについて、これまで禁止されてきたデジタルコンテンツの購入やサブスクリプションを促すリンクの設置を許可することで、開発者はアプリ内課金以外の方法での課金、つまりAppleによる15〜30%の手数料を回避する手段をとれるようなる。
それでもアプリ上でアプリ内課金を活用せずにデジタルコンテンツの販売は行えないため、たとえばiOS用Kindleアプリの中から電子書籍を購入できるようにはならず、Amazonウェブサイトでの購入手続きが必要となる。ただしアプリ内ブラウザを使えば、アプリを離れることなくコンテンツを購入できる。
日本の公正取引委員会は2016年から、Appleが手数料回避をしにくくする施策に対して反競争的な行為かどうか調査を進めており、今回の規約変更と同時に調査終了も発表された。なおこの変更は日本市場だけでなく、全世界で適用される。
Appleの担当者は、開発者に選択肢を与える変更としており、ビジネスの規模や方針に応じて、アプリ内課金を選ぶか、自社の課金システムを構築する(手数料を免れる)かを選べる点を強調した。公取委の調査終了も、選択性の確保が条件だったと考えられる。
ただしAppleの担当者は、この変更をした上でも開発者にとってアプリ内決済が優位である、との考えを改めて強調した。プライバシー、セキュリティ、多様化した価格設定、定期購読、購入履歴管理などの利便性を活用でき、ユーザー体験も損なわないとの自信もある。顧客・開発者の双方にとって、App Storeの機能を活用することがベストだとの考えは変わっていない。
今回の変更で、何か大きな変化が起きるか?と問われると、「ない」と答えておくべきだ。Appleは引き続き、現在のApp Storeビジネスを維持するため、必要最低限の譲歩や、象徴的な係争に対する収束に取り組んでいるが、基本的な姿勢は「Appleが構築したApp Storeのビジネスモデルの正当性」に対して、理解してもらおうということだ。
カリフォルニア州の裁判所で係争中のEpic Gamesは、リーダーアプリ以外でも外部決済のためのボタンやリンクを設置できるよう求めているが、今回のAppleの譲歩は、デジタルコンテンツを消費するリーダーアプリに限られ、ゲーム企業が求めるアプリ内課金回避にはつながらない。
AppleはWWDC前後から、App Storeに対するさまざまな変更に取り組んでいる。直近、8月27日には、米国の開発者による集団訴訟で和解しており、以下のような合意を交わしている。
Epic Gamesとの訴訟や、Spotifyをはじめとする大手デベロッパーに対するApp Storeへの不満の高まりが、今回の動きを作り出したことは間違いない。しかしAppleの回答は、必ずしも問題提起しユーザーを味方につける大規模開発者に応えるものではない点を指摘しておかなければならない。
すなわち、戦略として、小規模デベロッパーの支援と成長が、将来のAppleにとって重要との立場だ。
Appleの担当者は先日、米国の開発者の99%は売上100万ドル以下の小規模開発者だが、将来の大規模開発者はこの中から生まれる――との見方を示した。これには2つの意味がある。
大規模開発者からの収益構造の変更は、App Storeビジネスの売上に直結するインパクトを与えるため、Appleとして許容できない。その一方で、小規模開発者の優遇は、彼らが成長することによって将来的なAppleの手数料収入を膨らませることになる。開発者のライフタイムバリューを見据えた施策なのだ。
過去の経緯を見れば、小規模開発者が世界トップのアプリへと成長したことは明らかで、特に5GやAR、AIなどの領域でまだキラーアプリが生まれていないとするならば、未来のInstagram、TikTok、Uberといったアプリの誕生を支援した方がAppleに利すると考えられる。
富の集中に対して再び批判的な流れが起きようとしており、巨大テック企業への風当たりは世界中で強まる中、小規模開発者の支援は「Appleの世の中に対する先手」だ。
長期的な目線でAppleのApp Storeビジネスの成長を維持するための施策として考えると、もう少し純粋な視点で、Appleとしては本気で99%の小規模アプリの中から将来の大規模アプリが生まれると信じており、彼らと仲良くしておきたいという本音もまた透けて見える。
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