「SNSは10代のメンタルヘルスに悪影響」は本当なのか(後編)

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2021年02月16日 07時30分

 前編に続いて、SNSが10代のメンタルヘルスに及ぼす影響について識者らの見解を紹介する。

立ち止まって当事者の考えに耳を傾けるとき

 時は2019年までさかのぼる。モデルのKaia Gerberさんは当時17歳で、最初の半年間、少なくとも1カ月に1回はInstagramに自撮り写真を投稿していた。だが、その自撮り写真に写り込んでいるスマートフォンのケースには、まるでタバコのパッケージのように、「ソーシャルメディアはあなたのメンタルヘルスに深刻な害を及ぼします」という警告文が記されていたのだ。そのケースを持っている著名インスタグラマーはGerberさんだけではなかった。そのデザインがティーンエイジャーの間で流行し、Instagram上の自撮り写真ではよく見られる光景になった。

 ソーシャルメディアにそうした警告が現れるというのは、何とも皮肉な、むしろメタなことだったが、その根底には定番の言説をからかおうとする傾向があった。だが、このケースは、持ち主に対して、ときどきはスマートフォンを手から離そうという注意喚起としても機能したらしい。Z世代の広い範囲で、ソーシャルメディアの利用に注意を払うことの重要性を意識させる効果もあったのだ。

 ケンブリッジ大学の研究フェローで、青少年とそのテクノロジーの利用について研究しているAmy Orben氏は、ティーンエイジャーが自分たちのメンタルヘルスに対するソーシャルメディアの影響について自覚していることを見落としてはいけないし、この問題についてティーンエイジャー自身がどう考えているか、改めて耳を傾けるべきだと、先日のインタビューで話した。ティーンエイジャーが自らの経験についてオープンに語る定性的な研究では、ソーシャルメディアが自分たちの幸福感に果たす役割を深く理解している傾向にあり、きちんと自制する方針をわきまえていることも多いことが分かる、とOrben氏は指摘する。

 研究では、ティーンエイジャー自身が、子供とソーシャルメディアをめぐるメディアの報道について、十分知識を蓄えていることも明らかになっている。ソーシャルメディアに潜むリスクや怖い事例などを挙げていた。だが、そうした話を裏付けるような個人的な経験を持つ者はほとんどいない。

 Faith Martinさんは、19歳のフリーランスジャーナリストで、障害についての執筆活動を行っている。ティーンエイジャーはソーシャルメディアとともに育ってきたので、その悪影響については、他のほとんどの年齢層よりもよく理解している、というのがMartinさんの考えだ。Martinさんは、「あらゆることを自分の若い頃と比べる大人がいるが、それはあまり意味がない。世界はその時から大きく変化しているのだから」と述べた。また、ソーシャルメディアがティーンエイジャーの幸福感にどう影響するかについて伝える際、メディアの報道は中流階級のティーンエイジャーの生活だけに焦点を当てる傾向があると指摘した。

 英国の電気通信およびメディア規制機関である情報通信庁(Ofcom)は2020年8月、ロックダウン(都市封鎖)がさまざまな年齢の子供やティーンエイジャーのデジタル生活に及ぼした影響(新たに使用するようになったデジタルスペースやそこでの行動など)を調べた調査結果を発表した。この調査のレポートでは、メンタルヘルスに特に言及しているわけではないが、主な社会的交流がオンラインに移行して、ほかの活動と組み合わせて行われるようになったことなど、横断的な調査結果が明らかになっている。

 レポートでは、体型を重視したエクササイズのコンテンツをソーシャルメディアで目にするせいで、一部の10代の女子は自分の体型に自信をなくし、もっとエクササイズをしなければならないという重圧を感じている、ということが紹介されている。メンタルヘルスへの悪影響がうかがい知れるのは、その部分くらいだ。しかし、レポートによると、オンラインで遭遇したコンテンツに触発されて、ロックダウンで初めてエクササイズに取り組み、より健康になったと感じたり、気分が向上したりした者もいるという。

 Martinさんは、そうした完璧な体型を果てしなく追求する投稿にInstagramで遭遇し、個人的にネガティブな影響を受けていると感じる、と話す。「障害のある女性として、私はよくそうした投稿に目を奪われ、自分の居場所はどこにあるのだろうかと考えることがある。これらのプラットフォームで影響力を持っている人の中に、自分に似た人や同じような人生を送っている人は1人もいないからだ。こうした画像はセルフイメージに影響を及ぼし、私は他人の目から見た自分の価値を問うようになった」(Martinさん)

 小さなサンプルサイズの研究でも可変的な要素が多く見られることや、Martinさんのユニークな個人的見解を見ると、ソーシャルメディアの利用と幸福感の関連性を調べようとしている研究者が、どのような困難に直面しているのかが何となく分かる。性別や背景、年齢、人生経験、性格の異なるティーンエイジャーの回答の多様性を考慮すると、ソーシャルメディアの利用と幸福感を結びつける、本質的で明確な1つの相互関係を探し出すことは、必ずしも可能ではなく、望ましいことでもないということだ。

 同じ道をたどっても、研究者によって結論が大きく異なる可能性もある。このことからもよく分かるように、ティーンエイジャーや保護者は、たった1つの研究だけを見て、慌てて結論を下すべきではない。

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