大企業のなかで新規事業の創出やイノベーションに挑む「社内起業家(イントレプレナー)」たち。彼らの多くに共通しているのは、社内だけでなく社外でもアクティブに活動し、社内の横のつながりや幅広い人脈、あるいは課題を見つける観察眼やその解決につなげられる柔軟な発想力を持っていることだ。
この連載では、そんな大企業内で活躍するイントレプレナーにインタビューするとともに、その人が尊敬する他社のイントレプレナーを紹介してもらい、リレー形式で話を聞いていく。第2回目のコエステ金子氏からバトンを受けたのは、経済産業省のイノベーター育成プログラム「始動NEXT INNOVATOR2017」で同期だったという、ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ ドローン/エアモビリティ事業化プロジェクト リーダーの保理江裕己氏だ。
——まずは自己紹介からお願いできますでしょうか。
現在はANAホールディングスの新規事業、イノベーション創出のための部署であるデジタル・デザイン・ラボに所属しています。2009年にANAに技術系総合職として入社し、パイロット向けの航空機の運航マニュアルの作成を行う運航技術業務や、航空機を整備する部門の技術企画業務を経て、2016年4月に立ち上がったデジタル・デザイン・ラボに入りました。
デジタル・デザイン・ラボは、ANAホールディングス傘下にあるアバターロボットの「avatar-in(アバターイン)」のように、新たな事業やサービスを作っていくことを目標にしている部署です。そのなかで私は、ドローンや空飛ぶクルマといった、低高度空間でモノや人を移動させるモビリティビジネスを立ち上げるべく、そのプロジェクトのリーダーをしています。
——なぜ、ドローンと空飛ぶクルマというテーマで新規事業にチャレンジすることになったのでしょう。
もともと新しいテクノロジーにはすごく興味がありました。当時、盛り上がり始めたドローンや、2016年にUberが「Uber Elevate」という空飛ぶタクシーの構想を発表したこともあり、その頃からドローンや空飛ぶクルマの市場が広がっていくだろうと注目しはじめたのが、いまの事業を考えるようになったきっかけです。
現在はドローンのプロジェクトと空飛ぶクルマのプロジェクトの2つに分かれています。まず1つ目のドローンの方は、この分野だと空撮、測量、点検、農業など、いろいろな用途がありますが、いま私たちが手がけているのは配送です。ドローンを物の配送に使う「ドローン配送サービス」を立ち上げるために実証実験を繰り返しています。
2016年12月にドローン事業化プロジェクトを立ち上げ、そこから約2年間は飛行機の点検に使えないかとか、空撮サービスを組み合わせた旅行商品が作れないかとか、いろいろ試行錯誤してきました。ところが2018年9月に、無人地帯であれば目視外飛行してもよい、という規制緩和が実現したことが1つのポイントになりました。
長期的な難しいチャレンジではありますが、市場としては今後確実に伸びていく。そこでANAの強みを生かしていこうということで、ドローン配送サービスに注目しました。いまはいろいろな企業とコラボレーションしながら実証実験しているところですが、2022年度には有人地帯での目視外飛行が可能になる法律制定の予定があるので、その2022年度を目途にドローン配送サービスを実用化させるつもりです。
——ドローンではどれくらいの荷物を運べて、どういったシーンで活躍するのでしょうか。
われわれが手がけるドローンは、最大離陸重量25kg未満のカテゴリーなので、まだ搭載できる荷物は5kg程度です。なので、それを運べるラストワンマイル的なピースでドローンが求められる用途は何かというと、医薬品や日用品。そういった小型のものを即時配送するビジネスを立ち上げようと、2020年11月には長崎県の五島市で、オンライン診療と組み合わせて医薬品を即時配送するネットワークを作るためのチャレンジをしています。
また、2020年12月には福岡でセブン-イレブンさんと手を組んで、スマートフォンで注文したコンビニの商品を即時配送するサービスの実証実験も行っています。コンビニの商品が“空飛ぶ三河屋”みたいな形ですぐに配送できるものですね。およそ5km圏内を即時配送する、地域の社会インフラにしていきたいと考えているところです。
——空飛ぶクルマのほうはどういったプロジェクトになりますか。
空飛ぶクルマは、端的に言うと、ヘリコプターとセスナ機のハイブリッドのような、滑走路の不要な垂直離着陸する電動の航空機です。これまでに比べて安全性や静粛性が高く、1〜4人乗りぐらいのサイズで、垂直離着陸だから点と点の移動ができるものになります。これによって新たな航空移動の需要を作ることができると思っています。
空飛ぶクルマは今、世界中で開発競争が繰り広げられていますが、2023~2024年頃には機体が認証される予定です。たとえば空港に行くお客様を運ぶ、もしくは空港に到着したお客様が最終目的地の一歩手前のビルまで行ける、エアポートシャトルサービスのような事業を立ち上げられないかと考えています。
このあたりはまだ法律が整備されていません。ですので官民協議会という場で、国の方々と一緒に法的な枠組み作りを議論しつつ、われわれが実現させたい航空移動のサービス設計、ビジネスモデル開発まで、並行して進めています。2025年の大阪万博までには実用化させるつもりで取り組んでいます。
ちなみに社内のプロジェクトメンバーとしては、ドローンは専属が5人、他の事業との兼務で計15人くらいの体制です。メンバーの中にはボーイング 787のパイロットや、整備士、システムエンジニア、フライトプランを作成するいわゆるディスパッチャーと呼ばれる人など、航空業界のスペシャリストたちがいます。
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