受賞企業インタビュー:ランゲート株式会社
言語学習の相互添削SNSを「日本発、世界初」のサービスへ育てる--ランゲート喜社長
岩本有平(編集部)
外国語を学びたい世界中の人々が、それぞれの母国語を教えあうことで語学力を高める--そんなコンセプトで生まれたランゲートの相互学習型ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「lang-8」。文字どおり世界中をターゲットにした同サービスのコンセプトが高く評価され、テクノロジーベンチャーを表彰する「Tech Venture 2009」のグランプリに選ばれた。ランゲート代表取締役である喜洋洋氏に同社の概要と今後の展開を聞いた。
--ランゲートはどのような会社なのですか。
当社は「IT×国際」をテーマとするベンチャーです。日本に限らず世界中をターゲットにして、「日本発、世界初」のサービスを提供することを目標にしています。
現在は中国語でのサイト作成などいくつかの事業を展開していますが、注力している事業は、相互添削型SNSの「lang-8」です。これは英語を勉強する日本人が英語で日記を書くと、ネイティブスピーカーが文法的におかしい点を指摘・添削する。一方、日本語を勉強する外国人であれば、日本語で日記を 書き、日本人が文章の添削をするというように、相互に母国語を教えあうSNSです。
ネイティブスピーカーにとって母国語を教えることは簡単ですが、その一方で、ネイティブスピーカーから母国語を教えてもらうというのは本来コストの高いことです。我々はこれをSNSのプラットフォーム上で実現しました。
ユーザー数は現在4万人程度です。現在1カ月間で160カ国以上からアクセスがありますが、アジア圏のユーザーが比較的増加しています。サイト内 で学習されている言語は60以上になっており、日本語や中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語などが特に活発に学習されています。
--設立までの経緯について教えて下さい。
私は中国で生まれて日本で育ちました。そして大学2年生の時に上海へ留学したのですが、その際中国語学習のために中国語で日記を書いて中国の友達に添削をしてもらい、一方で友人の日本語については私が添削するということをやっていました。そこでネイティブ同士が相互に母国語を教え合うということの効果を実感しました。
1年後日本に戻るとmixiが流行しており、これを見て相互学習のためのプラットフォームはSNSで実現できるのではないかと思いました。そこで現在最高技術責任者である松本一輝や当時一緒にビジネスコンテストに出ていた友人とともにOpenPNEをベースにlang-8のプロトタイプを作り上げました。
大学を卒業した2007年、松本は就職し、私は就職せずランゲートを登記しました。当初は受託で仕事を受けつつlang-8の宣伝や開発を進めていましたが、1年後に松本が参画し、現在に至ります。
--世界を対象にしたサービスですが、海外展開はどのように進めたのでしょうか。
起業を考えたときから、「起業するなら日本で終わるのではなく世界展開したい」と思っていました。しかしlang-8の性質上、日本人ユーザーだけが集中すると相互学習が成り立たないため、サービス開始当初は日本での宣伝を避けていました。そして海外に住む友人にサービスを使ってもらったり、外国人に会ったら名刺を渡してサービスを紹介たりといった地道な活動から始めました。
最初は地道に活動していましたが、2008年の秋ごろからは次第に海外の大きなサイトに紹介されることが増えました。そしてその度に紹介されたサイトで利用されている言語圏のユーザーが増えていくという具合に成長を続けています。
--lang-8はOpenPNEをベースにしているとのことですが、システム面について少し教えてください。
lang-8を開始してすぐの頃はリソースもあまりなかったため、OpenPNEをベースにすることで、相互添削機能の開発に集中しました。
弊社にはまだデザイナーがいないため、見た目としては現在もOpenPNEの印象が強いのですが、裏側ではPHPとRuby on Railsを使ったオリジナルのシステムが動いています。また負荷分散には特に力を入れており、100万人での利用もできるように設計しています。
--lang-8の競合はどういったものになりますか。
言語学習用のサービスとしては、ウェブ上で学習、テストの実施をするような「Eラーニング型」と、Wikiなどを利用して、ユーザー間で知識を補完する「CGM型」の2種類のサービスがあります。
lang-8は後者にあたると思いますが、ネイティブスピーカー同士の相互添削という点を重視したサービスはないかと思います。そして何よりこの分野はまだ黎明期だと考えており、競合をあまり意識していません。
Facebookなど世界中で使われているSNSもありますが、その使い方自体は同じ言語圏を対象としており、グローバルなものではありません。そのため、外国の文化がわからない人が入るのはむずかしいというところがあります。
ランゲートはそんなSNSを外国語の相互学習というテーマで再構築し、気軽に教えあえる環境を作っています。ですので、ほかのSNSが同様のサービスを入れても、すぐにこのような環境は作れないと思います。
--2009年1月には元楽天の吉田敬氏やngi groupの西川潔氏らの出資もありました。今後の展開を教えてください。
昨年の増資いただいた方々は、事業の立ち上げを経験しており、lang-8のサービス開始当初から応援やアドバイスをしてくれた方たちです。今後については大きく2つの道があると思っています。
考えているアイデアは数多くあるので、増資するのであればまとまった額を集めて事業を一気に加速したいと思っています。前述の通りデザイナーも居ないので、現在のロゴもlang-8のヘビーユーザーが作ってくれたものを使わせていただいている状態です。
しかし、その一方で今の時代低コストで提供しているサービスが評価される傾向もあります。今は運営費も驚くほど安くまかなえているので、このままこのまま2人で地道に黒字化を目指すという道も考えています。
--収益化についてはどのように考えていますか?
直近では広告の導入とオプションを追加した有料会員制を導入したいと考えています。そのほかの展開については、まだ具体的には話せないのですが、lang-8というプラットフォームが特性として持つ「クロスボーダー」というところにビジネスチャンスがあると考えています。日本の人が日本の商品を海外に紹介したり、といったことを展開する可能性もあります。提携の話などはまだありませんが、海外で何かやっていきたいという人とは積極的に組んでいきたいと思います。
将来的には、全世界で1億ユーザーを目指したい、米国発のサービスのように世界でスタンダードになるサービスに育てていきたいという思いがあります。ネイティブの力を活用するというコンセプトさえぶれなければ、今後は言語の添削以外にもさまざまなチャンスがあると考えています。
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