ドコモがRaaSで変える買い物体験--メタバースとリアルを融合した「サイバー経済圏」とは

CNET Japan Ad Special2022年03月30日 09時00分

 NTTドコモ(以下ドコモ)が、デジタル技術を活用した新たな小売りサービスの提供方式であるRaaS(Retail as a Service)領域での新規事業に乗り出した。

 2022年3月18日〜4月5日まで、船橋市の三井ショッピングパーク ららぽーと TOKYO-BAYにおいて、三井不動産と共同でスマートトイ(※デジタルと連携した知育玩具)を体験できる期間限定の特設ストア「NEWPOINT×THE-ST」を開設している。そこでの検証を経てソリューションパッケージをブラッシュアップし、さまざまな検証を重ねつつサービス提供を本格化させていく予定だ。

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NTTドコモ イノベーション統括部 部長の稲川尚之氏(左)と、NEWPOINT×THE-ST企画を担当する同事業化第一担当 担当課長の石川雅意氏(右)

 新たな活動空間としてメタバースが注目される中、デジタルとリアルの融合で実施している店舗実証の意図や、その先に見据えるRaaSビジネスについて、NTTドコモ イノベーション統括部 部長の稲川尚之氏と、NEWPOINT×THE-ST企画を担当する同事業化第一担当 担当課長の石川雅意氏に聞いた。

「ららぽーと TOKYO-BAY」に“体験型”ストアを開設

 NEWPOINT×THE-STは、ドコモが開発中のRaaSソリューション「THE-ST(ザスト)」と、三井不動産のブランド支援プロジェクト「NEW POINT」を掛け合わせて実現した、リアルとメタバースの両空間を使って展開する体験型ストア(ポップアップストア)だ。

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ららぽーと TOKYO-BAYに開設されたポップアップストア
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「NEWPOINT×THE-ST」のロゴ

 利用者は事前にウェブサイトで予約登録をした上で来店すると、最大30分間玩具メーカーが展示するスマートトイを自由に操作して遊べるほか、店内に設置されているPCから同ストアを模したメタバース空間に入り、ゲームで遊び、解説映像の動画を見てより詳しい情報を得ることができる。

 今回は「しゅくだいやる気ペン」(コクヨ)、「ドキドキちょうしんき!リカちゃん病院」(タカラトミー)、「ほぼ日のアースボール」(ほぼ日)、「Qbi Explorer Kids」(Qbi)、「鬼滅の刃POD」(セガトイズ)、「Osmo ジーニアス スターターキット」(ソースネクスト)、「ドラえもんラーニングパソコン」(バンダイ)の7種類のスマートトイを用意した。

 ストアの天井には、ウェブカメラが設置されており、来場した子どもと親の動きをトラッキングしていく。まずブース入り口のゲートでQRコードを読み込んで来場をチェックし、店内カメラで読み取る情報が登録者情報と同期される。

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利用者は自宅などで遊びたいスマートトイの体験予約をする
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ブース入り口のゲートでQRコードを読み込んで来場をチェック
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ストアの天井には、ウェブカメラが設置されており、来場した子どもと親の動きをトラッキングしていく

 ストアやブース内で遊んで帰りに再度ゲートを通るまでの間、子どもがブース内のどこでどのおもちゃで遊び、PCで何の動画をどれだけ見たか、データを取得できる仕掛けとなっている。

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子どもは各ブースに入ってスマートトイを体験できる
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7種類のスマートトイを用意した

 これにより、遊ぶ子どもと購入する親には商品体験の機会を提供し、玩具メーカーには行動データに基づく顧客インサイトを提供する。グローバルでRaaSの取組みが始まりつつあるが、このような「体験型の店舗と体験データを取る仕組みを用意しつつ、アプリとメタバースを組み合わせたRaaSを提供するのは初の試み」(石川氏)となっている。

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ポップアップストアを再現したメタバース

これからの店舗に求められる役割は「体験の提供」

 開催中のストアの現場では、スマートトイ自体は販売していない。国内でもこういった販売を目的としないRaaS型のリアル店舗はすでにいくつか存在しているが、そこでは出会いや発見が主たる目的となっていることが多い。それに対し、NEWPOINT×THE-STの目的は、あくまで認知を前提とした上で“体験”してもらうこと。

 そして、ドコモが今回の実証やこれから展開するRaaSソリューションで目指すのは、購入する側の「顧客体験の向上」と、販売する側の「メーカー・小売りのビジネスモデル変革」だという。

 顧客体験の向上が必要とされる背景には、生活者の購買行動の変化がある。「コロナ禍であらゆる業界でDXが進んできた中で、生活者が物を買う場所がリアルからオンラインにどんどん移っている。オンラインでの購買が基本になり、購買自体がデジタルに近づいていくと、店舗が提供するべきなのは物を買う機能ではなく体験になる」と石川氏はみている。

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「店舗が提供するべきなのは物を買う機能ではなく体験になる」と石川氏

 実際にいまおもちゃ屋の店舗に行くと、基本的にパッケージされた商品が並んでいて在庫が積んであり、一部の商品しか実際に使ったり触ったりする体験はできない。であれば、ますます生活者は店舗に足を運ばなくなるだろう。

 他方で、メーカー・小売業のビジネスモデルにも変化が起きている。これまで商品の流通は、実店舗でもEコマースでも基本的にメーカーが商品を作り、卸や小売りが流通させ、生活者に届けるという構造だった。それがデジタルの普及によって、メーカーと生活者が直接取引をするD2C(Direct to Consumer)のやりとりが増えている。そうなるとメーカーが直接生活者に商品を届け、生活者の声や体験データを拾い上げる仕組みが必要になり、小売業も新しい誘客の仕組みを用意しなければならなくなる。

デジタルとリアルの店舗体験を向上させる「THE-ST」

 それらの課題に対してドコモは、デジタルの活用によって「顧客体験の向上」「メーカーと生活者をつなぐ仕組み」「小売業のDX支援」を実現するRaaSソリューションとして、THE-STを開発した。THE-STは、商品を認知するためのウェブアプリとメタバース環境を構築し、ストアに設置されるカメラの映像データをAIで解析するソフトウェアと、メーカーが閲覧するダッシュボード機能をパッケージ化して提供する。ドコモが今後RaaS事業を展開していくにあたっては、THE-STのソフトとネットワーク領域を提供し、店舗などと組んでサービスを提供していく形だ。

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「THE-ST」の仕組み

 このようにTHE-STは、デジタルでの体験と店舗での体験を同時に提供していくソリューションである。今回のNEWPOINT×THE-STでは、現実の体験を拡張するという形でブース内からメタバースにアクセスする形になっているが、本来THE-STを活用する際は、生活者が最初にバーチャル体験をするのは店舗に来る前となる。

 ウェブサイトやスマホアプリを通じて、メタバース空間に構築されたデジタルツインの店舗で商品の情報を見てバーチャル体験の機会を提供し、ユーザーが試してみたいと思ったら実際に店舗に来てもらい、リアルで体験してもらうという流れだ。

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今回用意したメタバースでは条件を満たすとお店の外に出ることができる

 THE-STでは今後、実証の結果も踏まえてソフトウェアをアップグレードし、メタバースでの店舗内体験・コンテンツと、メタバースが持つ空間的広がりという2つの側面を見据えて機能を拡張していく予定だという。

 ちなみにTHE-STという名称は、「触覚= Tactile」「聴覚= Hearing」「視覚=Eye」「嗅覚= Smell」「味覚= Taste」の頭文字をとったものである。機能拡張していく際には、「今は視覚と聴覚のみだが、これから五感を刺激するような店舗体験を提供していく」(石川氏)としている。

リアルとメタバースの「境目」を見極めていく

 今回の実証で取り扱う商材はスマートトイだが、販売する商材によってリアルでの体験が必要なものとそうでないものがある。そこで今後は、リアル店舗とバーチャル店舗の境界線問題が出てくる。

 RaaSの本質は購買活動をEコマースやメタバースに移行させることではなく、購買体験や商品価値提供・販売の仕組みを高度化させることにある。その上で実店舗には面積の制限があるので、そこをいかにメタバースに拡張させていくか、もしくはその境目をユーザーに意識させない形にできるか――。RaaSビジネスにおいては、今後そこの見極めが大切になってくると稲川氏は話す。

 「Eコマースが始まって20年以上経つが、いまだサイバーとフィジカルの接点は不確実な状態にある。ビジネス的な観点では面積をとればとるほどお金がかかるので、そこを最小限にしてサイバーの場所を広げることで効率を上げることもできるし、デジタルパートを増やすことで、ユーザーの導線やマーケティグデータをより多く取れるようにもなる。そういった中で付加価値をつけていくにあたり、どこの分界点に境界線を置いて作っていくかというところで、われわれのサービスが役に立つ」(稲川氏)

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ドコモとしてのRaaSの意義を語る稲川氏

 その際の事業展開として稲川氏は、「サイバー側に動いていくことは前提としておきながら、揺り戻し的な実店舗販売側からの可能性も探っていく。これにより、真の意味でリテール分野のDXをめざせる」と構想を語る。さらにリアルとバーチャルの融合というTHE-STの仕組みは、店舗以外にもスタジアムや美術館などの箱物を作る土地がない都市圏の自治体の町おこしや、質屋やロケーションの悪い場所でお金をかけずに店舗運営をおこなっている商業系の事業者向けなどにも広く応用できるとの見方も示す。

 また、今後広がりが予測されるメタバースの文脈におけるRaaSという意味では、大きなサイバー経済圏のビジネスを司るひとつとして見ているという。それは、ドコモが示す仮想空間のコンセプトである「デジタイジングザワールド」の構築にもつながっていくものとなる。

 「われわれもいまバーチャル空間での新しい世界を作ろうとしているところだが、その中に行くまでは誰でも想像できる。VRデバイスを使って3D空間に入るところまでは見えているが、何をするのかというところが難しい。経営的な側面からも、どうやってマネタイズするかという話に必ずつながっていく。その際RaaSは、メタバース空間の中でお金が落ちる場所だと思っている。メタバースそのものは、街でいえば道路を作るようなものなので、街並みはこれからできあがっていく。その中のひとつをRaaSという形で作っていきたいと考えていて、その可能性を探っている」(稲川氏)

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 今後の展開としては、2022年内に数回、さまざまな体験型店舗での実証を経て事業性を検証し、本格的にサービスを開始する予定だ。実施にあたっては、ストアを設置したい店舗やそこに出店したいメーカーとの共創を模索しており、すでに複数の店舗・メーカーから問い合わせが来ている状況だという。引き続きパートナーも募っていくとしている。

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