「ドコモ MAX」「dアカウント」の不満にどう応える?--NTTドコモ前田社長インタビュー

 2023年に発生させた著しい通信品質低下の改善を進める一方、新料金プラン「ドコモ MAX」や「住信SBIネット銀行」の買収など攻めの施策を相次いで打ち出すNTTドコモ。だがそれらの取り組みは賛否を呼ぶものが多く、同社に対する批判の声も一定数存在するのは事実だ。

 そうした声をNTTドコモはどのように捉えて戦略を推し進めようとしているのだろうか。就任から1年を迎えた、代表取締役社長の前田義晃氏に話を聞いた。

社長就任から約1年を迎え、取材に応じたNTTドコモの前田氏 社長就任から約1年を迎え、取材に応じたNTTドコモの前田氏
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ネットワーク改善に注力、NTNは今後の備えに

 前田氏はこの1年を振り返り、5Gの基地局増設を中心として、ここ最近の最大の課題となっていた通信品質向上に「しっかり取り組んできた」と話す。実際、同社の5G基地局数は全国で前年から20%増加しており、中でも都市部の人口集中地域は前年から70%くらい増やしているという。

 その結果として前田氏は「スループットはだいぶ上がっている」と、全国平均で20%ほどスループットが上昇したと説明。英OpenSignalが公表した2025年4月のモバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポートでは、KDDIに後塵を拝しているとはいえエリアの広さでは依然優位性を確保しており、なおかつ5Gのダウンロード速度で“勝者”を獲得するなどの成果も出てきているという。

 ただそれでもなお、ネットワークに不満の声があることは確かだ。それだけに前田氏は「昨年度以上にスピード感を持って進めていきたい」と回答、今後も5G基地局の増設などを進め品質向上を図るとしている。

 一方でネットワークを巡っては、KDDIの「au Starlink Direct」の提供開始によってNTN(Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)に関する動きが激しくなっている。実際、前田氏も2025年5月9日の日本電信電話(NTT)決算会見で、NTTドコモも衛星とスマートフォンとの直接通信によるサービスを2026年夏に提供予定であることを明らかにしている。

 前田氏は衛星通信のパートナーは依然明らかにしていないものの、来年夏にサービスを始めるとの認識は変えていない。一方で、同社が力を入れているHAPS(High Altitude Platform Station)に関しては、通信試験の成功はしているものの実用に向けてまだ課題は多く、2026年度に予定している商用サービスも「一部地域、一部用途になると思う」と前田氏は話している。

 ただ前田氏は今後、費用対効果を考慮すると地上に基地局を設置してカバーするのが難しい場所が増えていくことから、空からエリアをカバーすることの重要性が一層高まるとの認識を示す。そうした時に実用的な通信環境を継続提供するためにも、HAPSなどへの取り組みはNTTグループ全体で取り組んでいくとのことだ。

新プランでシンプルさより付加価値を追求するのはなぜか

 一方で新たな課題、というより大きな賛否を呼んでいるのが「ドコモ MAX」などの新料金プランだ。とりわけドコモ MAXは、スポーツ映像配信の「DAZN for docomo」がセットになりお得に利用できる一方、割引の複雑さを指摘する声、そして特にスポーツに関心のない人達から内容に対する疑問の声が多く挙がっている。

 前田氏は「一番重視しているところは通信の顧客基盤。販促費はだいぶ減ったし、(2024年度)下期はMNP(番号ポータビリティ)でプラスになるなど成果は出てきているが、戦い続けなければいけない」と説明。そのためにはモバイル通信サービス収入の減少をいち早く底打ちさせ、その上で料金プランに機能やサービスを積み上げていける事業構造を構築していきたいという。

 一方で物価高などが進む昨今の経済状況においては、通信だけでなくさまざまな関連事業を展開することで、はじめて質の高い通信サービスを提供できるというのが実情だという。それだけに通信にかかるコストをどうやって吸収するかが求められいるといい、その上で次のように述べた。

 「単純な値上げをしていいのか? という思いでやっている。顧客に選んでもらえる価値を、あまり値段を上げずに乗せることで選んでもらう構造を作る必要がある」(前田氏)

 KDDIとは異なり既存プランの値上げはせずに、ドコモ MAXのように付加価値を合わせたお得感のあるプランを提供することで、料金を上げながらも顧客の満足感を高め、質の向上を図る考えのようだ。

 ただSNSなどでは、ドコモ MAXのような付加価値を重視するプランよりも、オンライン専用の「ahamo」のように、シンプルで分かりやすい料金プランほど高く評価される傾向にある。それだけにNTTドコモの新プランが打ち出した方向性が、顧客に受け入れられるかは不透明だ。

 だが前田氏は、「一定の価格を上げないといけないと考えたとき、料金をシンプルにして価格を上げるのは難しい」とも話す。シンプルなプランほど値上げがダイレクトに影響してしまうことから、通信事業で利益を出すのが難しくなっている現状では付加価値に重きを置いたプランに注力し、その理解を求めていく方針のようだ。そのためにも「スポーツファンだけではない部分も取り込む努力をしている」と前田氏は話し、今後DAZN for docomo以外のサービスを付加する可能性を示唆している。

銀行買収で浮上、SBI証券とdアカウントへの懸念にどう応えるか

 新料金プランとともに、ここ最近大きな話題と課題をもたらしているのが、2025年5月29日に発表した住信SBIネット銀行の子会社化だ。NTTドコモは金融事業の強化に向け2024年にマネックス証券とオリックス・クレジット(現在はドコモ・ファイナンス)を子会社化しているが、ついにその中核となる銀行の取得に目途をつけたこととなる。

 前田氏は銀行を切望した理由について、多くの顧客が利用しており一定の信頼を獲得している携帯電話事業と、金融・決済事業のシナジーが大きいことが背景にあると話す。それだけにいま、金融・決済関連の事業には特に力を入れているという。

 中でも大きな成果が出ているのが2024年に提供開始した「dカード PLATINUM」で、既に70万契約を突破しており、その7割が「eximoポイ活」などのいわゆる“ポイ活”プランに加入しているとのこと。前田氏も「3桁万はだいぶ視野に入った」と話すなど、非常に好調な様子を示している。

 だが一方で、今後金融事業を今後拡大していく上では、基本機能の銀行口座がないままのサービスには不足感があったと前田氏は話している。携帯4社が自社系列のサービスに顧客を囲い込む経済圏競争を繰り広げる中にあって、NTTドコモだけが銀行を保有していないことが不利に働くとの判断もあったようだ。

 しかしながら住信SBIネット銀行の買収発表後、さまざまな課題も聞こえてくるのは事実だ。その1つはSBIホールディングス、さらに言えばこれまで、住信SBIネット銀行と密に連携していたSBI証券との関係だ。

 先にも触れたように、NTTドコモはマネックス証券を既に傘下に持つが、SBIホールディングスの代表取締役会長兼社長である北尾吉孝氏は、NTTドコモに住信SBIネット銀行の株式を売却する際、SBI証券とマネックス証券とを公平かつ公正に扱うことに合意したと話している。このことは、NTTドコモが自社サービスを優遇して顧客獲得につなげる経済圏ビジネスを展開する上で不利なように思える。

 ただ前田氏は銀行買収が経済圏ビジネスで重要な存在となる一方、「住信SBIネット銀行の企業価値が高まらないといけない」とも話している。住信SBIネット銀行はSBI証券との連携によって成長してきた部分も大きいだけに、「我々が入って、マネックス証券があるからといって、それを切れるかというと切れる訳がない」というのが前田氏の考えのようだ。

 それだけに前田氏は、今後マネックス証券とSBI証券の双方の顧客にとって使いやすく、メリットのある施策を展開していくとしている。そのマネックス証券に関しても、時間はかかっているが店頭での訴求などで徐々に連携を強めているそうで、住信SBI銀行との連携ができるようになればよりポジティブな影響を与えられるとの認識も示している。

 そしてもう1つ、課題となるっているのがNTTドコモの「dアカウント」との連携に関する不安だ。住信SBIネット銀行はオンライン専用の銀行として、アプリやサービスのインターフェースなどがしっかり整備され使い勝手がよいことが高く評価されている一方、dアカウントは認証の複雑さや不便さ、そして回線契約の有無などによって生じるトラブルなどが数多く指摘されており、とても評判が良いとは言えない状況にある。

 それゆえ今回の買収によって、今後住信SBIネット銀行の利用にdアカウントとの連携が求められ、それが原因で利便性の低下やトラブルが生じる可能性を懸念する声は多い。それだけに前田氏も、dアカウントの認証部分で生じている不満や分かりにくさは「順次直しに入っている。ここは期待頂きたい」と話すほか、回線契約に関連して生じているトラブルについては「基幹系の話となるため時間がかかる。来年度中には何とかしたい」と回答。解消に向け取り組んでいることを示している。

 また住信SBIネット銀行との連携に関しても、住信SBIネット銀行側と検討を進め、分かりやすく使いやすいインターフェースを構築していく方針とのこと。SBI証券との連携と同様、既存顧客の利便性を下げないことには配慮していく考えのようだ。

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