スマホ漬けの現代人に捧ぐ、「24時間ネット断ち」で気づきを得た話

Amanda Kooser (Special to CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2025年03月10日 07時30分

 筆者は、ニューメキシコ州アルバカーキに近いサンディア山脈の尾根に立っていた。周囲はピニョンマツや赤いマツの木に囲まれ、下生えの間を動き回るユキヒメドリのさえずりが聞こえてくる。そんな美しい冬景色の中で、筆者のスマートフォンから通知音が鳴った。そしてまた鳴る。バイブレーターが振動し、アラートが響く。

車のボンネットで地図を広げる人 提供:Amanda Kooser/CNET
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 友だちが「Instagram」のリンクを送ってくれたのだ。「Uber Eats」からは、割引のお知らせが届いている。スーパーマーケットのTargetは、洗剤製品のクーポン券を送ってきた。自宅のドアベルカメラ「Ring」の前を誰かが通ったようだ。もうたくさんだ。これで、ふんぎりがついた。こうなったら、静寂の1日、インターネットを使わない日というものに挑むしかない。自分にできるのだろうか。楽しめるだろうか。

 決行日は、スーパーボウルが開催される前の土曜日に決めた。最初は、期待で心が弾んだ。ひっきりなしに邪魔されたりしない。ニュースもない、メールもない。素晴らしいじゃないか。だが、その次には、他に制限される多くのことに気が付く。防犯カメラからの警告は届かず、最新の交通情報も確認できない。里ネコのいたずらをリモートで監視できなくなり、コメディ番組「Eastbound & Down」の配信も見れない。そういうわけで、筆者は期待半分、不安半分でインターネットなしの1日を迎えることになった。

  1. ネット断ちの基本ルール
  2. ネット断ちを実験した1日
  3. 「Googleマップ」が恋しい
  4. 動画配信サービスなしの夜
  5. 実験の影響
  6. ひとまず通知を止めてみよう

ネット断ちの基本ルール

 インターネットは筆者の生活に浸透しきっているので、それを使わない1日がどんなものになるのか、細かく調べておく必要があった。子どもの頃の生活を思い出してみる。ダイヤル電話が消えかかっていた頃だ。両親は予定を壁掛けのカレンダーに書き込んで管理していたし、ドライブを計画するときには紙の地図を広げていた。ネット断ちの実験はいわば、タイムトラベル、遠い昔への再訪になりそうだ。だとしたら、音声電話はありにしよう。それ以外は一切なしだ。

 決行日前夜の午後10時30分に、筆者は以下の行動を済ませた。

 T-Mobileの「Home Internet」ゲートウェイをコンセントから抜く:これで自宅のインターネットは停止した。「Alexa」対応デバイスも、テレビの動画配信アプリも、Ringドアベルカメラも、Wyzeの防犯カメラもすべて止まる。コンピューターのWi-Fiも、サーモスタットも、スマートプラグも落ちた。T-MobileのHome Internetのある生活には、しばしのお別れだ。

T-Mobileの「Home Internet」ゲートウェイ 提供:Amanda Kooser
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 「フォーカスモード」をオンにする:手元の「Android」スマートフォンで、入っているすべてのアプリを確認し、「フォーカスモード」のリストに追加した(「Digital Wellbeingと保護者による使用制限」設定の中にある)。ただし音声電話だけは例外扱いとし、発信も着信もよいことにする。だが、スマートフォンで使っていいことにしたのはそれだけだ。テキストメッセージのやり取りも禁止する。

ネット断ちを実験した1日

 ネットを使わない1日の滑り出しは順調だった。インターネットに接続しない目覚まし時計を持っているので、予定どおりに起床した。いつもなら、メッセージに返信したり、政治ニュースや「Facebook」のイベント、「Reddit」のアルバカーキに関するサブフォーラムに目を通したりするところだが、この日は朝のコーヒーを飲みながらLouise Penny氏のミステリー小説を読んだ。平穏に満たされたひとときで、日課のようになっていたデジタル習慣に関わる心配はなくなっていた。

 一日中、そのまま家にいて本を読んでいれば簡単だっただろうが、インターネットなしの1日という意味を真に理解するには、やはり外の世界に接する必要がある。筆者は夫と一緒に、不要品や遺品を売ってくれる家を探しに出かけることにした。前の日に、住所一覧を作っておいたのだ。午前中に、2002年版の古い道路地図帳からアルバカーキの地図を取り外した。通知の来ないスマートフォンを持ち、希望的観測を抱いて、出発だ。

開かれた地図 提供:Amanda Kooser
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「Googleマップ」が恋しい

 夫が運転する横で道案内係を務める筆者は、住所録を確かめながら、地図の小さい字に目を細めては、地図上のグリッドをたどった。最初の2軒までは順調に進んだ。3軒目は市外で、地図に載っていないエリアだったので、いささか厄介だった。インターネットがないために最初に遭遇した真の障害は、州間高速道路40号線が工事のせいで渋滞していたことだ。交通情報の通知を使えないので、40号線を降りて、代わりに旧国道66号線に乗る。

車窓からの景色 提供:Amanda Kooser
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 その後も、間違った場所で曲がってしまい、しばらく無駄に道に迷ったあげく、ようやく解決策を思いついた。不要品を販売している家に電話をかければいいのだ。連絡先を書きとめておいた昨日の自分たちを褒めてあげたい。先方は地図をメッセージに添付して送ると言ってくれたが、それは断った。代わりに、昔ながらの方法、つまり口頭で説明してもらうというやり方をとることにした。

 うまくいった。説明に従い、蛍光グリーンのいくつかの標識を頼りに進むと、人里離れたやや田舎の地帯でその家が見つかった。筆者は、ヴィンテージもののガラス製ゆで卵用皿を数ドルで買うことができた。夫と一緒に、近くの山村を散歩し、景色を満喫してから、州間高速道路を避けて家路につく。

動画配信サービスなしの夜

 筆者は動画配信サービスにはまっているわけではない。通常、サブスクリプションは同時に1つか2つと決めている。今は、「Prime Video」と「Max」を利用中だ。Maxは割引期間中なので、その期間が終わる6月までに解約できるように、興味のあるコンテンツを準々に消化している。その配信が見られないので、エンターテインメントを楽しむ古典的な方法を選んだ。地上波のテレビ番組である。

 チャンネルを切り替えていると、子ども時代の記憶がよみがえってくる。有料番組、刑事ドラマ、ショッピングチャンネルをひととおり回してみた。「つまらない」と思ったが、オンラインのテレビ番組ガイドは調べられない。ひたすらリモコンのボタンを押してチャンネルを切り替えるだけだった。

 Bruce Springsteenが「チャンネルは57もあるのに、見たいものは何もない」と歌ったとおりで、結局は古い西部劇映画のチャンネルに落ち着いた。早撃ち役のWillie Nelsonが怒り顔で町を歩き回っている。ほとんどの時間は、ジグソーパズルをしながらやり過ごした。

 Willie Nelsonの映画が終わると、故Kenny Rogersが出演する映画に替わった。テレビは早々に切り上げ、ネコと遊び、本を読んでからベッドに入った。スマートフォンはただの文鎮と化して、ベッドサイドテーブルの中にしまわれている。いつもと違う夜だが、インターネットのない1日の最後としては申し分のない終わり方だった。

実験の影響

 丸一日インターネットを使わない生活でいちばん良かったのは、こまごまとした中断が入らないことだった。注意を逸らすちょっとしたこと、つまり玄関先の防犯に関する警告、店の宣伝、削除しなければならないメールなどである。静かさをあまりにも満喫したので、T-MobileのHome Internetゲートウェイは日曜日の午前中まで電源を入れなかった。実験を始めてから36時間だ。

 置き配泥棒などの軽犯罪が多いこの時代に防犯カメラをオフにするのは心配だったが、1日なら問題はなかった。だからといって、永久にオフのままにしたいとは思わない。代わりに、Ringカメラのモーション検出機能はリセットした。車や犬を散歩させる人が通るだけで警告が届くのを減らすためだ。スマートホームの煩わしいカメラの警告を減らすヒントが書かれた記事を参考にした。

 筆者が気づいた大きな点は、ふと思い浮かんだことをすぐに検索するなど、自分が軽い気持ちでスマートフォンに手を伸ばすことが、いかに多いかという事実だった。Costcoのベーグルの袋についている留め用テープは、どうやったらきれいに外せるのか。Whole Foodsではキングケーキを売っているか。「Rainbow in the Dark」は誰の楽曲だったか。そういった質問の答えがすぐに得られなくても平気だった。

 確かにベーグルの袋には苦労させられたが、それでかまわない。スマートフォンでGoogle検索する代わりに、自分でなんとか考えた。景色も楽しんだ。ニューメキシコにロードトリップしたときのことをめぐって、夫と会話もした。ごく短い時間とはいえ、デジタルという支えがない状態で、人生を楽しんだのだ。

ひとまず通知を止めてみよう

 ネットを離れた1日から、筆者はこれから活かせる教訓をいくつかつかみ取っている。通知については、以前よりいさぎよく割り切れるようになった。Uber EatsもTargetも、それからRingの近隣地域の防犯に関する通知機能も、悪いが、お払い箱だ。天気予報、テキストメッセージ、カレンダー通知は、まだ残ってもらおう。

 今は、大したことがない用事でもすぐにスマートフォンに手を伸ばしてしまう癖を見直そうとしている。フォーカスモードの機能の使い方がすっかり分かったので、これで存分に活用できる。山の上では、静かな時間を過ごすことができる。通知の代わりに聞こえてくるのは、樹上にいるリスの鳴き声だけだ。

 筆者は早くも、インターネットなしで過ごした1日を懐かしく感じ始めている。車の中で、目的地を見つけられるかどうかもよく分からないまま、そもそもそれが重要かどうかさえ気にせず、ラジオから流れてくるクラシックロックに耳を傾けた楽しい時間が、美しい記憶になっている。

 インターネットが使えていたら、スムーズに移動できていただろうし、もっと効率的な1日を過ごせたかもしれない。だが、特に困ることはなかった。目的地になんとか辿り着けたし、自分たちで娯楽を楽しむことができた。土曜日の間に筆者がメールに返信しなかったせいで、世界が終わるということもなかった。毎日更新される単語ゲームの「Wordle」すらプレイし忘れたくらいだ。

 インターネットは筆者にとって便利なもので、その部分は今でも大好きだ。ただ、いかなるときにも傍らにいて、延々と耳元で何かささやいてもらう必要はない。

 ということで、心から勧めたい。ときには、インターネットを使うのを止めてみよう。1日でいい。数時間でもいい。紙の地図を手に、ドライブに出かけよう。地上波で昔の映画を観よう。インターネットは逃げたりしないのだから。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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