「dアカウント」は電話番号の縛りから完全脱却できるか--トラブル発生の背景とは

 携帯電話会社のサービスを利用する上で、必要不可欠なのがアカウント。かつてはアカウントと電話番号が一体となっていたが、現在の携帯電話会社は金融やコンテンツなど、非常に幅広いサービスを提供している。

 また、それらの多くは携帯回線の契約がなくても利用できる。自社回線以外のユーザー向けに電話番号とは別のアカウントを用意しており、NTTドコモの「dアカウント」、KDDIの「au ID」などがその代表例だ。

 しかし、携帯電話会社のアカウントと回線契約との関係は非常に複雑で、一見別々であるように見えて内部的には完全に分離されていないことも多い。それが原因でトラブルに至るケースもあるようだ。

  1. 「統合」がトラブルに--原因は?
  2. 「アカウントと電話番号の完全分離」が難しい理由
  3. ソフトバンクと楽天の場合は

「統合」がトラブルに--原因は?

 代表的な事例に挙げられるのが「dポイント」の会員基盤「dポイントクラブ」の会員統合で生じる問題だ。NTTドコモは1つのdアカウントに1つのモバイル回線契約が紐づくため、1人で複数の回線を契約するとdアカウントも複数持つこととなる。そのため、dポイントが別々に付与されてしまうなどの不都合が生じる。

 そこで、NTTドコモは自社回線を複数契約しているユーザーに対し、同社の会員基盤である「dポイントクラブ」の会員を統合する仕組みを提供している。複数回線のdアカウントを同じ会員のものとして統合することで、ポイントの統合などが可能になるほか、ポイント付与に影響する「ステージ」のランクが上がりやすくなるなどのメリットが生まれる。

 だが、会員統合はNTTドコモ回線を持っていることが前提となっている。統合した契約回線の一部が番号ポータビリティで転出するなどして、回線契約のないアカウントが生じることを想定した設計とはなっていなかったようだ。複数回線を利用している人が一部回線を転出した結果、他の契約回線の手続きができなくなるなどトラブルが生じるケースが何度か報告されており、原因の特定と解決に時間を要することもあって同社への不満を高める要因となっている。

「アカウントと電話番号の完全分離」が難しい理由

 なぜ、携帯電話回線とサービスのアカウントを完全に分離するのが難しいのか。そこには携帯電話会社が純粋なインターネットサービス会社とは違い、自社のモバイル通信を前提としたサービスを長く提供してきたことが影響している。

 実際に、参入時期が新しい楽天モバイルを除くとかつての「iモード」に代表されるように、フィーチャーフォン時代からサービスが自社回線と紐づいていることが多かった。サービスの利用や決済などの認証にも、自社回線で接続し、なおかつ4桁の暗証番号を入力することで認証する仕組みが長らく用いられてきたのだ。

 だが、スマートフォンで接続回線を問わないインターネットを基盤としたサービスの利用が増えたこと、そして少子高齢化で携帯電話市場自体が飽和してきたことから、携帯各社は通信事業に依存しないビジネス開拓のため、他社回線利用者にもサービスを提供するようになった。そこで必要になったのが回線契約に紐づかないアカウントの導入である。

 実際にNTTドコモは、2010年からdアカウントの前身となる「docomo ID」を開始。当初はiモードの認証基盤をオープンなウェブサービスで用いる仕組みだったが、2013年には「dビデオ」(現「Lemino」)や「dアニメストア」など、同社が提供するオンラインサービスのオープン化を進めるべく、docomo IDのオープン化を本格化している。

 さらに2015年には、携帯電話契約者向けポイントプログラム「ドコモポイント」をdポイントとして共通ポイント化するとともに、現在のdアカウントへ形を変えた。そして2018年には回線契約からdポイント、ひいてはそのベースとなっているdポイントクラブへと会員基盤を移すことを発表。現在はdアカウントがモバイル通信も含めたサービスの認証基盤として用いられている。

 KDDIのアカウントである「au ID」も、元々は「au」ブランドの回線契約者に向け2007年に提供された「au one ID」がベースとなっている。それを2019年に、他社回線利用者でも使えるようオープン化するべくリニューアルしたのが現在のau IDとなる。

 そして、これらのアカウントは、いずれも回線契約を前提としたシステムの上に、オープン化の仕組みを後付けしている。そのため、自社回線の契約や接続に認証が依存している部分がある。多くの人達がそれを実感するのが各社のモバイル通信サービスのオンライン手続きをするウェブサービスにアクセスする時だろう。

 現在はそうしたサービスへアクセスする際に、生体認証などを用いた「パスキー」を活用する動きが進んできている。だが、それでも回線接続を前提とした認証が要求されるケースがあり、ログインのため一時的にWi-Fiの接続を切るよう求められた経験のある人は多いのではないだろうか。

 自社回線とその契約情報を用いた認証の仕組みは、顧客が利用しやすい上にセキュリティも守りやすいなど、実は携帯電話会社の視点に立つと良いことづくめの仕組みでもある。それだけに回線をベースとした認証基盤を完全には捨てきれなかったといえるが、その基盤をベースにしたままサービスとアカウントのオープン化を進めた結果、さまざまなひずみが生じている。先のdポイントクラブ会員統合のような問題を引き起こすことにつながっているのだろう。

ソフトバンクと楽天の場合は

 では他の2社はどうなのか。ソフトバンクは元々携帯電話サービスと、LINEヤフーの「Yahoo! Japan」「LINE」、PayPayの「PayPay」といった主力サービスが別々に発展した経緯がある。同社も自社回線を用いた認証を提供してはいるものの、モバイル回線の「Softbank ID」とサービスのIDが一体とはなっておらず、仕組みに無理が生じていないことからアカウントを巡るトラブルはあまり見られないようだ。

 また、楽天モバイルは参入自体が2019年とごく最近で、元々回線に依存していない楽天会員のIDをベースとしている。2社と比べると仕組みに無理がなく、同種の問題は生じにくいと考えられる。

 既にメインとしてのモバイル通信の回線契約を大きく増やすことは難しくなっているが、一方で今後はデュアルSIMの仕組みを利用したサブ回線の利用が増えることが想定される。そうなれば必ずしもスマホで自社回線が常に利用されるとは限らない。モバイル回線のあり方が複雑となっていく今後、回線契約をベースとした認証の活用は非常に難しくなってくるだけに、携帯各社には回線契約とサービスのアカウントを完全に分離するシステム刷新が求められるだろう。

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