多くの人にとって、今の「Siri」は「iPhone」の音声アシスタントだ。しかし将来のSiriは、Appleのさまざまなデバイスをハンズフリーで制御するための手段になるだけでなく、それよりもはるかに重要な存在になるかもしれない。Siriには、スマートグラスやホームディスプレイなどを含む未来のApple製品を繋ぐ役割を果たし、Appleが再びiPhoneに匹敵する大ヒット製品を再び生み出せるかどうかを左右する重要な技術へと進化する可能性がある。
音声で操作できるガジェットは昔からある。そもそもSiriがiPhoneに搭載されたのは13年前だし、AmazonやGoogleも、家電製品に言葉で話しかけるという行為を、単なる未来的な(そして少々馬鹿っぽく見える)コンセプトではなく、人間の手間を省ける実用的な操作手段にすることに成功している。
ところが、この2年間で大きな変化が起きた。生成AI(学習データに基づいてコンテンツを作成し、対話的に受け答えができるAI)が、パーソナルアシスタントを次の時代に導こうとしているのだ。最近では、音声アシスタントが音声や、画像や、テキストの情報に基づいて推論する能力が高まっており、今後は単純に質問に答えを返すだけのボットではなく、会話型インターフェースに進化する可能性がある。
では、そのことはSiriにとって何を意味するのだろう。生成AIの進歩によって、私たちが普段使っているスマートフォンやノートPC、タブレットのインターフェイスに音声が使われることが増え、今後はタッチ操作の重要性が下がっていくという見方があり、この変化はまったく新たな種類のデバイスを生み出す可能性がある。つまり、Siriは今後、Apple製品全般の重要なタッチポイントになるかもしれないということだ。そうなれば、Siriの成長はこれまでよりもはるかに重要な意味を持つようになる。これは、AppleがOpenAIやGoogleの勢いに付いて行けるのかというだけの話に止まらない。Siriの成長が、未来のApple製品の売れ行きに大きな影響を与えることもあり得るわけだ。
Siriは、AppleがiPhoneや「iPad」「Mac」向けに提供する新たなAI機能群「Apple Intelligence」の重要な構成要素だ。Siriは今後、スマートフォンに保存されている個人の関連情報を利用して、そのユーザーにより適した答えを返せるようになるだろう。例えば、スマートフォンの画面に表示されているコンテンツに基づいてアクションを起こせるようになるかもしれない(Googleのパーソナルアシスタント「Gemini」は、すでにこの機能を「Android」で実現している)。またSiriは、Apple製品に関する最新情報を持っているため、技術的なサポートを提供することもできる。
ただし、今のスマートフォンに搭載されている新しいAI機能(Apple IntelligenceやAndroidベースのサービスを含む)には、何かを根本的に変えたり、大きな意味があると感じさせたりするものはない。しかしiPhoneでは、Siriがその状況を変えてくれるかもしれない。筆者の考えでは、スマートフォンに搭載されるAIに最も期待されているのは、デバイスに保存されているデータや写真、動画、アプリや通知の情報を利用して、必要に応じてユーザーに適切な情報を提供することだ。Apple Intelligenceが将来どのような機能を提供するかを知っているのはAppleだけだが、今のアプローチは、Siriがそちらに向かう可能性があることを示している。
ただし、Apple Intelligenceは始まりにすぎない。Bloombergの報道によれば、Appleは、スマートグラスや壁掛け型スマートホームディスプレイといった、音声入力に大きく依存した新カテゴリーのデバイスに取り組んでいるという。Appleは、Metaの「Ray-Ban Metaスマートグラス」に対抗できるスマートグラスの投入を検討していると報じられている。Metaのスマートグラスは、装着者が見ているものについての質問に回答できる。
もしAppleが同じような製品を発売するとすれば、Siriがそのデバイスの機能に大きな役割を果たすことは火を見るよりも明らかだ。Siriの回答の品質が、そのスマートグラスの有用性を大きく左右することは言うまでもない。
また、Appleが参入を模索していると言われる分野がもう1つある。それはスマートホームだ。Bloombergによれば、Appleは、SiriとApple Intelligenceを使ってホームデバイスを管理したり、アプリを制御したり、「FaceTime」の通話ができたりする壁掛けディスプレイを開発中だという。記事では、このデバイスには、音声でのやりとりを前提として設計された、iPhoneの「スタンバイ」モードと「Apple Watch」の「watchOS」のインターフェースを組み合わせたものに似たソフトウェアが使用されると述べている。このことだけでも、Siriがこのデバイスの中心的な役割を担う見込みであることが分かる。
こうした新製品の成功は、2つの理由から極めて重要だ。第1に、AI競争ではOpenAIとGoolgeがスポットライトを独占しており、AppleのAIに対する取り組みが注目を集めている。そして2番目の理由は、Appleのウェアラブル部門やデジタルサービス部門が、同社にはiPhoneには依存しない新たな成長領域があることを証明し、スマートフォン事業の売れ行きが不安定な時期にも投資家を満足させるという重要な役割を担っていることだ。
Bloombergが報じたような現在開発中の新たなデバイスは、その両方の分野で成長に大きく貢献するだろう。例えば、スマートグラスは「AirPods」の進化形だと考えることもできるし、スマートホームディスプレイは「Apple Music」などのデジタルサービスの強化に貢献する可能性がある。
実は、AppleがSiriを中核とした新製品を開発するのはこれが初めてのことではない。同社は、AmazonやGoogleのスマートスピーカーに対抗して、2018年に同社初のスマートスピーカーである「HomePod」を発売した。この製品は、他社が当時提供していた製品よりも優れた音質でユーザーを魅了することを目指していた。ところが、HomePodは両社の製品のようには売れなかった。一番の問題は、AppleのスマートホームプラットフォームやSiriが劣っていたことだった。
Appleは、次の挑戦でも同じ失敗をするわけにはいかない。そのためには、新しい製品カテゴリーに組み込まれる前の今の段階で、Siriの能力を高め、拡大することが望ましい。Bloombergの報道によれば、それがAppleが今やっていることだ。同社は、言葉による双方向のやりとりを扱える、より対話的なSiriに取り組んでいるという。
ただし、Appleが越えなくてはならないハードルはかなり高い。Apple Intelligenceやスマートグラス、スマートホームディスプレイがうまく機能するだけでは十分ではないからだ。Apple製品の特徴は、エコシステムやハードウェアとソフトウェアが一体となって質の高い体験を提供することにあり、同社はそのことに頻繁に言及し、それを誇りにもしている。もし、バーチャルアシスタントが単にOSの操作を便利にするだけに止まらず、OSそのものになる方向へ向かっているのであれば、Siriは補助的な存在ではなく、基盤そのものを形成する存在になるだろう。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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