携帯大手3社の第2四半期決算が発表された。
NTTドコモが増収減益、KDDIとソフトバンクが増収増益と明暗が分かれている様子だ。その要因を探ると、各社が主力としているモバイル通信事業にあるようだ。
3社はいずれも、政府主導による携帯電話料金引き下げの影響を強く受け、長きにわたってモバイル通信事業の減収に苦しんでいた。
だが、KDDIとソフトバンクはいち早く回復して増収に転じている。2024年度第2四半期の決算でも、KDDIのマルチブランド通信ARPU収入は前年同期比46億円増の7427億円、ソフトバンクのモバイル売上高も前年同期比で122億円増の7888億円と、いずれも増収となっている。
その一方で、2024年度第2四半期におけるドコモのコンシューマ通信の営業収益は、前年同期比で208億円減の1兆6485億円と減収トレンドが続いているようだ。モバイル通信サービス収入に限れば354億円減と、今なお通信料収入の落ち込みが続いていることが分かる。
一体なぜ、ドコモだけがモバイル通信の売り上げを回復できていないのか。その理由は低価格プランの「irumo」にある。
携帯各社のブランド・プランは現在、大きく分けると3つに分かれている。1つ目は、月額料金は高いがデータ通信量が使い放題であるなど付加価値が大きいサービスを提供するメインブランド(プラン)であり、「eximo」「au」「ソフトバンク」が該当する。
2つ目は、付加価値が少なく通信量も少ないが、その分値段が大幅に安いサブブランド(プラン)であり、「irumo」「UQ mobile」「ワイモバイル」が該当する。
そして3つ目がオンライン専用プランで、「ahamo」「povo」「LINEMO」が該当するのだが、オンライン専用プランは契約数が少ない、あるいは特殊な要素も多いことから、業績に大きく影響するのはメインとサブの2つと見ていいだろう。
そしてKDDIがUQ mobileを、ソフトバンクがワイモバイルを提供したのは政府主導の料金引き下げが進められた2021年より前であり、両ブランドとも既に1000万以上の契約を獲得している。実際に2024年7月18日には、UQ mobileの契約数が1000万を突破したとKDDIが発表しているし、2024年8月6日にはワイモバイルの契約数がおおむね1200万に達したことを、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏が明らかにしている。
一方で、ドコモは低価格のサブブランドを提供することに長らく消極的で、2021年には、特定のMVNOの回線をドコモショップで販売する「エコノミーMVNO」を展開するなど、UQ mobileやワイモバイルの対抗にはNTTドコモ回線を使用するMVNOを活用する方針を続けてきた。だが、ドコモのブランドや、店舗での手厚いサポートを求める顧客のニーズにこの方針がマッチせず、低価格帯での顧客流出が続いていた。
そうした状況に危機感を抱いたドコモは、2023年7月1日に料金プランを刷新。使い放題プランの「eximo」と、同時に低価格プランの「irumo」の提供を開始した。irumoはドコモの料金プランながらドコモショップでのサポートが受けられる、サブブランドに近い位置づけのプランということもあって、従来プランから多くの人が乗り換えるなど現在も高い人気を獲得している。
だが、irumoは月額料金が安いので、かつての「ギガホ」などから古いプランからirumoに乗り換えられてしまうと通信料収入は減ってしまう。無論そうした問題は、KDDIやソフトバンクもサブブランドの提供で経験してきたが、ドコモはirumoの提供時期が遅かったために、現在進行系でその苦しみを味わっている。それが業績回復の遅れに直結している訳だ。
irumoへの移行が一巡するまで業績の回復は見込みにくいのだが、意外とその時期は短くて済むかもしれない。というのもコロナ禍以降、動画視聴の定着などによってデータ通信需要が大幅に高まっており、消費者の側がより通信量が大きいプランを求めるようになってきたからだ。
実際に今回の決算において、ドコモは旧プランからirumoではなく、eximoに移行する割合が60%にまで高まっていると説明。eximo・irumoに移行したユーザーの平均単価も対前年比で40~140円上がっているとのことで、より料金が高いeximoや、irumoの中でも通信量が多い上位のプランを選ぶ人の割合が増えているとしている。
そうしたことが影響してか、今四半期におけるNTTドコモのモバイル通信ARPU(1ユーザー当たりの平均売上額)は3910円と、前四半期と変わらない水準で維持。ようやくARPUの下げ止まりも見えてきたことから、irumoの影響を徐々に脱し本格的な回復フェーズに入る可能性も高まっている。
ただ、NTTドコモが現在問題視しているのは、通信料収入の減少よりむしろ契約数の減少であるようだ。同社は国内携帯電話市場でトップシェアを誇るものの、長きにわたって契約数を減らしているのが実情だ。
しかし、人口に限りがある上に少子高齢化が進む日本において、契約数を増やして通信料収入を大きく伸ばすこと自体が非常に難しくなってきている。そこで各社は携帯電話の顧客基盤を生かして金融や電力、コンテンツなどのサービスを提供し、付加価値で売上を伸ばすことに重点を置くようになった。
そこで重要となるのは顧客基盤を維持することで、顧客基盤をこれ以上減らすと付加価値によるビジネスの拡大も難しくなる。ドコモは近年、顧客基盤強化に積極的な投資を実施。販売チャネルの強化はもちろんなのだが、2024年10月からahamoの通信量を20GBから30GBに増量するという実質値下げをしたことも、ある意味でその一環と言える。。
それらの施策は、若年層の番号ポータビリティ(MNP)による転入増加につながるなど成果を出しつつあるようだが、一方で積極的な投資は業績回復の遅れにもつながってくる。
ドコモは2023年に大幅低下した通信品質の回復という課題も抱えているだけに、irumoの影響から回復してもなお、業績の完全な回復にはまだ時間がかかる可能性が高いのではないだろうか。
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