クルマが「自宅の延長」に--BMWの最新EVに見る車載AIのこれから

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2024年11月11日 07時30分

 筆者は今、最新の「BMW i5」の助手席に座っている。運転席では、Qualcommのオートモーティブ部門でグループゼネラルマネージャーを務めるNakul Duggal氏が、ダッシュボードに広がる巨大なディスプレイでエアコンの設定を調整している。

2025 BMW i5
提供:Katie Collins/Viva Tung/CNET

 この自動車は、BMWのラインアップの中でも最新の電気自動車(EV)モデルである「2025 BMW i5」だ。Qualcommのチップテクノロジーによって、スマートカーをロボットが搭載された単なる自動車にとどまらない存在にするという同社のビジョンを披露するために登場した。

 Duggal氏は車内での独占インタビューで、「この自動車にはセンサーが500台ほど搭載されていて、いろいろなものを測定できるようになっている」と筆者に語った。同氏によると、今後、自動車はデジタルライフの一部となり、「自宅の延長」になっていくという。

2025 BMW i5車内の画面
車載カメラには多くの用途がある。セルフィーもその1つだ
提供:Katie Collins/CNET

 2025 BMW i5には、ハワイで開催されたQualcommのイベント「Snapdragon Summit 2024」で発表された自動車向け人工知能(AI)テクノロジーがすべて搭載されているわけではない。搭載されていたとしたら、Duggal氏と筆者がマウイ島の暑さに苦しんでいることを認識し、冷風を思いっきり当てなければならないということに気づいただろう。同氏が指をさして見せてくれた頭上のカメラで、私たちが目に見えて汗をかいていたことも判別できたかもしれないし、車体の内外に設置されたセンサーによって、真昼の太陽が輝く環境から乗車してきた2人にとって車内の温度が適切ではないことも必ず教えてくれたはずだ。

 10月に開催された同イベントで、Qualcommは「Snapdragon Ride Elite」と「Snapdragon Cockpit Elite」という2つの自動車向けプラットフォームを発表した。向こう1年で、Mercedes-BenzやLi Auto(中国のEVメーカー)などの自動車メーカーは、これらのプラットフォームを使用して、AIを活用する次世代の運転支援と車内体験の構築に取り組んでいくだろう。

 そうした体験は、自動車の安全上の問題を見つけて、必要なメンテナンスを特定し、カレンダーで予定が空いている日を見つけて修理を予約する、といった機能的なものになるかもしれない。一方で、遊び心のある機能も追加されるかもしれない。同イベントで、Li Autoは運転中の風景の写真を撮影して、その画像をVan Gogh(ゴッホ)風のアート作品に変える機能のデモを披露した。

 Qualcommの最高経営責任者(CEO)、Cristiano Amon氏が同イベントの基調講演で述べたように、近ごろでは、同社と提携していない自動車メーカーを探す方が難しい。このことから、AIによって実現されるこうした便利な機能は消費者の購入判断に不可欠な要素であると、自動車メーカー各社が大きく賭けていることがうかがえる。

AIと一緒にドライブ

 Duggal氏はLi Autoのデモの結果について、「素晴らしい」と評した。自動車メーカー各社がSnapdragon Ride EliteとSnapdragon Cockpit Eliteを導入したときに、一番活用してもらいたいAI機能は何かと尋ねたところ、同氏は、自動車の内側と外側の世界を橋渡しするこのような創造的な体験を挙げた。

 「旅行に行ったり、休暇をとったり、家族と過ごしたりすると、思い出がたくさんできるが、そうした時間を記録するのは非常に難しい」。同氏によると、移動中の特別な瞬間を記録して、後のために残したいかどうかユーザーに尋ねる機能を自動車に追加するのは、簡単だという。

美術館の開館時間やチケット予約に関する情報が表示された様子
美術館の開館時間やチケット予約に関する情報が表示されている
提供:Katie Collins/CNET

  Duggal氏によると、生成AIの素晴らしい点は、「機械が人間と話すことをついに可能にした」ことだという。

 車両に搭載されたAIが持ち主のことを理解するまで、何度かの質問を経る必要があるだろう。例えば、同じことを繰り返すのが好きなのかどうかを確認して、通勤時に毎回同じプレイリストを再生したり、会社へ向かう途中にコーヒーを買いにお店に立ち寄るのが好きかどうかを確認して、お気に入りのコーヒーショップを通る経路を案内したり、といったことが可能だ。「ユーザーも会話に参加することになる。何かが起きて、それを気に入ったら、その行動をまたしたいと思うような、学習のようなものだ」(Duggal氏)

 しかし、ユーザーに話しかけるからといって、好みについてしつこく質問してユーザーを悩ませたりするわけではない。ユーザーが望むことを予測して、頼まれる前に実行するということだ。CCS InsightのCEO、Geoff Blaber氏は、「AIがきちんと機能しているときというのは、AIがバックグラウンドで動作していて、ユーザーがその存在を認識すらしていないときだ」と話す。もしAIがQualcommの約束通りに機能するのなら、ユーザーの精神的負担を増やすのではなく、軽減してくれるはずだ。

 AIが自動車のためにできることは多そうだが、自動車がAIのためにできることも多数あるようだ。

 「自動車によって、AIはもっと状況に合った高速なものになるだろう。その環境は非常に豊かで、非常に騒がしいが、学習という観点から見ると、非常に強力でもある」とDuggal氏は言う。車内で発生する大量の入力情報と、収集するデータによって、さまざまな新しいユースケースが生まれるだろう。

 Duggal氏が提示したユースケースでは、運転を習い始めたばかりのティーンエイジャーがガレージからバックで出るときに何度も注意散漫になっていることに自動車が気づいた。自動車はそれを記録して、両親に知らせることができる。確かに、それは告げ口ではあるが、命を救う可能性のある告げ口であり、保護者もよろこぶだろう。

変革をもたらす自動車

車内の画面
車内の画面は大型化している
提供:Katie Collins/CNET

 AIは自動車を急速に変化させている。基本的に「一夜にして」変わっている、とDuggal氏は話す。

 それは筆者の愛車には当てはまらない。両親と兄を経て筆者の元に来た2008年製のトヨタ車で、AIの恩恵を受けることはないだろう。AIどころかソフトウェアを用いた機能も自動車メーカーの決定に全く影響を及ぼしていなかった時代の車だからだ。しかし、そんな時代はもう終わっている。筆者が使い古しのおんぼろカーで走り回っている間に変化が起きたことは、今、目の前に広がっているBMW i5の巨大なダッシュボードディスプレイを見れば明白だ。Duggal氏が言うように、それは「徐々に起きた変化ではない」。

 これらすべてが急激なペースで起きていることは、同イベントで頻繁に話題に上った。変化のペースの速さで知られているわけではない自動車メーカーが関係していることも、大きな理由の1つだろう。Blaber氏は、「自動車市場は動きが遅いにもかかわらず、自動車メーカー各社はかなり迅速にソフトウェアに移行し、ソフトウェア主導の企業になった」と話す。

 今から数年前、新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて世界的な半導体チップ不足が発生したとき、自動車メーカーは新車の生産と販売を停止することを余儀なくされた。このようなことは、自動車メーカーがシリコンサプライチェーンにそれほど依存していなかった時代なら起こらなかっただろう。

 筆者は常に自動車を実用的な視点から見てきた。A地点からB地点まで安全に運んでくれればいい。それ以外ことは求めない。そんな筆者だが、BMW i5に乗ってみて、新たな視点を得ることができた。座席に座って、会議の合間にダッシュボードのスクリーンで「UNO」を楽しんだり、車載カメラで自撮りをしたりしていると、自動車が楽しい場所になる可能性が見えてきた。

BMW i5
提供:Katie Collins/CNET

 Qualcommのビジョンは、これを次のレベルに引き上げることだ。ゾーンオーディオにより、同乗者(と運転手)はそれぞれ自分の好みや移動中にしていることに基づいて、自分だけの体験を得ることができる。車載カメラは人を認識して、その人が以前に乗車したことがあるかどうかを確認し、その人の好みを思い出すことができる、とDuggal氏は言う。同氏は自動車が自宅の延長になると話しているが、それはこのことを指すのだろう。自動車が乗車する人の好みを予測し、次の乗車を歓迎する準備ができるようになれば、さらに快適になるだろう。

 Blaber氏は、Qualcommの自動車AIへの大規模な取り組みについて、「彼らはビジョンを提示している」と語った。「そのビジョンが現実になるかどうかは別として、自動車がかなりソフトウェア定義型にシフトしているのは事実だ」

 この動きは急速に進んでおり、ビジョンも刺激的だが、誰もが利用できるようになるとは思えない。ぜいたくな体験という印象を受ける。これから18カ月ほどで、BMW i5の所有者はこの体験を楽しめるようになるだろうが、筆者のような中古のトヨタ車オーナーにとっては夢物語のままだ。筆者はこのことをNakul氏に指摘したが、AIはやがてあらゆる価格帯の自動車に浸透し、高級車を買える人だけの機能ではなくなる、と同氏は考えている。

 同氏は、「実際のところ、AIを高く評価する人とAI関連のコストの間に相関関係はない」と語る。そして、Qualcommは価格帯に応じてさまざまなソリューションを開発している、とした。それぞれのプラットフォームは、人工知能をサポートできるだけの十分な性能を備えている。さらに、同社は自動車メーカーと長期契約を結んでいるため、プラットフォームは今後も引き続きサポートされる。もしかしたら、筆者のような人間がその恩恵を受けられるようになるくらいまで、サポートが続くかもしれない。

 Li AutoやMercedes、Rivian、General Motorsなど、Qualcommの自動車パートナーは、各社でカラーがまったく異なるので、それぞれが独自の方法でAIを使用することになるだろう。Duggal氏は、「自動車には非常に多くの可能性がある」として、誰もがその可能性を体験できるようになるはずだと語った。

Qualcomm

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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