Appleは先週、毎年恒例の新型「iPhone」発表会を開催し、まもなく「AirPods Pro 2」で聴覚の健康をサポートする機能が使えるようになると発表した。
その後、米食品医薬品局(FDA)が同機能を正式に承認したため、今秋に予定されているソフトウェアアップデートにより、軽〜中等度の難聴者はAirPodsを補聴器として使えるようになる予定だ。軽度の難聴は気づきにくいが、Appleは聴力を自宅でセルフチェックできる臨床グレードの聴力検査機能も発表している。
難聴者のほとんどがAirPodsを補聴器として使えるようになるというのは大きなニュースだ。よく知られているように、補聴器は高額で、米国では保険が適用されないことも多い(編集部注:日本では保険適用外)。さらに、補聴器を使うことに対する偏見や先入観も補聴器の普及を妨げてきた。米国では、約2900万人の成人が補聴器を使うことで何らかの恩恵を受けられる可能性があるにもかかわらず、その多くが利用していない。難聴を放置すれば、社会的孤立や認知症を含む、さまざまな健康リスクが高まると言われている。
広く普及している人気のイヤホンが補聴器としても使えることに驚く人もいるかもしれないが、今回のAppleの発表は必ずしも意外なものではない。FDAは2022年後半に補聴器を処方箋なしで店頭販売することを許可した。この決定はソニーなどのハイテク企業が医療市場に参入する道を開き、現在ではWalmartやBest Buyのような小売量販店にも補聴器が並んでいる。
しかし、補聴器から恩恵を受けられる可能性がありながら、補聴器を使っていない人は依然として多い。米国言語聴覚協会(ASHA)の聴覚学シニアディレクター、Tricia Ashby-Scabis氏は、処方箋なしで店頭で買える、いわゆる「OTC補聴器」の購入者の多くが結局は返品に至っていると指摘する。
Ashby-Scabis氏は6月、補聴器の利用者数が伸び悩んでいる現状について「期待値の問題が大きい」と語った。「読書用のメガネなら近所の薬局で試着し、はっきり見えるものを選ぶことができる。しかし補聴器は必ずしもそうはいかない。試行錯誤しながら微調整していく必要がある」と同氏は説明する。
ユーザーが補聴器に慣れる必要があるだけでなく、脳もこれまでにない聴覚体験に慣れなければならない、と同氏は言う。もちろん、AirPodsなら聴覚体験の調整が完全に不要になるわけではない。しかしApple製品を長年使っていて、その設定に慣れている人なら、聴覚の軽度な改善を手軽に実現できる可能性がある。
この点が「AirPodsの活用は名案だと感じる理由だ」と同氏は言う。「AirPodsなら、あれこれ自由にいじることができる」
聴覚専門家である同氏のコメントは6月、つまりAppleが9月に聴覚の健康に関する発表をする前に米CNETに語ったものだ。
AirPods Pro 2を正式にOTC補聴器として利用できるようになるまでの間、聴覚体験の改善に使えるAirPods Pro 2の隠れた機能を紹介する。
Ashby-Scabis氏が6月に米CNETに語ったところでは、同氏はAirPodsを所有しておりAirPodsの聞き取り支援機能の話をいくつかの会議で聞いて、実際に試してみたという。
同氏が特に感心したのは「ライブリスニング」などの機能だった。ライブリスニングは、iPhoneや「iPad」を指向性マイクとして使い、騒がしい環境でも自分が聞きたい音を拾える機能だ(ライブリスニングはAirPodsだけでなく、Beatsの一部のデバイスでも使用できる)。AirPods Proで使える「会話を強調」も、目の前の相手に集中できるよう助けてくれる機能だ。騒がしい環境で会話が聞き取りにくいのは、軽〜中等度の難聴の初期症状であることが多い。
「従来の処方補聴器も、こうした場面での利用を奨励してきた」とAshby-Scabis氏は言う。「今も、特定の場面では特定の人物に集中できるアクセサリーの使用を呼びかけている」
既存の機能であれ、秋にリリースされる新機能であれ、Appleの聴覚補助機能を最大限に活用するためにはAirPod Pro 2を使うこと、そして「外部音取り込みモード」をオンにすることが欠かせない。このモードは補聴器に近く、周囲の音をユーザーの聴覚に合わせて微調整してくれる。
「外部音取り込みモード」のオン・オフを切り替えるには、まずiPhoneまたはiPadの「設定」画面に行き、「アクセシビリティ」>「オーディオとビジュアル」>「ヘッドフォン調整」と進み、「カスタムオーディオ設定」を選択する。オージオグラムや聴力検査の結果があれば入力することでオーディオ設定をさらにカスタマイズ可能だ。「外部音取り込みモード」を有効にしたら、「ヘッドフォン調整」でさらに調整を加え、「会話を強調」をオンにするか、「増幅」の設定をあれこれ変えてみる。
わずかな変化、例えば音声の明るさや明瞭度を調整するだけでも、聴力が衰えつつある人には助けになる。
「高音域が聞き取りにくくなってきたなら、明るさを上げると、ぐんと聞きやすくなるはずだ」と、Ashby-Scabis氏は言う。「子音がはっきりして、話を理解しやすくなる」
これまでのごく少数の研究によると、AirPods Proの性能は上位モデルの補聴器には遠く及ばないものの、基本的な補聴器とは互角だとされる。補聴器は種類が多い。音を大きくしたいときに使う、規制対象外のパーソナル音声増幅製品から、軽〜中等度の難聴に対応したOTC補聴器、処方箋が必要な医療レベルの補聴器まで、多岐にわたる。
AirPods Pro 2は、補聴器の恩恵を受けられる可能性のある多くの人にとって、既存の補聴器よりもはるかに安価な選択肢だ。例えば、AirPods Pro 2の実勢価格は200ドルを少し上回る程度(約3万円)だが、処方補聴器の平均価格は4000ドル(約57万円)を超え、そこそこのOTC補聴器でも数百ドル(数万〜10万円)はする。
他の処方箋不要の補聴器と同様に、AirPods Pro 2もすべての難聴に対応できるわけではない。OTC補聴器は、難聴の子供や重度の成人難聴者には向かない。難聴の他にも耳に痛みなどの症状があるときは、補聴器を買う前に医師や聴覚専門家に相談しよう。
聴覚の健康が、他の健康分野と同じくらい真剣に扱われるようになったことは大きな進歩だとAshby-Scabis氏は言う。しかし同氏によると、一般市民や医学界はまだ、聴覚が人間の健康、例えば認知や体調に与える影響を理解し始めたばかりだという。
「難聴だからといって、健康が損なわれるわけではない。しかし難聴を放置すると、うつ病や社会的孤立につながりやすいことは確かだ」と同氏は言う。「家にこもりがちになり、座りっぱなしの生活になりやすい。このような生活は健康に大きな影響を及ぼす恐れがある」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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