サムスンが7月にスマートリング「Galaxy Ring」を発表した。このきらめく最新のガジェットを見て、嫉妬を覚えたAppleファンもいるかもしれない。さかのぼれば、Appleは数年前からスマートリングの特許を出願しているが、近い将来にApple製スマートリングが登場する見込みはかなり低い。
筆者は指輪型のヘルストラッカーが好きで、普段は「Evie Ring」をつけている。しかし実際にスマートリングを使ってみて、少なくとも現在の技術レベルでは、スマートリングはAppleにとって鬼門だと考えるに至った。スマートリングの開発は、Appleの製品戦略に反するように思える。
Appleはスマートリングの開発ではなく、「Apple Watch」のセンサーの強化に注力すると筆者が考える理由を説明する。
おそらく、現時点で最も人気のあるスマートリングは「Ouraリング」だろう。ユーザーから収集した幅広いデータを多彩な健康スコアに変換できることがOuraリングの強みだ。サムスンのGalaxy Ringも同じような発想で設計されており、ユーザーの健康状態を多面的に評価し、「Energy Score」という指標で表す。一方、Apple Watchの次期OS「watchOS 11」では、新たに「バイタル」アプリが導入され、その日の自分の健康状態を一目で確認できるようになる。「トレーニングの負荷」スコアでは、ワークアウトの強度や時間も測定可能だ。測定に使用されるApple Watchのセンサーは、スマートリングのセンサーと比べてより多くのデータを取得できる可能性がある。
Appleは、Apple Watchを健康的な生活をサポートするだけでなく、命を守るものだと宣伝している。これはスマートリングにはできない主張だ。Apple Watchは、心臓の異常を検知したときはアラートを発信し、事故や転倒時には緊急通報サービスに自動で連絡することができる。
Bloombergの報道によれば、AppleはApple Watchに血糖値や血圧のモニタリング機能を搭載することで、業界をリードしようとしているという。とはいえ、こうしたデータを手首につけた小さなブロックで正確に測定することは難しい。小さく貧弱なセンサーを指輪に詰め込む努力をするよりも、Apple Watchのセンサーの強化に注力した方が、健康モニタリングの分野で大きな変化を生み出せるはずだ。
スマートリングのデータで、スマートウォッチのデータを補完すればいいと考える向きもあるだろう。もちろんデータは多い方がいい。しかし、それはApple Watchだけでは不十分だとApple自身が認めることになる。これはAppleが送りたいメッセージではないはずだ。
Appleのビジネスはハードウェアだけではない。サービスも成長分野だ。Appleが米国などで提供するワークアウト動画のサブスクリプションプログラム「Apple Fitness+」では、Apple Watchがプログラムの価値を支える大きな役割を担っている。
Apple Watchを装着した状態でApple Fitness+のワークアウトに参加すると、映像に自分のリアルタイムの心拍数と推定燃焼カロリーが表示される。しかも、面倒な設定はいらない。
Apple Fitness+に課金する価値があると納得してもらうためには、Apple Watchの力が必要だ。こうした機能には、人々を引きつけ、サブスクリプションを継続させ、ディスプレイのないスマートリングではなく、Apple Watchが欲しいと思わせる魅力がある。
スマートリングはリモコンとしても使用可能だ。例えばGalaxy Ringは、スマートフォンで写真を撮る際の遠隔シャッターとして利用できる。スマートリングで音楽やデバイスを操作するというアイデアは、Appleが過去に提出した特許文書でも強調されていた。
しかし、今のAppleにはもっと重要な使命がある。それは「Apple Intelligence」とAI対応のSiriを通じて、大きな約束を果たすことだ。Appleは、Siriに自然な言葉で簡単な指示を与えるだけで、デバイス内のあらゆるものを簡単に操作できるようにすることを目指している。
もしAppleが、Siriよりもスマートリングを使う方が音楽を簡単に操作できると主張するなら、それはAIが生活を便利にするという約束をAppleが果たせなかったことを意味すると、筆者は捉えるだろう。
素材の改良もAppleが直面している課題の1つだ。Appleは2030年までに100%カーボンニュートラルを達成するというミッションを掲げている。もしAppleがスマートリングを製品ラインに加えるなら、二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにするために、サステナブルでリサイクル可能な製品を投入し、増えた分のCO2を吸収し、除去しなければならない。
言うまでもなく、指輪は好みに左右されやすいアイテムだ。指のサイズを測り、ぴったりのものを選んだつもりでも、次の日にはきつすぎる、あるいはゆるすぎると感じることもある。ジムでバーベルを持ち上げ、ローイングマシンのハンドルをつかむときは、指輪を外したいと思うだろう。フィット感が気に入らなくて、指輪をすぐに返品したり、交換したりする人の気持ちも理解できる。Appleにとっては、スマートリングにリソースを割くよりも、スマートリングが追いつけない高性能センサーを搭載したスマートウォッチの開発に集中する方が理にかなっている。
腕時計が苦手な人、頻繁に表示される通知にわずらわされたくない人には、スマートリングは良い選択肢だ。充電の頻度も少なくて済む。しかし、現在のスマートリングは「スマートウォッチはほしくない」という意思の表明でしかなく、楽に健康状態を把握したい人のための贅沢品だ。スマートリングに搭載されているセンサーが、スマートウォッチのセンサーに匹敵する性能を備える日が来るまで、Appleがディスプレイのないフィットネステクノロジー市場に飛び込むことはないだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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