就活スケジュールの中でも特に大きなポイントとなる夏インターンが、佳境を迎えています。学生の母集団形成に大切なこの時期に、改めて確認したい、就活の新傾向とは? 従来とは異なるZ世代の就活の3大傾向について、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が、最新データをもとに解説します。
2025年卒学生の採用がやっと一区切りついたところで、休む間もなく2026年卒学生向けの夏インターンが佳境を迎えている企業が多いと思います。
夏インターンは、採用スケジュールにおいて、学生の母集団形成が始まる重要なポイントです。学生との接点が拡大するこの時期に、改めて最新アンケートデータをもとに、就活生たちの傾向について確認しましょう。
今年(2024年)初旬に、2025年卒学生採用の進捗状況について、企業の採用担当者にインタビューしました。その結果が<25卒採用における母集団形成の現状>のデータで、採用がうまくいっている企業とそうでない企業に二極化しているのがわかります。
「目標未達の見込み」と答えた担当者からは、「採用のやり方を変えていないのにも関わらず、今までのような成果が出なくなった」という意見が多く聞かれました。それは、学生側の就活傾向の変化に、うまく対応できていないことが原因だと考えられます。
例えば、コロナ禍前後の変化を振り返ると、多くの企業が急速にオンライン対応に切り替えました。それは今も継続しているのですが、コロナ禍の時期のように何もかもオンライン対応がいいというわけではなく、「採用コンテンツによって変わってくる」というのが最新の状況です。
これについては後ほどデータを紹介します。
また、学生たちの就活ナビサイト離れが進み、SNSを活用した就活が盛んになったり、エントリー数を絞る効率重視の就活スタイルが一般的になったりと、様々な変化が見られます。学生たちの就活動向は毎年変化するので、最新の就活トレンドを採用活動に活かせるようキャッチアップすることが企業にとって大切になります。
今回は、最新の就活における学生の特徴を「安定志向」「タイパ重視」「自分軸重視」と3つのキーワードにまとめて、解説します。
以下のデータは、2026年卒学生に「キャリア選択で重視すること」を尋ねた結果です。
1位が「年収が高い」、2位が「福利厚生が整っている」となっており、学生が生活の安定につながる要素を重視していることがわかります。
Z世代は、東日本大震災などの自然災害やロシア・ウクライナ戦争、日本の長引く経済停滞など、不安定な社会情勢を幼少の頃から目の当たりにしてきた世代です。その結果「安定した生活を送れること」を重視して、キャリア選択をしているのかもしれません。
次に<志望する企業規模>のデータを見てください。圧倒的に大手企業に人気が集中しているのは、「大手企業=安定」という意識の表れでしょう。中小企業、ベンチャー企業を志望する学生の割合は、年々減少傾向にあります。
余談ですが、別のアンケートデータでは、偏差値上位校の学生ほど、大手企業を志望する割合が高くなっているという特徴も見受けられました。優秀な学生が積極的にベンチャー企業を志望するようなチャレンジ精神が、薄れていることも採用の現場で実感しています。
以下の<就活におけるタイパ意識>のデータは、2025年卒学生が就活において「タイパを意識する」と回答した割合を時系列で並べたものです。
本選考が佳境を迎える「大学3年3月」には大きく割合が下がっていますが、夏から秋にかけて、つまり「大学3年10月」までの「母集団形成の時期」には、6割を超える学生がタイパを重視していることがわかります。
また、<本選考エントリー数>のデータは、平均エントリー数を2024年卒学生と2025年卒学生で比較したものですが、15.8から13.9と減少傾向にあることが見てとれます。
このようにタイパを重視することにより、学生たちは選択肢をあまり広げないので、企業にとっては、いかに本選考時期より前に学生との接点を持てるかが、カギとなります。
問題は、学生たちはタイパ重視で「知っている企業」から就活先を選ぶ傾向があり、接点を確保すること自体の難易度が上がっていることです。
ちなみに、タイパ重視の傾向があると言っても、就活生たちは何もかも短時間で済ませたいと考えているわけではありません。学生へのインタビュー結果を見ると、「重要度の高いものに時間をかける」という回答が目立ちます。興味があることや好きなこと、重要だと感じることーーつまり自分にとって「時間をかける価値」があるものを選んで取りくんでいるのだと考えてください。
以下の<各コンテンツの希望開催形式>は、コンテンツごとに「オンライン」と「対面」のどちらを希望するかを尋ねたデータです。
効率のみを重視するなら、移動が不要な「オンライン」を選ぶはずですが、「複数日程のインターン」の項目などは、「対面」希望が6割近くを占めます。コンテンツごとに「オンライン」と「対面」の希望する割合は異なるので、学生のタイパ重視の傾向を考慮しながらも、彼らのニーズを満たすようなコンテンツを工夫すべきでしょう。
続いて、<内定承諾後辞退への意識>のデータを見てください。
2025年卒学生は、39.1%が「内定承諾後に辞退することに抵抗がない」と回答しています。たとえ、内定承諾後に辞退することはよくないとわかっていても、自分にとって、より志望度の高い企業から内定が出れば、他企業の内定は承諾した後でも辞退する。「自分にとってよりよい選択」を特に重視した意思決定の傾向から、「自分軸を重視する姿勢」を3つ目のキーワードとしました。
以上、就活における学生の傾向を挙げましたが、それでは企業は学生たちに対してどのように働きかけるべきなのでしょうか?
特に大企業でもなく、知名度で勝負するのが難しい企業が、自社にマッチする優秀な学生を採用するためには何をすべきなのでしょう?
次回は、就活生たちの最新動向を踏まえた新卒採用の勝ち筋について、解説します。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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