本連載の第1回ではWebtoonの成り立ちと漫画との違いについて、第2回では国内市場の動向について、第3回では今後のWebtoonの未来について、第4回では日本と韓国のWebtoon業界についてまとめました。
第5回では「俺だけレベルアップな件」を手掛けたレッドセブン代表のイ・ヒョンソクさんを、第6回では「ジャンプTOON」をローンチに携わった統括編集長の浅田貴典さん、編集部・編集長の三輪宏康さんに話を伺いました。
第7回では、NTTドコモのコンシューマサービスカンパニー コンテンツサービス部を統括する宮原さおりさんをお招きし、NTTドコモが見据えるコンテンツビジネスのビジョンについてお伺いします。
中川: まずは宮原さんの経歴をお伺いしてもよろしいですか?
宮原: 大学卒業後、NTT西日本を経て、2001年にNTTドコモに入社しました。2010年代初期からdアニメストアやスゴ得コンテンツといったサービスを手掛けるなど、さまざまなパートナーと協業しtoC向けのプラットフォームビジネスに10年以上携わっています。
中川: これまでNTTドコモは、エンタメ事業にどのように取り組まれてきたのでしょうか?
宮原: NTTドコモは「新しいコミュニケーション文化の世界を創造する」という企業理念に基づき、通信事業を核に、お客様の生活やビジネスに役立つサービスを提供してきました。2015年から開始した「dポイント」は、今では1億人のお客様に利用されています。
通信事業もエンタメ事業も、根底にあるのは、お客様の日常生活を便利にしたい、楽しくしたいという思いです。サービスを楽しむプラットフォームの運営や、コンテンツ強化への取り組み。最近ではイベント主催や興行制作などにも力を入れています。
中川: その中で、現在はWebtoonにも積極的に取り組まれています。Webtoonに注力している理由を教えてください。
宮原: Webtoonのことを知ったのは、他社との情報交換がきっかけです。「韓国で、スマートフォンに最適化された新しいマンガのフォーマットが盛り上がっている」と。どんなコンテンツなのだろうと気になり、注目していきましたね。
NTTドコモがWebtoonに注力している理由はふたつあります。ひとつは、Webtoonが世界で新しいコンテンツ流通の形として急速に広まっていることです。Webtoonというフォーマットを採用すること自体、多くの読者にコンテンツを届けられる可能性を秘めています。もうひとつは、Webtoonが新しいフォーマットゆえに、原作に近いところで私たちが関わっていけることです。私たちが主体となって原作をクリエイトしていくことができれば、当社が持っている映像などのプラットフォームやイベント・興行ビジネス、物販などの二次流通という形で、いろいろな表現や展開をすることが可能になります。
中川: NTTドコモがWebtoonに取り組んで2~3年ほど経った頃かと思いますが、現在までの手応えについて、どのように感じていますか?
宮原: 正直に申し上げると「まだ始まったばかり」という感覚です。「weavin」という出版レーベルのもと、現在は70作品(※横読みのマンガを含む)を配信しています。少しずつですが、ヒットといえるような手応えのある作品も出てきています。
中川: weavinというネーミングには、どんな由来があるのでしょうか?
宮原: weavinという名前は「縦糸と横糸をつむぐ」という意味があります。プラットフォームという横糸を運営してきた当社が、Webtoonを通じてIPという縦糸とつむいでいきたいという思いがあります。
中川: とても良い言葉ですよね。
宮原: 私が所属するコンシューマサービスカンパニーには、「つなぐ。育む。明日のあたりまえになるまで。」というパーパスがあります。パートナーとお客様をつなぎ、新たな価値を創出し、つなぐだけでなく、つないだ後も育んでいくという思いが込められています。コンテンツが愛される文化を育んでいくためには、IPも育んでいかなければなりません。プラットフォームを通じて、多様な作品を最適な形でお客様に届け、ワクワクする社会を実現していくことが使命だと考えています。
中川: とても大事な考え方ですね。クリエイターは多かれ少なかれ、プラットフォームやメディアに“搾取されてきた“と感じている人も少なくありません。何かをつくり出そうとしたらいの一番に「で、いくら儲かるの?」と言われてしまうとか。そういった経験をしてきたクリエイターに対して「育む」という言葉を発信するNTTドコモは、自分たちの味方と感じられるような心強い存在になるかと思います。
宮原: クリエイターをはじめ、パートナーの皆さんには本当に感謝しかありません。私たちはプラットフォーマーだけど、何かを保有しているわけではありません。パートナーからコンテンツを提供してもらって初めて、お客様にコンテンツを届け、プラットフォームを育てていくことができます。
それが良い形で循環していくと、プラットフォームを通じてパートナーにも還元できます。こういった流れを今後はグローバルにも広げていきたいし、逆に、もっと育む土壌としてプラットフォームの力をつけていきたいと強く思いますね。
中川: 現在までの課題について伺えますか?想定していたよりも難しかったことなどがあれば教えてください。
宮原: まだまだ「難しかった」といえるほど、多くの経験値を積んだわけではないと考えています。でも確実にいえるのは、“簡単ではない”ということ。Webtoonの作品をつくったからといって、すぐに映像化できるわけではない。厳しい世界です。これまで以上にパートナーの皆さんと一緒に育んでいかなければなりません。
ただ想定していたよりも難しかったからこそ、面白さもあります。「これ当たるかも!」と思っていたものがそれほど当たらなかったり、「え?これ?」と思っていたものがグングン伸びることもありました。アニメ作品ではよくありますが、最初は芳しい結果が出なかったのに、途中からグググと上がったりとか。想定通りにいかないからこそ、お客様を理解し、仮説検証を繰り返して、クオリティを追求していくことが大切ですね。描いていたシナリオ通りにいかないことは課題といえば課題ですけど、そこがエンタメ事業の醍醐味でもあるように思います。
中川: 宮原さんは事業を管掌する立場ですが、例えば「流行っているから『悪役令嬢もの』を増やしてほしい」といったリクエストを現場に出すことはあるのでしょうか?
宮原: 私は基本的にはコンテンツには介入しません。お客様のことを熟知している担当者がやるべきだと考えています。もちろんデータは見ています。パートナーやお客様にとって「それが本当に喜ばれるの?」といった会話もしますね。サービスとして何が大切なのか常に考えながら事業に臨んでいます。
中川: エンタメにおいて、関係者が多く“船頭多くして船山に上る”という状態に陥り、プロジェクトが頓挫してしまうことが往々にあるので、出資者やプラットフォーマーである御社がその姿勢であることは作り手にとって大変ありがたいと思います。
実際に弊社も宮原さんのチームの方々と仕事をすることが多くありますが、「内容については信頼して任せます」と言っていただけることが多いです。たまに言われるのは、「中川さん、これ本当に面白いと思っていますか?」ということ。ドキッとすることもありますが、我々も緊張感を持ちながら作品づくりに集中することができます。パートナーとしてすごくありがたい存在ですね。
宮原: 正直なところ、私はクリエイティブのことがそれほど詳しくありません。とやかく口出しするよりは、「こういう世界をつくりたい」というクリエイターの思いを信じて、表現してもらう環境を育んでいく方が大事だと思いますね。
中川: 育むという意味で、dアニメストアとの連動などは考えていますか?例えば、原作として関わったWebtoon作品をアニメ化していくような展開などは進んでいるのでしょうか?
宮原: 将来的にはやりたいですね!ただアニメ制作は、コストも期間もかかりますから、やみくもにという訳にはいきません。しっかり実績を重ねて、IPを起点に、色々な表現を試しながら今後も挑戦を続けていきたいです。
中川: ありがとうございます。最後に海外展開についてはいかがですか?
宮原: もちろん考えています。IPは国境を超えられますから。当社の作品が、weavinからどんどん海外展開されていくと良いなと思います。
中川: 英語圏向けの電子書籍プラットフォームも宮原さんの担当だとお聞きました。weavinの作品も掲載されていくのでしょうか?
宮原: 将来的には進めていきたいですが、まずは日本のコミックを海外に届けていくことを優先しています。weavinの「育む」に対して、こちらの事業は「つなぐ」に重きを置いていますね。
中川: すごく大きなプロジェクトですよね。応援しています!
宮原: エンタメ事業にとって、夢やロマンは大切ですよね。プラットフォーマーである私たちが持ち得ないものをパートナーに提供してもらっているので、「つなぐ。育む。明日のあたりまえになるまで。」というパーパスを実現していきたいと思います。やるからにはやり切りたいと思っていますので、ぜひパートナーの皆さんにも賛同いただきつつ、仕事をご一緒できたらと思っています。
Weavinの作品はこちら(dブック):https://dbook.docomo.ne.jp/original-comic/
中川元太
株式会社Minto 取締役
2010年に大手インターネット広告代理店に新卒入社。札幌営業所長を経て、2013年より漫画アプリ「GANMA!」の運営会社の創業メンバーとして漫画編集チームとアプリマーケチーム等を立ち上げる。2016年にSNSクリエイターのマネジメント会社・株式会社wwwaapを創業。2022年に株式会社クオンと経営統合し、株式会社Mintoの取締役に就任。
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