ファン作りやファンとのコミュニケーションに、SNSを活用する企業は数多いが、どのように盛り上がりを醸成すれば良いか、頭を悩ませている担当者は少なくない。
そんな中、メタバースでファンと時間と体験を共有し、その結果としてSNSでも反響を呼んだのが、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」が仕掛けた「METAドンキ」だ。NTTコノキューが提供する、ブラウザー版メタバースプラットフォーム「DOOR」内にオープンした独自の空間で、期間限定のイベントを展開。SNSには参加者からの「楽しかった!」という声が溢れた。
多くの人がSNSで発信したくなるような、楽しい時間と体験はどのように作り出されたのか。キャンペーンを企画した、ドン・キホーテを傘下に持つパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス マーケティング戦略本部 本部長の太田越太氏、制作を担当したカイバラボ データコラボレーション部 サブマネージャーの大町真也氏、NTTコノキュー マーケティング部門 パートナーリレーションズグループ 主査の中岡翔氏、同サービスマネージメントグループの藤井里奈氏に話を聞いた。
――オンラインでのキャンペーンを、メタバースで展開することになった経緯を教えてください。
太田越氏:来店していただけないときにも、ドン・キホーテの「ワクワク・ドキドキ」を感じてもらうには、どうしたらいいのか。SNSを使ったコミュニケーションや、「TikTok」を使ったライブコミュニケーションなど、さまざまなキャンペーンを考える中で、グループ会社のカイバラボから提案されたのがメタバースでした。
SNSだとどうしてもテキストベースのコミュニケーションになりますが、メタバースではお客様にアバターとして空間に入ってもらい、その場でコミュニケーションがとれる。詳しく聞いてみると、想像以上にさまざまなことができそうだとわかって、じゃあやってみようと。チャレンジする気持ちで取り組みました。
――メタバースでキャンペーンをやるにあたって、プラットフォームに「DOOR」を選んだ理由は?
大町氏:新たにアプリを作るとコストがかかるし、入るのに何か特別なソフトウェアが必要だったり、登録が必要だったりすると、お客様に利用していただく際の敷居が高くなってしまう。より簡単に使えるものをということで、URLからリンクひとつで入れるような、プラットフォームに絞り込んでいきました。
あとは、コストの問題も大きかったですね。新しい挑戦なので、初回から大きな投資はできない。検討する中でDOORに行き着いた、という感じです。
中岡氏:DOORは、PCでもスマホでも、ブラウザーさえあればデバイスやOSを問わずに誰でも簡単にアクセスできます。メタバース空間を自社で構築、管理いただけるオープンプラットフォームなので、イベントに応じた空間を低コストかつ短期間に作れます。お客様への動線をどう作るか、制作やサポートについてもご提案し、今回ご一緒させていただくことになりました。
藤井氏:空間をお客様ご自身でカスタムでき、定期的にコンテンツが差替えられるのもDOORの特徴です。今回はこの機能をしっかりと評価いただき、最大限に活用いただいたと思っています。
太田越氏:DOORでは、空間内の掲示物のリンク先変更や、オブジェクトの配置変更がリアルタイムにできるので、イベントの企画内容にあわせてさまざまな仕掛けを作れる。そこが、大きな魅力だと感じました。
「METAドンキ」の公開記念イベントは、3月15日から3日間に渡って開催された。3日間で計6回、“驚安商品”が入った福箱をオークション形式で販売。その模様をメタバース内でライブ配信した。2日目には「ドンキクイズ王選手権」と題した、クイズ大会も実施。参加者は自分が正解だと思う方の部屋へ移動するなど、メタバース空間をフル活用したイベントが実施された。
同時接続数が数百人規模となるイベントはNTTコノキューとしても初の試みで、一時アクセス集中によりライブ配信システムにトラブルが発生する場面もあったという。しかし、KPIとしていた3日間の来場者数は目標値の約1.9倍と、当初の想定を大きく超えた。また、イベント終了後のSNSでは冒頭のようなポジティブな感想が多く見られた。
――メタバースでキャンペーンを実施してみて、率直な感想を聞かせてください。
太田越氏:始まる前は、お客様が集まってくれるのか、とにかく不安でした。告知をした後のSNSでの反応も、「今頃メタバース? ドンキ遅いよ」みたいな感じだったので、本当に大丈夫かなと。
でも実際に始まったら、アクセス障がいのトラブルもありましたが、その間も「ドンキ頑張れ」「復活を待ってるよ」と励まされました。終了後も「めちゃくちゃ楽しかった、またやってください」「3日間ほんとに楽しかった!ドンキ愛がマシマシになりました」といった、うれしい声をたくさんいただいた。私たちが想像した以上にお客様が楽しんでくださって、本当にやって良かったです。
大町氏:トラブル時もNTTコノキューの皆さんに手厚くサポートしていただけたので、そこは有り難かったです。あれがなければ乗り切れなかったと思います。
中岡氏:トラブルについては本当に申し訳なかったと思っています。今回のプロジェクトを通して、われわれとしても学ぶところがたくさんありました。特にユーザーの心をいかに掴むか、興味づけと遊び心に溢れた企画は、とても勉強になりました。
限られた空間の中で縦横をうまく表現し、お客様のアバターが横移動だけでなく、縦にも移動できるようにして行動範囲を広げたり、キャラクターと写真を撮れるフォトスポットがあったりと、遊べる場所が空間内にうまく散らばっていたことも、入場者数の伸びにつながったのではないでしょうか。METAドンキが記録したアクセス数は、われわれのプラットフォームのひとつの基準になっています。
メタバースではその空間を訪れて、長く楽しんでいただくということもひとつ大事なポイントです。METAドンキは、滞在時間も通常の約3倍と長かった。それだけ楽しめる空間だったということだと思います。
藤井氏:運営の皆さんがドンペンくん・ドンコちゃんのキャラクターアバターに着替えて、お客様とコミュニケーションされていたのが印象的でした。ファンからすると、それはすごく嬉しい体験だったと思います。日頃見慣れている2Dのキャラクターがそのままの見た目で立体的に動いているというのも企画として魅力的でしたし、メタバースないしは3Dのメリットが生かされているなと思いました。
――今回の企画にあたって、こだわったポイントを教えてください。
太田越氏:実は、企画は何十個も出しました。これくらいやらないと、「ワクワク・ドキドキ」は伝わらないと、かなりわがままも言わせてもらいました。頭にあったのは、ECの延長線上のようなことはやりたくないということ。ライブ配信で単にモノを売るだけでは、ドン・キホーテらしくない。お客様同士が互いにコミュニケーションをとれるような、参加型のイベントにしたい。そのためのコミュニケーションツールとして、プラットフォームを活用したいということは伝えました。
メタバースを生かした企画という意味では、クイズ大会がそれに該当するかなと思います。これも当初は、ライブ配信でクイズを出して答えるというシンプルな内容でしたが、マーケティングのメンバーが、Aの扉とBの扉のように、解答によって空間を分けたらどうかというアイデアを出した。そこで実際にできるかを検証して、実装してもらいました。ライブ配信でクイズを出しつつ、参加者には正解だと思うドアに入ってもらう。そこへキャラクターのドンペンくんがやってきて正解を告げる、インタラクティブな仕掛けができました。
――ほかにも、メタバースだからできたことがあれば教えてください。
大町氏:バックヤード側でいえば、テキストの記録が取れたことですね。オークションやクイズに参加している方も、参加していない方も、その声を全てリアルタイムに拾えたのは大きいです。お客様同士のコミュニケーションによって、積極的なユーザーだけでなく、消極的なユーザーの声も聞くことができる。そんなプラットフォームは、なかなかありません。ここからイベントをさらにブラッシュアップしていくのに、非常に重要なプロトコルを提供していただいたと思います。
お客様の声をマイニングすることで、顧客体験が良かったのか悪かったのかだけでなく、どこが一番盛り上がったのかなど、細かな分析ができます。もちろん同時にアンケートも集めていて、空間の中で一緒に遊べるコンテンツや、お店を表現した空間が欲しいなど、さまざまな意見もいただいています。これらを生かし、次にやるときはもっとお客様に楽しんでいただけるイベントができると確信しています。
太田越氏:驚いたのはイベント後に、オークションやクイズで商品をゲットしたお客様が、「家に届きました」とオーガニックでSNSに投稿して、それが拡散されたこと。イベントが終わってからも、盛り上がりが醸成された。全部がストーリーになっている。これはお客様が自らメタバースに参加して、体験をしたということが大きいのだと思います。
今後はもっとインタラクティブにコミュニケーションができるイベントも企画したいですし、イベントをやっていない時に、24時間365日、お客様を楽しませる場所をどうやったら作れるか。たとえばお客様が作る、バーチャルなドン・キホーテなどもいいですね。そこで出た陳列の提案をリアル店舗に生かすなど、リアルとバーチャルをつなげていけたらと思います。
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