「Google I/O 2024」の基調講演は、ほぼ人工知能(AI)関連の話題に終始した。会場では、同社のAIチャットボット「Gemini」が多くのGoogle製品に組み込まれ、さまざまな形で活用されることが発表された。Google I/Oは毎年5月頃に開催されるGoogleの年次イベントで、通常はソフトウェアに関するアップデートや新製品の第一報が発表される。しかし2024年は、多くの人が日常的に使用している「Gmail」や「Google検索」などのサービスがいかにAIによって強化されるかに話題は集中し、競合他社に対する威嚇射撃のようにも感じられた。
この「競合他社」にはAppleも含まれる。Appleも来る6月10日に「Worldwide Developers Conference(WWDC)」を開催する。基調講演では主にソフトウェア関連の発表があるとみられている。同社は、これまでAIに関する計画を明らかにしてこなかった。最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏は決算発表の際に2024年の計画に触れたが、その内容は曖昧だった。4月に唐突に発表された大規模言語モデル「OpenELM」はさておき、2024年のWWDCでAppleが何を発表するのかについて、分かっていることはほとんどない。
しかし、Googleの怒濤のAI攻勢はAppleに何らかの対応を迫ることになるだろう。GoogleはGeminiを既存のサービスに組み込み、同社のソフトウェアが持つ強みを生かすような形で強化する方法を力強くアピールした。AIを利用したGmailや写真の解析は、その一例だ。
Googleがリードし、Appleが苦戦を強いられると考えられる分野を見ていく。
2024年のGoogle I/Oは、Googleで起きている変化の一端を示していた。「Googleアシスタント」はGeminiに置き換えられ、そして将来的には「Project Astra」に移行することになるだろう。Project Astraは、スマートフォンのカメラが捉えたものをスキャンし、関連する情報を提供する新たなAIの取り組みだ。その詳細はまだベールに包まれているものの、Google I/Oで公開されたProject Astraのデモ動画には、スマートフォンが30秒前に捉えたカメラ映像をもとに、置き忘れたメガネの場所を教えるシーンがあった。
Appleが「Siri」をAIで強化して利便性を高める可能性は十分に考えられる。周囲の状況を自律的に観察し、提案するようになるかもしれない。しかしAppleは、製品の設計時はユーザーのプライバシーを最優先すると明言してきた企業だ。Appleがユーザーの習慣や環境をかぎまわるような真似をしてまで、Googleの後を追い、パーソナライズ機能を強化するとは考えにくい。
Googleは、Geminiが通話内容を聞き、詐欺の可能性があればユーザーに警告する機能を開発していることも明らかにした。この機能を有効にすると、例えば電話の相手が送金を要求した場合に警告が出る。この処理が、Googleが主張するようにオンデバイスで行われるとしても、Appleが「iPhone」ユーザーの行動をここまで踏み込んで監視することは考えにくい。実際、Appleは何年か前に児童の性的虐待画像のスキャン機能を開発していたが、プライバシー擁護団体の反発を受けて計画を中断した。
Googleの大きな強みは、自社の多彩なソフトウェアにAIツールを直接組み込めることだ。Geminiに文書や写真の解析やGmailの整理などを頼んで、事務処理を手伝ってもらうこともできる。例えば、あるデモではGeminiを使ってメールの山から領収書を集め、しかるべきフォルダーに入れて、スプレッドシートを作成する様子が紹介された。メールに素早く返信できるように、すべてのメールに3種類の返信テンプレートを提案することも可能になるという。
iPhoneの「メール」アプリに同じような整理機能を実装することはそれほど難しくないと思うかもしれない。「iOS」や「macOS」を使ってシステムを横断的に検索し、よりインテリジェントで文脈に即した検索結果を表示することも、それほど無謀とは思われない。しかしGoogle I/Oで披露されたような、子供の水泳の上達ぶりを見せてという複雑なリクエストに対し、適切な写真や動画を選んで表示するためには、Geminiのような生成AIチャットボットが必要になるだろう。Bloombergが伝えたうわさによれば、AppleはiPhoneに「ChatGPT」的なものを搭載するために、OpenAIと交渉を進めているという。
Google I/Oでは、検索機能に関するアップデートも多数発表された。検索ボックスに入力された質問への回答を要約して表示する「AI Overview」は、その1つだ。スマートフォンに関しては、「Googleレンズ」で動画を撮りながら音声で質問できる新機能が搭載される。Google I/Oでは、製品担当バイスプレジデントのRose Yao氏が、レコードプレーヤーの故障箇所をスマートフォンで撮影しながら、どうしてうまく動かないのか質問するデモを行った。GoogleレンズはYao氏の質問を理解し、AIがまとめた修復手順を検索結果に表示した。
Appleのブラウザー「Safari」にAIを搭載する計画はまだ聞こえてこない。もちろんカメラのレンズが捉えたものをiPhoneが検索することもない。同じことは、サムスンの「Galaxy S24」に初めて搭載されたGoogleのもう1つのモバイル機能、「かこって検索」についても言える。これはスマートフォンのディスプレイに映っているものを指やスタイラスを使って丸で囲み、検索する機能だ。多少の手間はかかるものの、iPhoneユーザーでも利用できるようになった。しかし、「Android」スマートフォンの場合ほどシームレスではない。
Googleは、生成AIを使ってアクセシビリティーを強化する方法も披露した。アクセシビリティーはAppleが長らくリードしていた領域だ。「Gemini Nano」は、スマートフォン用の小さなGeminiであり、Androidの音声読み上げ機能「TalkBack」を強化することで、Appleが長年、高い評価を得てきたアクセシビリティーの領域でAppleに挑む。マルチモーダルなAIであるGeminiは、altテキストのような説明を即時に画像に付与できる。
Googleの次期モバイルOS「Android 15」もまもなく登場する見込みだ。Android 15には、Geminiがよりシームレスに統合されるだろう。特定のタスクを処理するためのGemini、「Gems」も登場する。Gemsを使えば、毎日のワークアウトのルーティンを作って(そして応援して)もらったり、手の込んだ料理の準備をサポートしてもらったりすることができる。Geminiと音声で自然な会話を交わしながら質問を投げかけ、回答が得られる新機能「Gemini Live」も登場する。
AppleとGoogleを直接比較した場合に、AppleがGoogleに対して最も後れをとっていると思われるのは、生成AIを使った音楽や動画の作成、画像生成の改善といった分野だろう。Appleは人間の創造性を支援することをブランドの価値としてきた。そのAppleが、生成AIを「写真」アプリや「Final Cut」、「iMovie」といったソフトウェアに統合することを検討しているとすれば、興味深い話だ。
2024年のGoogle I/Oの基調講演はAI祭りの様相を呈していたが、Google王国にはまだAIの光が届いていない領域がある。例えば、次期「Pixel」に関する話題はまったくなかった。同社が5月初旬に「Pixel 8a」を発表したのは、Google I/OでAIに集中するためだったのかもしれない。実際、Google I/OではPixelの新たなフラッグシップモデルや新型「Pixel Fold」、「Pixel Watch 2」の後継機に関する情報もなかった。
そう考えると、AppleがWWDCで大きな注目を集める余地はまだ残されている。例えばSiriやiOS 18、その他のOS関連の新機能、そしておそらくはドキュメントの操作・検索にAIを活用する方法について、Appleが新たな情報を出してくる可能性は高い。
また、Google I/Oではさまざまな改善や追加機能の発表があったが、まったく新しいAI機能の発表はなかった。そのため、もしAppleが画期的な新機能の発表を計画しているなら、注目を集める可能性は十分にある。
もっとも、それが何かを推測することは難しい。AppleはAI競争で後れをとっている。競合製品との差別化を維持するためには何らかの新機能を導入し、ユーザーを勝ち取らなければならない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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