現在、Appleが作っているのはポケットに入れたり、手首につけたり、デスクに置いたりできるデバイスだ。しかしAppleが次に生み出す製品は、比喩的にも物理的にも、より大きなものとなるかもしれない。
Appleが家庭用ロボットの開発を検討していると、Bloombergが報じている。この記事によると、Appleが検討しているコンセプトは2つあり、1つは家の中を動き回るロボット、もう1つは卓上型ロボットだ。ただし、Appleのロボット構想はまだ初期の段階にあり、必ずしも製品化されるとは限らないと記事は伝えている。
もちろん、家庭用ロボットの可能性に注目した企業はAppleが初めてではない。しかし、「家庭で働くロボット執事」というSF的なアイデアを実現しようとする試みは、主に2つの理由から軒並み失敗に終わってきた。第一の理由は価格が高すぎたこと、第二の理由はスマートフォンやコネクテッドカメラ、スマートスピーカーといった既存の技術と明確に差別化できる特別な機能がなかったことだ。
Appleは大きな影響力を持つ世界有数のテクノロジー企業であり、新興ロボット企業にはない大きな強みをいくつも持つ。しかしAppleをもってしてもなお、家庭用ロボットの価値を証明することは容易ではない。
この件についてAppleにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
Bloombergによると、Appleが最初に目指したのは家事を手伝える可能性もある、自律走行型のビデオ会議用ロボットだったという。しかし、技術面の制約から家事機能の実現可能性は低く、「絵に描いた餅」の域を出なかったと記事は伝えている。とはいえ、このアイデアはAmazonがロボット「Astro」を通じて目指しているものとよく似ている。AstroはAmazonの音声アシスタント「Alexa」を搭載した移動可能なロボットで、セキュリティカメラとしても機能する。
2つ目の卓上型ロボットのアイデアは実現可能性が比較的高く、技術的な観点からも無理がない。しかしBloombergによると、卓上型ロボットはAppleの開発計画から消えたという。このロボットはAmazonの「Echo Show 10」のような可動式のスマートディスプレイとして構想されていたようだ。Echo Show 10は、ディスプレイと内蔵カメラが動くため、ビデオ通話中に自分がフレームから外れていないか心配する必要がない。部屋全体を見渡せるため、自宅のセキュリティカメラにもなる。
記事によると、AppleはFaceTimeでの通話中に、まるで相づちのように「うなずく」ことのできるスマートディスプレイの搭載を考えていたようだ。通話中に特定の人物に焦点を合わせる、「iPad」の「センターフレーム」に似た機能も検討されていたという。
おそらく、家庭用ロボットの最大の課題は市場が確立されていないことだろう。
Amazonが2021年9月に発表したAstroは、家庭用ロボットとしては過去最大の注目を集めたプロジェクトと言えるかもしれない。しかし発表から2年以上がたった今も、AstroはAmazonの実験プログラム「Day 1 Editions」を脱しておらず、購入は招待制だ。価格はモデルによっては1600ドル(約24万7000円)もする。これは「iPhone」と「iPad」を合わせた金額よりも高い。
AmazonはAstroにペット検知などの新機能を追加したほか、企業向けにセキュリティ機能を強化したバージョンもリリースした。しかし、今後の展開については多くを語っていない。
家庭用ロボットは、AmazonやAppleのような広範な影響力や豊富なリソースを持たない中小企業からも販売されたが、成功をおさめたものはない。例えば2017年には、Amazon Echoや「Google Home」といった音声対応スマートスピーカーが盛り上がるなか、「Jibo」というロボットが登場した。
Jiboの開発者たちは、このロボットに愛らしい個性を与えることで、他のホームアシスタントとの差別化をはかったが、機能面の弱さが目立った。しかも、価格は一般的なスマートスピーカーより大幅に高い899ドル(約13万8000円)だったにもかかわらず、利用できる機能も連携できるサービスも見劣りがした。
2013年にはスマート玩具メーカーのAnkiがAppleの開発者会議「Worldwide Developers Conference(WWDC)」の基調講演に登場し注目を集めた。Ankiは2016年にピクサー風のかわいらしい姿をしたSTEM教育用ロボット玩具「Cozmo」で注目を集めたが、資金調達に失敗して2019年に廃業したと当時のVoxの記事は伝えている。
同じように家庭用コンパニオンロボットとしてカリスマ的な人気を誇ったMayfield Roboticsの「Kuri」も、あっけなく消えた。
Jibo、Anki、Kuriの失敗は、ロボットを家庭に送り込む際の課題を浮き彫りにしている。どのロボットも、それぞれに楽しく、革新的で、印象的だったが、高い価格に見合うだけの実用性がなかった。
Appleは、家庭用デバイス市場の覇権を握っているわけではなかったため、この分野でAppleが新しい製品カテゴリーを確立することは難しかったかもしれない。一方、Amazonが2014年末に発表した初代Echoは予想外のヒットとなり、「インターネットと接続したスピーカー」という新たな市場の創出に寄与した。
米CNETが調査会社International Data Corporation(IDC)から入手した数字によると、それから10年近くたった今も、Amazonはスマートスピーカー市場のリーダーの座にあり、米国では2023年のスマートスピーカー出荷台数の45%以上を占めた。2位はGoogle、Appleは3位だ。
実用的で賢いロボットを開発し、適切な価格で売ることは今も難しい。しかし、Appleに利がないわけではない。例えばBloombergの記事を読むと、Appleは頓挫した電気自動車プロジェクトを通じて、家庭用ロボットに転用できる技術を手に入れた可能性が高い。
Appleの人気ビデオ通話アプリ「FaceTime」も、Appleが開発する個人用ロボットの強みとなるかもしれない。特にBloombergの記事で言及されていた卓上型ロボットは、没入度の高いFaceTime通話に寄与するだろう。Appleは個人情報の保護でも多くのテクノロジー企業より高い評価を得ている。これは自宅にロボットを迎える際の安心材料となるはずだ。
その一方で、JiboやAnki、そしてKuriが束の間の注目を集めた時代から、テクノロジーは大きく進化していることも忘れてはならない。人工知能(AI)、特に生成AIの進歩によって家庭用ロボットはより賢く、より有能になっていくだろう。会話はこれまでよりもずっと自然になり、人間に代わって効率的に仕事をこなせるようになるかもしれない。
Appleは、ヘッドセット「Vision Pro」のような新製品を通じて、かつてiPhoneが起こした革新を再び生み出そうとしているという見方が広まっている。Bloombergによれば、ロボットもその1つなのだろう。
しかし筆者が2023年の記事で指摘したように、Appleが生み出す次の画期的な製品が、2007年に初代iPhoneがデビューした時と同じような衝撃をもたらすことは考えにくい。世界は様変わりしており、Appleの近年の人気商品は一夜にして成功したというより、じわじわと人気を広げている印象が強い。例えば「Apple Watch」は、健康や運動に関するデータのトラッキングという新たな習慣の誕生に貢献し、「AirPods」はヘッドホン業界に変化をもたらした。こうした製品は、私たちのテクノロジーの使い方に少しずつ影響を与えている。
もしAppleが本当に家庭用ロボットを開発するなら、この製品はVision Proと同じポジショニング――つまり、新しいタイプのコンピューターと位置づけられることになるだろう。このロボットはiPad、「Mac」、Apple Watch、iPhoneの良いところを集めた、自立走行が可能なものとなるはずだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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