2月2日、米国限定で発売されたアップル「Apple Vision Pro」をハワイ・アラモアナショッピングセンターにあるアップルストアで購入した。
実は17年前の2007年、3Gにも対応していなかったiPhoneが米国のみで発売された時も、このアップルストアに弾丸でやってきて購入した、思い出のアップルストアだったりするのだ。
筆者はApple Vision Proに関しては、昨年6月、アップルの開発者向け会議「WWDC」で披露された際、現地で一度、体験をしている。その感動は半年以上が経過しても忘れられず、正直言って、その後、他社から出てきたVRやMRデバイスに興味が抱けないほどであった。
昨年、発表された時から、Apple Vision Proは現状、最も完成度の高い没入型ヘッドセット端末であることは間違いない。
もちろん、日本円にして50万円を超える値段であり、ソニーの片目4Kディスプレイを採用するなど、最先端のテクノロジーが詰まったデバイスを考えれば当然だろう。
しばらく使って実感するのは、Apple Vision Proを「VRやMRデバイス」として評価をすると真価を見誤ることになる。Apple Vision Proは「空間コンピュータ」として、MacBookの次のデバイスとして評価していくべきだ。
アップルとしては、2024年現在、持ち得ているすべての技術を投入した最高傑作デバイスを市場に投入し、誰からも「ここが不満。アップルは落ちぶれた」なんて言わせないようにした製品を「Apple Vision Pro」と命名。ここから、機能を絞るなど廉価に振ったモデルを「Apple Vision」、さらには安価なモデルを「Apple Vision SE」として今後、販売していくのではないか。
当然のことながら50万円を超えるようなデバイスが飛ぶように売れるわけがない。いま、買っているのは、これまでVRデバイスを購入し続けてきた人と、アップル好きぐらいなものだろう。
アップルもそんなことは重々承知で、これから何年もかけて新製品を投入し、市場をつくり、いつしかシェアを圧倒的に握って「一人勝ち」を決めるはずだ。
まさに、ここ最近で言えば、iPadやApple Watchなど、まさに最初は高くても、毎年、新製品を出し続け、時には廉価版を投入することで、市場を独占してきた成功体験をApple Visionでも繰り返すはずだ。
さて、ハワイからの帰国後、Apple Vision Proの操作にも慣れ、最近では仕事にも使い始めている。ただ、Apple Vision Proはいまのところ、英語のみの表示となっている。標準では日本語の入力も不可だ。最近になって、日本語入力できるアプリが登場したが、WordやPagesで快適に文書作成できるまでには至っていない。
実はApple Vision Proのアプリが配信されるAppStoreが米国版のみしか対応していない。
本来はiPhoneやiPad向けのアプリもApple Vision Proで使えると言う触れ込みであったが、NetflixやYouTube、DAZNなどはiPhoneやiPad向けのアプリもApple Vision Proで配信していない状態だ(YouTubeは開発表明をしているが)。
普段、iPadやiPhoneで使ってるアプリが、Apple Vision Proではほとんど使えない状態にあるので、Apple Vision Proを思ったほど活用できていないのが現状だ。
となると「仕事には全然、つかえないじゃん」ということになるのだが、実はそんなことはない。Apple Vision Proは、MacBook Proの画面表示を取り込む事が可能となっている。
Apple Vision Proを装着すると、パススルーで部屋の様子がそのまま、視界に現れるのだが、その上に手元にあるMacBook Proの画面を大写しにできるのだ。
実際、この原稿もApple Vision Proを装着し、目の前に120インチ相当の大画面として、部屋の空間に浮かび上がらせた状態で執筆している。文字入力はMacBook Proのキーボードを使っている。
Apple Vision Proで表示させると、実に文字がクリアに見えるので、とても快適なのだ。この文字のクッキリさはいままでの没入型ヘッドセットではあり得なかったクオリティだ。
単にMacBook Proの画面を目の前に大きく表示するなら、Xreal Airでも十分かも知れない。
ただ、Apple Vision Proだと、大きく表示するサイズを自由に変更できる。また、他のアプリを同時に起動しておき、MacBook Proでの仕事が飽きたら、今度はApple TV+で映画などを見るということができてしまうのだ。
また、Apple Vision Proでは「ペルソナ」として、Apple Vision Proのカメラで予め撮影した自分の分身を作っておける。これにより、本来であればヘッドセットを被っているのでZoomやTeamsなどのビデオ会議に参加できないが、ペルソナを相手に表示させることで、ビデオ会議を進めることができるのだ。
実際にペルソナを作ってみると、自分としては納得がいかないクオリティなのだが、他人から見れば、さほど違和感ないようだ。
アップルがApple Vision ProをVRやMR、メタバースと言う言葉を使わず「空間コンピュータ」と言い続けているのが「こういうことか」と納得してくるのだ。
未来のコンピューターは、空間上に様々なアプリを同時に起動し、大画面で思う存分、仕事やエンターテインメントを渡り歩いて生活するためのものなのだ。
もはや、MacBook ProやiPadなど10何インチのなかで、チマチマとアプリを起動して、仕事をやるような時代ではなくなってくるのだ。
実はハワイから帰国する飛行機のなかでもApple Vision Proを起動して使ってみた。エコノミーの窓側ではあったが、映画を目の間に大写しにして、浮かび上がらせて表示できるので、とにかく快適に楽しめたのであった。
Apple Vision Proは空間コンピューティングということで、実は飛行機のエコノミークラスの席や、駅ナカにある公衆電話ボックスサイズのワークスペースなんかととても相性が良いような気がしている。あのなかで仕事をしても、空間上に無数のアプリを起動しておき、様々なアプリを渡り歩いて仕事ができてしまうのだ。
テレワークで自宅に巨大なディスプレイを何枚も置くというのは、日本の住宅事情でかなり難しかも知れないが、Apple Vision Proであれば、同様の使い勝手は簡単にできてしまうのだ。
Apple Vision Proは日本市場にこそ相性のいい次世代コンピュータなのかもしれない。
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