前編に引き続き、Humaneのウェアラブルデバイス「Ai Pin」を試した米CNET記者のハンズオンレビューをお届けする。
Metaの人工知能(AI)対応スマートグラスと同じように、Humaneの「Ai Pin」も広角カメラで周囲をスキャンし、ユーザーが見ているものの情報を処理して、それに反応する機能を備えている。結果には、かなりのバラつきがある。「Look(見て)」とデバイスに伝えてから、何を言わせたいかを考えなければならないので、まるでランプの精霊に何かを尋ねているかのように感じる。有用な答えを返すこともあるが、全く何も起こらないというときもある。
Ai Pinに何かを読み上げさせたり、車や植物、現在地などを識別させたり、室内の状態を説明させたりすることも可能だ。写真を撮ってから、Ai Pinの答えが返ってくるまでには、数秒以上かかる。確かに、認識機能のあるカメラを身に着け、それが補助デバイスになる未来というのは興味深いアイデアで、「Ray-Ban Metaスマートグラス」を試したときにも思ったことだ。Ai Pinの補助的機能のプロセスは、筆者が望むほど自動的でもスムーズでもない。AIが全く役に立たなかったこともあるし、同じ質問に対して答えが違うこともあった。
静止画や15秒の動画を撮影することもできる。カメラの画質は合格点だが、素晴らしいというほどではない。画面もビューファインダーもないので、Ai Pinで撮った写真がどう見えるかを予測するのは難しい。手のひらに投影してプレビューすることはできるが、写るのは青ベースのモノクロームだ。カメラを身に着けているだけで、いちいちスマートフォンを手に取らなくても日常の瞬間を撮れるのは面白いかもしれないが、全体的には、Metaのスマートグラスのほうが筆者は好みだ。撮影のフレームを決められるし、カメラの画質も高いように筆者には感じられる(Ai Pinのカメラ性能が実際にどれほどのものか答えを出すには、もっと使い続ける必要がある)。動画も録画時間に上限があるので、リアルタイムのちょっとした記録を保存する目的以外で使うことはないだろう。
ソフトドリンクの缶を手に持って、「look and tell me what this is(これを見て、どんなものか説明して)」とAi Pinに頼んでみたが、応答はこうだった。「『ラック』は、『Apple TV+』で配信された2022年の映画です。世界で最も運の悪い女の子Sam Greenfieldが『運の国』に来てしまい、魔法の生き物たちと力を合わせて自分の運勢を乗り越えようとします」。おそらく、筆者が「luck and tell me what this is(ラック、どんなものか説明して)」と言ったと聞き間違えたのだろう。簡単に言えば、音声制御のAIを筆者が試すと、大抵こうなるのだ。
Ai PinのAIが機能したときは、確かにおもしろい。次の列車が何時に地元の駅に着くか尋ねたところ、正しい答えを返してきた。ニューヨーク・ジェッツのオフシーズンでの人の動きはどうか尋ねてから、選手の統計も聞いてみた。同じことをスマートフォンでもできるが、「Siri」や「Alexa」のようなサービスは、音声のリクエストを毎回これほどスムーズに処理するわけではない。
問題は、現在HumaneのAIで提供されている生成AIアシスタントが、筆者の使っているどのサービスとも関連付けられてないことと、答えが一定していないことだ。
Ai Pinは筆者の普段の世界から切り離されている。自己完結型でセルラー接続するデバイスなので、筆者のスマートフォンとは全く同期されない。スマートフォンアプリの代わりに、Ai Pinにはウェブダッシュボードがあり、AIへのリクエスト、写真や動画、サービスなどはすべてそこで管理される。
Humaneが目指している意欲は評価するが、筆者は自分のデジタルライフを丸々やり直している気がする。もともと利用しているカレンダーのデータも、メールも、メモも何もかもAi Pinは把握していない。「Uber」で車を呼ぶことも、買い物履歴を見ることもできない。ある意味では安心できるとも言えるが、どれだけ多くのサービスがまだ統合されていないかということも実感させられる。
Humaneのウェブダッシュボードは現在、Appleとつながって連絡先を同期できる。Microsoft(同じく連絡先を同期)、Google(連絡先のほか、「Googleフォト」にも同期)にも接続する。対応している音楽サービスは1種類、「TIDAL」だけだ。TIDALをサブスクしているなら、Ai Pinで楽曲をストリーミング再生し、Bluetoothでヘッドホンをペアリングできる。
Humaneの創業者によると、今後、各種サービスへの対応は増えるという。本稿を執筆している時点では、まだ初日を迎えてさえいないのだ。それでも、ユーザーを支援する機能を全面的にAIサービスに依存しているデバイスである以上、Ai Pinを有用と感じるためには、そうしたサービスがうまく機能しなければならない。
一定の機能をまだ使えない、とAi Pinが言ってくる場面は実に多かった。メールを送れなかったり、タイマーをセットできなかったりした。栄養価をチェックできなかったし、リマインダーも設定できなかった。Ai Pinに何かを「記憶」させることはできる。ウェブダッシュボードにメモとして保存されるのだ。Ai Pinが後から思い出させてくれる。例えば、自分の子どもの名前でも。筆者としては、別の場所にすでに保存してあるメモをインポートできるようにしてほしい。
Ai Pinは、例のレーザー表示を数分以上使うと必ず過熱して、冷まさなければならなかった。本体の過熱は、アラートで知らされる。そうなると、Ai Pinは全く使えなくなるので、その点は懸念が残る。第一に、Ai Pinを使う必要があるときにそうなったらどうするのか。第二に、胸元に着けているデバイスが急に熱くなったらこわいだろう。
Humaneの創業者であるBethany Bongiorno氏によると、これはAi Pinの熱管理の一環だという。この問題がアップデートで改善されることを筆者は願っている。筆者にとっては、すでにこれだけ問題が山積みなのに、これで日常的な用途をどう処理するのか、気になるところだ。
Ai Pinを外したくなっている。スマートウォッチほど有用ではないし、Metaのスマートグラスほど面白くない。あまり慣れていない部分に身に着けるので、装着するのが簡単ではない。外出するときは気になってしまう。落ちてしまわないか、雨に濡れたらどうしよう(防水仕様とは書かれていない)。高価なものだから、シャツから剥ぎ取られて盗まれてしまうかもしれない。
こういう日常的な不満が積もり積もっていく。とはいえ、まだAIウェアラブルは始まったばかりだ。Ai Pinを、予定している旅行先でも試してみて、アップデートも待ってみよう。見かけはかわいいし、魅力的だ。新しいテクノロジーは好きなのだが、今のように使い方に難があるのは、好ましくない。
スマートフォンを見ないような、注意散漫と無縁の生活を送りたいのだとしたら、意識することなく操作できるアンビエントテクノロジーがスムーズに動作しなければならない。Ai Pinにとって、それは容易なことではない。それに、今の時点では、まだまだ多くの改良が必要だ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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