コンピューターには、「役に立つもの」から「むしろ生産性を低下させるもの」へと変化する転換点がある。筆者が仕事で使用しているIntel搭載の16インチ「MacBook Pro」にも、そうした転換点が訪れた。Appleの「M3」チップを搭載した最新の「MacBook Air」をテストしたところ、このMacBook Proの性能面で劣る点がより明白になったのだ。AppleがM3チップの性能の良さを、古い「M1」チップやIntelを搭載したMacBook Airと比較し続けているのには、十分な理由がある。アップグレードすることで最も利益を得られるのは、これらのデバイスのユーザーだからだ。
M3シリコンは「M2」と比べても改良されており、性能の差は全体的に見ればそれほど大きくないものの、グラフィックス性能は大幅に向上している。この点は、われわれが2023年にレビューした14インチおよび16インチモデルのM3搭載MacBook Proとよく似ている。M3チップは、MacBook Proではベーシックな構成の14インチモデルに搭載されているが、最新のMacBook Airでは、13インチと15インチのすべての構成で採用されている。大幅な性能向上を求めるクリエイターの場合は、「M3 Pro」や「M3 Max」のチップを求めるだろうが、無印のM3は、MacBook Airの非常にポータブルなデザインによく合っており、筆者のIntel搭載のMacBook Proに圧勝している。
それ以外の部分もM3搭載MacBook Airは素晴らしく、M2搭載モデルとよく似ている。このことも、M1以前のモデルを使用している人がアップグレードを検討する理由になるだろう。
レビューに使用したApple MacBook Air(M3、13インチ、2024)の主な仕様
レビュー時の価格 | 1499ドル(日本では税込22万4800円) |
ディスプレイのサイズ/解像度 | 13.6インチ、2560×1664の「Liquid Retina」LEDバックライトディスプレイ |
CPU | AppleのM3チップ(8コアCPU) |
メモリー | 16GBユニファイドメモリー |
グラフィックス | Appleの10コアGPU |
ストレージ | 512GB SSD |
ネットワーク | Wi-Fi 6E(802.11ax)、Bluetooth 5.3 |
OS | AppleのmacOS Sonoma 14.4 |
新型MacBook Airの米国での価格は旧型と同様で、8GBのユニファイドメモリーと256GBのSSDを搭載した13インチモデルが1099ドル(日本では税込16万4800円)から、8GBのRAMと256GBのSSDを搭載した15インチモデルが1299ドル(日本では税込19万8800円)からとなっている。アップグレードしたい場合は、メモリーを16GBまたは24GBに、ストレージを512GB、1TB、または2TBに増やすことが可能だ。13インチモデルの最小構成のM3チップに搭載されているのは、8コアCPUと8コアGPUだ。さらに100ドル(日本では税込1万5000円)出せば、10コアGPUを搭載したM3チップにアップグレード可能で、メモリーやストレージを増やせば(それぞれ200ドル、日本では税込3万円)、10コアGPU搭載のM3チップがアップグレードとして付属する。このチップは、15インチモデルの標準チップでもある。どちらのチップバージョンも、16コア「Neural Engine」が搭載されており、人工知能(AI)や機械学習のタスクを高速で処理できる。
8GBのメモリーと256GBのストレージという最小構成は、1099ドルからという価格設定を考えると、けちくさく感じられる。われわれの経験から言えば、MacBook Airは8GBのユニファイドメモリーでも動作は十分だが、ユーザーができることと、本体の全体的な性能の寿命が制限されてしまう。ストレージは外付けディスクやクラウドストレージでいつでも増やせるが、メモリーには、そのような選択肢はない。200ドルを追加で支払う余裕のある人は、16GBのメモリーにアップグレードするといいだろう。
M2搭載モデルで新たに導入された主要な機能とデザイン要素は、M3搭載MacBook Airにもすべて引き継がれている。つまり、再生アルミニウムで作られたファンレスボディー、美しいLiquid Retinaディスプレイ、素晴らしい1080pの「FaceTime」カメラ、高音質のスピーカーシステム、「MagSafe 3」充電、2つのThunderbolt/USB 4ポートといったものは、すべてM3搭載MacBook Airにも含まれている。カラーバリエーションも旧型と同じで、ミッドナイト、スターライト、シルバー、スペースグレイが用意されており、ミッドナイトの仕上げには、指紋の付着を軽減する酸化皮膜シールが採用されている。
一方で、旧型の特徴がすべて引き継がれているということは、ディスプレイの上部には、カメラのノッチがまだあるということだ。ほかにも、キーボードには「Touch ID」があるものの、「iPhone」や「iPad」と違って「Face ID」は搭載されていないということ、MagSafeコネクターと両方のUSB-Cポートがすべて左側面に配置されているため、右側から充電できないということも残っている。通常、こうした点に対する変更は、大規模なアップグレードのときにしか実施されないので、筆者としては期待はしていなかった。それでも、その点が残念であることに変わりはない。
今回のM3チップ搭載モデルでは、2つの機能が追加されている。1つはWi-Fi 6からWi-Fi 6Eに移行したことだ。Wi-Fi 6E対応のルーターを使用している場合、それによって、無線通信がより高速になる。もう1つは、ディスプレイ対応だ。これまでのモデルのMacBook Airでは、外部ディスプレイは1台しか接続することができなかった。M3搭載MacBook Airでは、2台の外部ディスプレイをThunderbolt/USB-Cポートに直接接続することが可能だ。Thunderbolt/USB-Cポートは本体の給電ポートでもある。
ただし、2台の外部ディスプレイを使うには、MacBook Air本体を閉じる必要がある。表面的には、これは大した問題ではないように思える。外部ディスプレイでの作業するときにノートブックのキーボードやトラックパッドをいつも使用している人なら、話は別だが、筆者の場合、それよりも、キーボードのTouch IDが使えなくなることの方が問題だ。本体を開けてまた閉じればいいだけの話だが、筆者は1日に何度もTouch IDを使用するので、すぐにうんざりしてしまうだろう。それなら、Touch IDを搭載したAppleの「Magic Keyboard」を購入し、ついでに「Magic Trackpad」や「Magic Mouse」も購入して、アクセサリーをすべてそろえた方がいい。
M3搭載MacBook Airの新機能は、これでほぼすべてだ。13インチモデルと15インチモデルの間にも大きな違いはないものの、サイズという明らかな違い、そして、15インチの最小構成のM3チップには10コアGPUが搭載されているということ以外に、スピーカーにも違いがある。13インチモデルが4スピーカーサウンドシステムを搭載しているのに対し、15インチモデルはフォースキャンセリングウーファーを備えた6スピーカーサウンドシステムを搭載している。どちらも非常に高音質だ。まじめな話、筆者は長年のレビュー経験で膨大な数のノートPCのサウンドシステムを聴いてきたが、これほど高音質のものはほとんどなかった。
先にも述べたように、すでにM2搭載MacBook Airを持っている場合、アップグレードすべき理由はあまり多くない。クリエイターや、より高負荷のゲームをプレイしたい人なら(例えば、レビューでは「バルダーズ・ゲート」と「デス・ストランディング」を少しプレイした)、M2搭載モデルから真新しいM3搭載モデルに買い替えることに意味があるかもしれない。一方、M1搭載モデルやIntel搭載モデルのMacBook Airを所有している人には(Intel搭載のMacBook Proの所有者を含めてもいいだろう)、アップグレードすべき理由はたくさんある。
新型MacBook Airのレビューは数日しかできなかったが、米CNETのベンチマークテストは完了でき、性能は、われわれが2023年末にテストした14インチのM3搭載MacBook Proとおおむね同等だった。M3搭載MacBook Airは全体的にM2搭載モデルよりも高速だが、真価を発揮するのは、繰り返しになるが、グラフィックス性能だ。筆者の仕事用ノートブックである2019年モデルのIntel搭載MacBook Proも、M3搭載MacBook Airにかなわなかった。
念のため、Lenovoの新しい「Slim 7」もテストしてみた。Slim 7は、Intelの「Core Ultra 7」プロセッサー、「Arc」統合グラフィックス、32GBのメモリー、1TBのSSDを搭載した約1000ドル(約14万7000円)の14インチ有機EL搭載ノートPCだ。性能は、こちらもグラフィックスを除けば、M3搭載MacBook Airとほぼ同じである。グラフィックスに関しては、2020年モデルのM1搭載MacBook Airと同等の水準だった。
ところで、バッテリー持続時間が気になっている人のために説明しておくと、われわれが新型モデルを試した時間はまだ短いので、率直に言って、バッテリーの本格的なテストはまだできていない。おそらく、Appleが発表しているように、最大で18時間持続するはずだ。14インチのM3搭載MacBook Proは、われわれのテストで19時間近く動作した。こうした事情もあり、本レビュー記事では最終的な評価はまだ下していない。
いずれにせよ、M3搭載MacBook Airは、どちらのサイズもお薦めしやすい製品だ。古いMacBook Airからアップグレードするのであれば、M2モデルとM3モデルのどちらを選んでも、大幅な改善になるだろう。13インチのM2搭載MacBook Airは、現在では999ドル(日本では税込14万8800円)のエントリーレベルモデルとなっている。15インチのM2搭載MacBook Airは販売終了したので、おそらく、お買い得品がすぐに見つかるはずだ。しかし、STEMやデザイン、動画のレンダリング、未処理の写真の編集にMacBook Airを使用する予定の人は、M3搭載MacBook Airを選択して、少なくとも16GBのメモリーにアップグレードした方がいいだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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