Mobile World Congress(MWC)の会場で、ドイツの通信事業者Deutsche TelekomによるコンセプトAIスマホのデモを見た。この端末に飛行機のチケットを取りたいと伝えると、生成AIがホーム画面を即座にカスタマイズし、生成されたインターフェース上で支払まで完了できる。目を見張った。理解が追いつかないが、これはうれしい驚きでもある。
この技術は、Deutsche TelekomとサンフランシスコのAI企業Brain.aiが共同で開発しているものだ。デモでは、この技術を搭載したDeutsche Telekomのスマートフォン「T Phone」が使われた。
Brain.aiの最高経営責任者(CEO)のJerry Yue氏が、このT Phoneで何ができるかを説明してくれた。Yue氏はまず、3月12日にバルセロナからロサンゼルスに行くための航空券をファーストクラスで2人分予約したいと端末に伝えた。1分ほど待つと、端末のホーム画面に候補となるフライトのリストが表示された。この中から希望するフライトを選んだら、あとは好きなモバイル決済システムで即座に支払いまで完了できる。他のアプリやサービスに切り替える必要は一切ない。
「今のアプリシステムはユーザーが考えなければならないことが多い」とYue氏は言う。「しかし今後はAIにしたいことを伝えるだけで、AIが必要なフローを組み立ててくれる」
新時代の到来を告げた「ChatGPT」の公開から1年余り。2024年のMWCはAIへの期待にあふれていた。荒唐無稽なアイデアだけではない。AIをデバイスに組み込み、その計算能力をこれまでにない用途に活用しようという興味深いアプローチもあった。その中には理解しやすいものもあれば、そうでないものもあった。
T Phoneのコンセプトを説明しよう。今、私たちが慣れ親しんでいるスマートフォンはアプリを中心に設計されている。それに対して、T Phoneはインタラクティブな生成AIを使い、自然な会話を通じてユーザーがタスクをこなせるよう支援する。端末の側面にあるAIボタンを押すとAIアシスタントが起動する。ユーザーにとってT PhoneのAIアシスタントは、普段は待機していて、呼び出されれば瞬時に飛び出すランプの魔神「ジーニー」のような存在だ。
いずれスマートフォンのアプリは消える――そう主張するのはDeutsche TelekomのCEO、Tim Hoettges氏だ。同氏は3月3日、MWCの会場で今後5年から10年の間にスマートフォンのアプリは消滅すると語った。なぜか。AIがアプリに取って代わるからだ。
その証拠が、このT Phoneだという。
航空券のデモを見ても、最初は理解が難しかった。Yue氏の説明によれば、T Phoneはユーザーの指示に従って、チケット予約アプリ(Skyscanner)、ブラウザー、Amazonアプリを行ったり来たりしているわけではない。そうではなく、T Phoneはユーザーが必要とする情報を自ら判断して集め、ユーザーにとって最も役立つと思われる形に並び替え、ホーム画面に表示する。
「このように、T Phoneはユーザーの状況を理解し、その場でインターフェースを組み立てる」とYue氏は言う。「このインターフェースは、ユーザーの言葉をもとに生成される」
このような挙動のスマートフォンを見るのは初めてだった。いずれ、この技術がスマートフォンの基本の操作方法になる日が来るとしても、まだ先の話だろう。しかし、ひとたび理解してしまえば、この方法は実に合理的だ。Appleが15年以上前に「iPhone」に「App Store」を導入したとき以来の規模で、スマートフォンの使い方が大きく変わる可能性がある。T Phoneに搭載されるAIは、アプリをスマートフォンの体験の中心に据える代わりに、各サービスのAPIを利用し、自らユーザーの指示に応えるためのツールや有益な情報を見つけ出す。
しかも、この技術はクラウド上で複雑な処理を行う格安スマートフォンを含む、幅広いスマートフォンで動作する。ただしハイエンドのデバイスの場合は、Qualcommのチップセット「Snapdragon 8」の助けを借りて、端末上でAI演算を行う。QualcommのAI戦略を統括するZiad Asghar氏は、比較的シンプルなタスクを1つの体験に圧縮するT Phoneの能力を高く評価する。
Asghar氏はレストランの予約を例にとり、たいていの人は店を予約する際、「Googleマップ」、口コミを調べるための「Yelp」アプリ、レストラン予約のための「OpenTable」アプリ、カレンダーアプリ、メッセージアプリを行ったり来たりすると指摘する。「レストランを予約するだけで5つのアプリを使う。しかし端末にバーチャルアシスタントのようなインターフェースが搭載されていれば、すべてを任せられる」と同氏は言う。
Yue氏がチケット予約のデモに続いて見せてくれたのは、T Phone上に生成されたインターフェースをもとに、新しいインターフェースを生成するデモだ。「社内では『anything to anything』と呼ばれている」とYue氏は言う。また謎めいたコンセプトが出てきた、と思わず身構える。
Yue氏はT Phoneの画面におすすめ商品として表示された「Kindle」を親指で押すと、開封動画を再生してと指示した。すると、ディスプレイが真ん中で2分割され、下半分に「YouTube」の動画が表示された。続けて、Yue氏が画面のサイズはどれくらいか、類似製品と比較して、といった質問を投げかけると、そのたびに質問内容に合わせてインターフェースが再生成または調整された。「私の考えに合わせて、表示される情報が自動的に変わっていく」とYue氏は説明する。
最初、Yue氏のビジョンを聞いたときはピンとこなかったが、今は未来を垣間見た気がする。実際、デバイスとのコミュニケーション方法としては、現在のやり方よりも自然で人間らしく感じるはずだ。
「生成AIとAIは日常生活の生産性を高め、退屈なルーチンワークの一部を担ってくれる。その結果、人間ははるかに重要だと思われることに時間を割けるようになるだろう」とQualcommのAsghar氏は言う。
「今はまだ黎明期だが、未来には多くの変化が待っているはずだ」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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