「rabbit r1」は、手のひらに収まるサイズながら、質問に答えることもできるし、ボタン1つで「Spotify」のプレイリストを起動したり、タクシーを呼んだりすることもできる。というと、おなじみの宣伝文句に聞こえるかもしれない。だが、rabbit r1は従来の意味でいうスマートフォンではなく、人工知能(AI)を搭載したパーソナルアシスタント専用機をうたっている。199ドル(約2万9000円)で、3月後半に出荷される予定だ。
スマホは実に多機能だ。休暇中のスナップ写真も撮れるし、延々と短い動画を流して楽しんだり、個人のスケジュール帳になってくれたりもする。しかし、その多機能さがあだになっていると考えたのが、AI技術のスタートアップ企業rabbitの創設者で、最高経営責任者(CEO)も務めるJesse Lyu氏だ。スマホでは無数のアプリや機能を使えるが、そのためにシンプルさが犠牲になっていると考えた同氏は、rabbit r1でそれを変えようとしている。r1は、先日の「CES 2024」で発表された。
r1を操作するときには、アプリを起動するわけではない。物理的な通話ボタンを押して、トランシーバーに話しかけるときと同じように、質問したり、Spotifyで曲を再生するよう伝えたりする。r1のソフトウェアを動かしているのは大規模なアクションモデル、つまりアプリやインターフェースの使い方を人間から学習し、そのプロセスを複製して自動化できるようにするアルゴリズムである。Lyu氏はこれを、何かテイクアウトしたいときに、友人にスマホを渡して代わりに注文してもらうようなものだ、と例えている。
rabbitのr1が実行できるとうたっていることを、ほぼ同じように実行できる仮想アシスタントなら、ほかにもたくさんある。GoogleとAmazonも、自社の仮想アシスタントに生成AI機能を組み込み、複雑な要求を少しでも簡単に処理できるよう機能向上を図っている。だが、Lyu氏は、スマートフォンとは独立した、専用のデバイスの必要性を感じている。その方が、気が散らなくていい。スマホで同じことができるからといって、その方が操作性に優れているわけではない、とLyu氏は主張している。
われわれがスマホにどれだけ依存しているかを考えると、この主張にはかなりの説得力が必要だろう。Reviews.orgが実施した調査によると、米国人の89%は起きてから10分以内にスマホをチェックしており、枕元に置いて就寝するという回答も60%にのぼった。にもかかわらず、スタートアップ企業のHumaneが先頃「Ai Pin」を発表したのに続いて今回r1が発表されたのは、やはりテクノロジー企業各社がAIを軸に新たなガジェットを作り出したいと考える傾向が強まっている兆候だろう。実際、rabbitのうたい文句に魅力を感じた多くの人が、r1を予約している。同社によると、事前予約の初日だった米国時間1月10日だけで、1万台の予約があったという。
rabbit r1は鮮やかなオレンジ色で、小ぶりな画面とスクロールホイールが、懐かしさやレトロな雰囲気をかもし出している。驚くほど軽く、サイズは一般的なスマホのちょうど半分くらい。筆者の「iPhone 15」の上にr1を置いてみた以下の写真のとおりだ。実際、そのサイズと形状は、サムスンの「Galaxy Z Flip」や「motorola razr」の2023年モデルを閉じて使っている状態と似ている。ただし、それらよりずっと軽量だ。
r1も物理的にはスマホと共通する部分が多い。タッチスクリーンやカメラがそうなのだが、その使い方は同じではない。
例えば、r1は一般的なスマホ向けOSを搭載しておらず、2.88インチのディスプレイには、ユーザーの要求に応じてカードが表示される。カメラも、「Instagram」で投稿するような記録用ではなく、冷蔵庫にある材料の写真を撮ってレシピのアイデアを生成するといった、視覚的な問い合わせに利用されることを想定している。
スマホという位置付けではないものの、r1で電話をかけることは可能だ。SIMカードスロットがあり、Wi-Fiとセルラー通信に対応しているからだ。搭載されているプロセッサーは2.3GHzの「MediaTek Helio P35」で、ストレージは128GB、RAMは4GBとなっている。
rabbit r1は、一般的に言うアプリがインストールされているわけではなく、サービスに接続して要求を実行する。Spotifyでプレイリストを再生する場合でも「Uber」で配車を依頼する場合でも、オンラインポータルを介して各アプリをrabbitアカウントにリンクする必要がある。r1で使うと想定されるサービスをいちいち手作業で接続しなければならないので、これ自体は面倒なプロセスになるかもしれない。rabbitによると、ログインデータは保存されず、認証はアプリ側のシステムで処理されるという。
r1でタスクを実行する際には、rabbit独自の大規模アクションモデルと、OpenAIの「GPT-4」モデルを利用して、発話された要求を理解する。筆者は、試した短時間で音楽を再生させたり、基本的な知識ベースの質問を尋ねたりしてみた。画面にはアニメーションで動くウサギが表示されていて、本体の脇にある物理ボタンを押して指示を伝えるときに、その耳が立つ様子がかわいらしい。ただし、スマホ以上に高速で効率的に処理をこなせるほど、パーソナルアシスタントとしてうまく機能するかどうかを判断するには、もう少し時間をかけて付き合う必要がありそうだ。
このr1を投入したrabbitは、すでにスクリーンとセンサーであふれ返っている世界で、われわれの生活の中に新たなガジェットを浸透させるという大胆な目標を掲げている。過去1年間で高まってきたAIに対する関心に応えて新しいハードウェアが開発されるというのは、興味深い。とはいえ、「ChatGPT」や「Google Bard」をはじめとするAIアシスタントを、すでに持っているデバイス上で使い続けるという選択肢もあることを考えると、新しいデバイスの購入を決断させるには、同社のソフトウェアで実現される体験にそれなりの説得力がなくてはならないだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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