楽天モバイルを有する楽天グループは、2月24日から開催している「MWC Barcelona 2024」にブース出展。楽天モバイル子会社の楽天シンフォニーを通じて海外に展開している、仮想化・オープン化といった新しい技術を取り入れたモバイル通信プラットフォームを展示している。
ブース内では、楽天グループや楽天シンフォニーに関するさまざまな講演も実施している。中でも会期2日目となる2月27日に実施された講演イベントでは、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏が登壇。楽天モバイル、そして楽天シンフォニーによる仮想化・オープン化技術によるモバイルネットワーク実現に向けた取り組みを改めて振り返った。
三木谷氏は冒頭、「この業界は何かが間違っていると考えていた」と、これまでネットワーク技術に大きな進化が見られず、少数の企業による寡占化が進んでいた携帯電話業界の現状に懸念を抱いていたと説明した。
そこで三木谷氏は、インターネットの通信速度が14.4kbpsの時代だった27年前に現在の楽天グループを創業し、さまざまなチャレンジを通じて世界的に70以上の事業を展開する大きな企業に育ててきた経験から、新たなチャレンジをするべく楽天モバイルで携帯電話事業に参入したと振り返る。当時はまだ懐疑的な見方がなされていたモバイル通信の仮想化・オープン化といった新しい技術の導入に踏み切ったとしている。
その上で三木谷氏は、楽天グループが現在、モバイル通信事業を担う楽天モバイルと、仮想化技術によるソフトウェアベースのプラットフォームを開発している楽天シンフォニーの2つの事業を持つことが、他社との大きな違いであり同社の優位性になっていると話す。
楽天モバイルはこれまで多くの特許を取得し、モバイル通信のソフトウェア技術開発に力を入れてきた。三木谷氏は、それを他社にライセンス提供することが業界の方向性を変えることにつながると考えて、楽天シンフォニーを立ち上げたとのこと。楽天シンフォニーの技術が世界中に、より高品質でリーズナブルなネットワークをもたらすことにつながると説明している。
その成果として楽天シンフォニーは、今回のMWC Barcelonaに合わせる形でいくつかを発表している。ウクライナの通信事業者であるKyivistrと、基地局など無線アクセス機器のオープン化を実現する「オープンRAN」の導入に向けた基本合意を締結したほか、フィリピンの通信事業者であるナウ・テレコムと5GのオープンRAN導入に向けた覚書を締結。また、オープンRANの導入を世界的に加速させる取り組みとして、「リアルOpen RANライセンシングプログラム」を開始したことを打ち出している。
だが、楽天シンフォニーにとって現在のところ最も大きな成果となっているのは、ドイツで携帯電話事業に新規参入した通信事業者の1&1が、同社のプラットフォームを全面的に採用して事業を開始したことだろう。三木谷氏の講演の後には1&1で携帯電話事業を担う、1&1 Mobilfunk CEOであるマイケル・マーティン氏らによるトークセッションが実施され、楽天シンフォニーのプラットフォームを導入した経緯や、その成果などについて説明していた。
マイケル氏は、1&1が携帯電話事業に参入した理由として、「ドイツの消費者や企業により良い経験を提供するためだ」と話す。新規参入となる1&1は、かつての楽天モバイルと同様ゼロからネットワークを構築する必要があったが、レガシー技術を採用した従来のネットワークでは顧客に思い描くサービスを提供できないため、楽天シンフォニーとの提携に至ったという。
同社は2022年から、楽天シンフォニーのプラットフォームを用いて5Gを活用した固定回線の代替となるFWA(Fixed Mobile Wireless、固定無線アクセス)サービスを提供。その後スマートフォンなどに向け本格的なモバイル通信サービスの提供に至っている。モバイル通信サービスはFWAと比べるとより技術的に複雑な要素が求められるというが、マイケル氏は、楽天シンフォニーらとのパートナーシップにより、新しい技術を全面的に取り入れたネットワークを構築し、顧客が満足できるサービスを実現できていると話す。
実際にマイケル氏は、「新しいお客さんがどんどんネットワークに入ってきているが、これまでのところ本当に安定して稼働している」と、プラットフォームの安定性を評価。またオープンな技術を採用しているため、ネットワークの規模が大きくなってもオープンRANの共通規格に対応する多様なメーカーの機器を導入できるとし、特定のベンダーによる“縛り”のあるレガシーなネットワークと比べ機器調達の多様性やコストなど、多くの面で事業者側にもメリットがあると楽天シンフォニーのプラットフォームを高く評価した。
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