楽天グループは2月14日、2023年12月期決算を発表。売上高は前年度比7.8%増の2兆713億円、営業損益は2128億円の赤字決算となった。
だが、同日に実施された決算説明会に登壇した、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、「楽天市場」などのインターネットサービス、「楽天カード」などのフィンテック、そして「楽天モバイル」などのモバイル各セグメントともに、さまざまな最適化を実施することでEBITDAベースでは単月での黒字化を達成するとし、業績が回復傾向にある様子をアピールした。
中でも懸念がなされているのは、赤字の最大の要因となっている楽天モバイルを含むモバイルセグメント。第4四半期単独で見ると営業損益は712億円と依然赤字ではあるものの、前年同期比では36.6%と、大幅な改善が進んでいるとのこと。通期でも3375億円の赤字だが、前年度と比べれば1417億円改善しているそうで、大幅な改善傾向にあるという。そうしたことから2024年内にはEBITDAの単月黒字化、2025年には通期での黒字化を目指すとしている。
その収益改善に貢献している1つが、楽天モバイルの契約数の伸びであるという。契約回線数は第4四半期末時点で609万、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)用の回線を除いても596万に達しているとのこと。2023年12月内の解約を除いた調整後解約率も1.13%にまで低減、通信品質を理由とした解約も大幅に減少しているとのことで、2024年12月には800~1000万にまで契約回線数を増やしたいとしている。
そしてもう1つ、収益改善に貢献しているのがコスト最適化であり、2023年12月には2022年9月と比べおよそ160億円のコスト最適化を実現。当初目標の150億円を超えた削減を実現できたとのこと。KDDIのローミング活用に方針を切り替えたことで投資コストも大幅に下がっているとのことで、仮想化技術の活用で免許を獲得したプラチナバンドの整備に関しても「劇的に安い値段で展開できる」(三木谷氏)と自信を示した。
一方で、収益改善に重要な要素の1つとなるARPUに関しては、第3四半期まで順調に伸びてきたものの、第4四半期に減少している。その理由について三木谷氏は「法人契約が入った影響がかなり大きい」と回答、第4四半期に法人向けの契約が大幅に増加したことでARPUが一時的に減少したとしている。
三木谷氏は今後、サービスの充実などによってARPUを2500~3000円にまで伸ばすことを目指すとしているが、現行の料金プラン「Rakuten最強プラン」は月額利用料(税別)の2980円が上限となるため、目指すARPUにまで伸ばすにはオプションなどの利用拡大が求められる。実際に三木谷氏も「いくつかの施策が必要かなと思っている」と答え、ARPUをさらに上げるには何らかの策が必要なことを認めている。
その具体的な策について、三木谷氏は現時点では手の内をあまり明らかにできないとしたが、「Rakuten Link」上での広告収入を増やすことには力を入れていきたいとのこと。「将来的には1人当たりの広告収入を(月額)300円くらいに上げていければいいなと頑張っている」(三木谷氏)と、強い期待を抱いている様子を見せた。
また、楽天モバイルは決算説明の前日に、家族割引サービスの「最強家族プログラム」の提供を新たに発表している。その狙いについて三木谷氏は「『楽天モバイルに入ってよ』と私も積極的に営業するが、『家族プランに入っている』というパターンがかなり多い」と説明。最強家族プログラムと紹介キャンペーンの併用でポイントを多く獲得できることをアピールし、家族で乗り換えてもらうことを狙っている様子を示した。
実際、楽天モバイルの常務執行役員CMOである河野奈保氏は、紹介キャンペーンで新規契約者を紹介した累計25万人のうち、推定で49%が家族を招待していたと説明。家族での契約と紹介キャンペーンとの親和性の高さが、最強家族プログラムの提供に至った要因の1つとなるようだ。
一方で、競合他社が力を入れている、金融サービスと連携した料金プランやサービスに関してはどうか。楽天グループ 代表取締役副社長執行役員の穂坂雅之氏は2023年末に実施した楽天カードと楽天モバイルのタイアップ企画の反応が非常に良かったことを挙げ、現時点で具体的な計画はないとしながらも「今後モバイルと合わせたプロダクトを考えていこうと思っている」と答えている。
他の事業に関しては、インターネットサービスセグメントは売上高が前年比9.8%増の1兆2000億円、営業利益が前年比18.9%の768億円と好調。ふるさと納税のルール変更や、「SPU」(スーパーポイントアッププログラム)の見直しなどがあったものの、「楽天トラベル」の国内流通総額がコロナ禍前の2019年を大きく超えるなど好調を維持し、業績は大きく伸びているという。
フィンテックセグメントに関しても、売上高が前年比11.2%増の7252億円、営業利益が前年比36.8%増の1229億円と好調な様子を示している。楽天カードなどが引き続き好調であるのに加え、国内株手数料無料化や新NISA開始によって楽天証券の口座数や投信積立設定額などが大幅に増加しており、今後さらなる拡大を見込めるとしている。
その一方で懸念されているのが、2024年からの2年間で求められる約8000億円の社債の償還だが、楽天グループは2024年2月に米ドル建シニア債の発行、及び2024年満期の米ドル建シニア債の現金対価による公開買付けを実施。これによって一部の社債償還を先送りし、2024年のリファイナンス(借り換え)リスクは解消したとしている。
2025年に満期を迎える社債に関しても早期にコントロールを図るとしており、非有利子負債による資金調達を柔軟に検討しているとのこと。その一方で、楽天グループの取締役副社長執行役員最高財務責任者である廣瀬研二氏は「エクイティファイナンスはひと段落というか、計画はない」とし、外部から新たな出資を募る考えは当面考えていない様子を見せた。
なお、三木谷氏は現在進められているNTT法の見直しについても触れた。国営時代に整備したインフラを用いて整備された光ファイバー網を公平に使えることを有形無形で定義しているNTT法が「通信業界の憲法ともいえると思っている」(三木谷氏)と説明。それを廃止することでNTTが国営時代に先祖返りし、携帯電話料金が大幅に上がることになりかねないとして「極めて慎重な議論が必要」と、改めて法の廃止に反対する姿勢を見せている。
その一方で、KDDIがローソンの株式を公開買付けによって取得し、三菱商事と共同経営することに関して、三木谷氏は「他社の戦略にコメントする立場ではない」として、具体的な回答を控えた。
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