通勤バスの後部へと向かいながら、筆者は普通のサングラスのように見えるデバイス(唯一の違いはフレームが少し分厚い点だ)を取り出して、「MagSafe」風の電源アダプターを「MacBook」に接続し、座席に腰を下ろすと、クリックやドラッグ、スクロール、入力などの操作を開始した。
あたかも、先日Appleから発売されたばかりのヘッドセット「Vision Pro」を使用しているように聞こえるだろう。だが、筆者が使っているのは、400ドル程度(日本では7万4880円)のウェアラブルデバイスだ。本体前面の重い、驚くほど高価なヘッドセットではない。
バスに居合わせた人の視点から見ると、筆者はMacBookのキーボードを一切見ることなく文章を大量に作成している、最強のキーボード戦士のように映っているだろう。筆者の視点から見ると、筆者は約60cm前方に投影された120インチのディスプレイを見つめている。これを可能にしているのは、クロスリアリティー(XR)グラス「VITURE One」の綿密に調整された光とミラーだ。
AppleのVision Proのようにユーザーを仮想現実(VR)や拡張現実(AR)へと誘うのではなく、VITURE Oneは、単に接続先のデバイスの映像を拡張するタイプのスマートグラスで(電源も接続先のデバイスから供給されている)、顔に装着する超ポータブルなモニターとして機能する。誤解のないように言っておくと、VITURE Oneと3499ドル(約52万円)のVison Proを比較するのは、リンゴとオレンジを比べるようなものだ。アーリーアダプターを別にすれば、この2台のターゲットユーザーは大きく異なる。
VITURE Oneがターゲットにしているのは、テレビやオフィスのデスクの前に座ることなく、ゲームや映画鑑賞、ネットサーフィンをしたいと考えている人たちだ。VITURE Oneで投影される120インチ相当のディスプレイは、ベッドに横たわっているときや飛行機に乗っているときにテレビシリーズを一気に見たい人や、スマートフォンやタブレット、ノートPCを使用するときにプライバシーを求める人に適している。しかし、それらのユースケースはかなり重なり合っており、当然、意図されたものであるはずだ。
筆者のユースケースはその中間にある。筆者が求めているのは、公共交通機関を利用しているときに、ニュースやレビューの下書きを作成したり、機密性の高いメールに返信したりするのに使用できる大きなプラットフォームだ。自宅のリビングで、パートナーはテレビを見たい、自分はバスケットボールのゲームをプレイしたいという場合にも便利だ。
電力供給に必要なのはUSB-Cケーブル1本だ。このケーブルのおかげで、MacBookや「Android」スマートフォンと簡単にペアリングすることができる。後者が、「Samsung DeX」モード対応の「Galaxy」や、「Ready For」対応のMotorolaのスマートフォンである場合は、もっとうれしい。この2つのプラットフォームでは、通常のモバイルアプリやサービスのデスクトップインターフェースが表示されるからだ。
VITURE One最大の売りは、空間ビデオサポート。Vision Proに搭載されているのと同じ3D再生機能だ。VITURE OneとiPhoneをペアリングするにはアダプターが必要だが、VITUREが「iOS」向けに新たに開発した「SpaceWalker」アプリを使えば、「iPhone 15 Pro」や「Vision Pro」で撮影された空間ビデオを視聴できる。Vision Pro用に筆者が残しておいたクリップをいくつか再生してみたところ、優れた奥行きとリアルさで、それらの瞬間を追体験できたことに、目を見張らされた。
もちろん、空間ビデオ再生品質の基準に関しては、比較対象が存在しないが、筆者が見た限りでは、このフォーマットの本質は確実にそこに存在した。ビデオ内で被写体間の分離を確認することもできたし、カメラの距離が適切で焦点が合っている限り、それはずっと一貫していた。
VITURE Oneの視覚体験に関しては、十分だが、決して画期的なものではない。筆者のように度付きメガネをかけているユーザーの場合は、本体の上部に度数調整ダイヤル(カメラのピント調節を思い浮かべてほしい)が2つ付いているので、見やすいように調整することができる。つまり、今使っているメガネの上にVITURE Oneを装着する必要はなく、また装着すべきでもない。Vision Proを使用する場合のように、オーダーメイドの度付きレンズに149ドル(約2万2000円)を支払う必要もない。
度数を調整する一番の良いやり方として筆者が見つけたのは、片方の目を閉じた状態で、もう片方の度数を調整するという方法だ。しかし、ピントを完ぺきに合わせるには試行錯誤が必要で、適切な距離になったと思っても、投影された120インチのディスプレイの角や端はぼやけたままだ。
これは、投影されるディスプレイの大きさの割に目からの距離が近いために、避けられない問題のようだ。例えば、何らかの物体を目から2~3cmの距離で持ってみると、そこに焦点を合わせるのがいかに難しいか分かるはずだ。
このような問題点もあるものの、VITURE Oneには、環境の明るさに応じてオンとオフを切り替えることができる自動調光電子フィルムなど、便利なメカニズムがいくつか組み込まれている。自動調光電子フィルムとは、レンズに内蔵されたプロジェクターシェードのようなもので、屋外でVITURE Oneを使用するときに最も効果を発揮する。
VITURE Oneの弦の部分には、VITUREがHARMANと共同開発したスピーカーが両サイドに内蔵されており、これには感動した。側頭部から耳に音声を伝える骨伝導ヘッドホンにかなり似ており、スピーカーは装着者に密着しているので、本人以外が音声を聞くことはできない。これにより、同社の重視するプライバシーがさらに高まっている。
おそらく、このようなウェアラブルデバイスでの最大の問題は、めまいや乗り物酔いの症状が出るかどうかということだ。筆者はVITURE Oneを1~2時間続けて使用することもあったが、気分が悪くなったことは一度もない。
これには2つの要因があると思う。1つは、VITURE Oneが従来のヘッドセットよりも軽いことだ。もう1つは、装着者が空間認識を維持できることだ。VITURE Oneは独自のOSを備えた独立デバイスではないということを覚えておいてほしい。外付けモニターが形を変えてポケットに入れやすいサイズになっただけにすぎない。透明なレンズのおかげで、装着しても、別の現実に引き込まれたように感じることは決してない。
本稿執筆時点で、VITURE Oneは439ドル(日本では7万4880円)で販売されており、電源アダプター、キャリングケース、高さの異なるノーズパッドも同梱されている。価格を考えると、出張の多いビジネスパーソンやゲーマー、よりプライベートな空間ながらも使いやすいディスプレイ体験を求めるユーザーにお薦めだ。VITURE Oneは「Meta Quest 3」やAppleのVision Proより優れた製品ではないものの、より高価なヘッドセットが市場に登場する中で、周りに取り残される不安を軽減したい人には十分な機能を発揮する。
VITURE Oneこの記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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