「神1on1を目指さない」--1on1をより良くするために転換するべき思考ポイント

川本周 (アトラエ)2024年01月27日 09時30分
  1. 注目される「1on1」
  2. 1on1のルーツ
  3. 日本流1on1の取り扱い注意点
  4. 大事な前提

注目される「1on1」

 近年、多くの企業が「1on1」を取り入れはじめています。部下育成、社内コミュニケーションの活性化、管理職のマネジメント力強化、エンゲージメント向上など、各社が様々な狙いで、この1on1を取り入れていますが、その実態はいかがなものでしょうか。

 「1on1を導入しているが、手応えを感じにくい……」「毎回何を話そうか、悩ましい……」という上司(1on1を実施する側で悩まれている)方々、他方で「また、あの苦痛な時間が……」「毎回上司に詰められるだけで、全然自分の役に立たない……」と、あまり有意義な時間に感じられていない部下の方々など、1on1が悩みのタネという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。本記事はそういった皆さまに「より“いい”1on1」の時間をお過ごしいただけるよう、1つでも多くの“きづき”をお届けできるコンテンツとして、全3話でお届けします。

1on1のルーツ

 もともと1on1は、米国のシリコンバレーの企業文化として古くから導入されていたマネジメント手法です。1on1が生まれてきた背景には、テレワーク化と評価制度の変化(ノーレーティング)があります。伝統的な社員のランク付けや年度単位での評価を廃止することにより、より機動的な組織活動が必要となり、上司と部下の間で細かくフィードバックしあい、互いのより良い関係性づくりの為に多くの企業で導入されました。日本では、2012年に当時のヤフー株式会社が導入を始めたことをきっかけに急速に1on1が広まることとなります。

 ポイントは、もともと1on1が発達したシリコンバレーでは、「上司・部下の関係性づくり」と「部下へのフィードバック(評価の納得感)」の為に導入されていた、ということです。

ヤフーさんでは、以下のような目的で1on1が活用されているようです。

  • 部下との信頼関係の構築
  • 部下の経験学習を促進する
  • ホウレンソウの機会とする
  • フィードバックとそこからの学びを得る
  • 部下のモチベーションを高める
  • 意思決定に必要な組織の情報を得る(上司目線)

(引用:『1on1 ミーティング――「対話の質」が組織の強さを決める』_本間浩輔 著/吉澤幸太 著)

 ここでのポイントとしては、シリコンバレー以上に部下の育成視点が入った形で1on1が導入されている点でしょう。1on1の火付け役であるヤフーさんの活用目的を踏襲し、日本の多くの企業でも同目的での1on1活用が多く広がっています。

日本流1on1の取り扱い注意点

 育成視点が強い1on1であるからこそ、その影にはリスクが潜むものです。問題の解決を上司が先導する「面談」とは異なり、1on1はメンバー自身が解決策を探しながら、本人が課題に向き合うのを支え、自律型の人材へ成長をしていくためのものです。しかし、ついつい上司の「ティーチング」的説得・説教に行き着いてしまい、結果として、上司ばかりが話をし、傷口に塩を塗ってしまうような1on1が発生します。まさに部下と上司のエンゲージメントが大事なこの1on1。どのような捉え方が必要になるのでしょうか。

大事な前提

 エンゲージメントや上司部下の関係性は技術的問題ではなく「適応課題」であるという大事な前提があります。

 ここでいう適応課題は、既存の方法で一方向的に解決に至ることはできません。(例えば、喉が渇いている際、水を飲むという一方向的な対処で解決できるのが技術的問題ですが、夫婦関係では、双方が自分の価値観だけを主張し続けてもパートナーシップの問題解決には至らない……といったように)上司も部下もそれぞれが問題の当事者となり、新たな学習を通じて、問題解決の旅路を歩む必要があります。

 では、ここで1on1でよく陥りがちな症状を「問題(=おばけ)が潜んでいる」ということで、おばけに準えてパターンわけしてみましたのでご覧ください。

 いかがでしょうか。

 「あ、自分、◯◯おばけに囚われているな」と気づいた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。こういった発見が新たな学習のキッカケでもありますので、是非大事にしていただければ幸いです(かくいう私もドキッとするおばけがチラホラいます……)。

 では、どうすればこれらのおばけに囚われず、退治をしていくことができるのでしょうか。最大の肝は「点思考」から「線思考」への切り替えです。

 転換するべき思考のポイントは2つです。

1.神1on1を目指さない

 1回の1on1をいいものにしようとしすぎない。1on1の質をあげることは最終目的ではなく、1on1を通じて、部下が仕事の質をあげて成果に結びつく行動のきっかけを得ることが目的であり非常に大事。

2.一度の1on1で全部成し遂げようとしない

 極端な表現をすると、1回の1on1で部下の成長を期待することは無茶です。やった分だけすべて!という錯覚に陥ってあれもこれもを盛り込まず、時間軸を長く捉えながら進めていくことが大事。

 これらの前提を抑えた上で、次回は1on1をより彩るための具体策をデータや事例を交えながら示していきます。

川本周

川本周

株式会社アトラエ Wevox営業責任者・ビジネスサイド統括 / SMBC Wevox株式会社 取締役副社長

新卒で当時未上場の株式会社アトラエ入社。入社後はIT業界に強い求人メディア「Green」のコンサルティング営業を担当。その後、新規事業の組織力向上プラットフォーム「Wevox」へ異動。現在は、Wevox営業責任者/ビジネスサイド統括を担う。通常業務の他に、社内のバリュー刷新や全社コミュニケーションの設計などの自社の組織力向上にも従事。2023年10月より三井住友フィナンシャルグループとの合弁会社であるSMBC Wevox株式会社の取締役副社長に就任。ISO 30414 リードコンサルタント/アセッサー資格ホルダー。

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