デートの概念を広げていく「メタバースデート」--リアルを超えた恋愛の新領域

 メタバースという言葉が日々の生活に浸透するなか、人々の交流の仕方も変化している。一部のユーザーの間で新たに楽しまれているのが、メタバースでのデート体験だ。従来のリアルなデートとは一線を画すこの新しい形態は、リアルとバーチャルの境界を曖昧にし、遠隔地に住むカップルや新たな出会いを求める人々にとって革新的な選択肢となっている。メタバースのデートでは、現実世界の制約を超えた創造的でユニークな活動が可能だ。バーチャル空間の中で、共に新しい世界を探検したり、カスタマイズされたアバターで自己表現を楽しんでいたりする。

 筆者の齊藤自身も、実際に彼女とのメタバースデートを日常的に行っている。この記事では、その体験をもとに、メタバースデートの魅力や実際のデートとの違いについて深掘りしていく。現実世界では味わえない、メタバースならではのロマンティックな瞬間や創造的なコミュニケーションに焦点を当てて、メタバースが恋愛にもたらす新しい風景を伝えたい。メタバースが提供する独自の体験は、デートの概念を再定義し、恋愛の新しい形を探求する人々に刺激的な選択肢を提供するものと考えている。

  1. 筆者が実際に行ったメタバースデートの例
  2. メタバースデートの魅力
  3. メタバースでのデートはどのように進化するのか?
  4. メタバースデートは、デートの概念を広げていく可能性を秘めている

筆者が実際に行ったメタバースデートの例

「メタバースでのデート」という概念は、多くの人にとってまだ馴染みがないかもしれない。そこで、筆者が彼女と実際に行ったメタバースデートの一例を紹介する。使用したのはVRChatというプラットフォームで、私と彼女はそれぞれ自宅からログインしている。

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 まず最初は、寿司を握ることができるワールドに行き、二人で寿司を握る体験をした。シャリを取り、具材を乗せ、一緒に寿司を握る。寿司屋ごっこをしているような感じであり、「え、どうやって寿司握ったの?」など、操作方法を教え合う過程は、まるで共同作業のようで盛り上がる。

 次に向かったのは、ハンバーガーショップを模したワールドである。このワールドでは、ハンバーガーなどのメニューの調理を自分たちで行うことができる。肉を焼いたり、パンに挟んだり、調理方法に沿って順番にタスクを進めていく。

 完成したメニューをテーブルに持って行って一緒に写真を撮ると、ランチデートのような雰囲気を味わうことができる。

 メタバースでのハンバーガーショップデートのあとは、幻想的な世界のなかで回る観覧車に乗りにいった。画像では伝わりにくいが、VRゴーグルを装着してメタバースデートをしているので、本当に隣に座っているかのように、実際のデートのドキドキ感を味わうことができる。

 メタバースならではのパターゴルフワールドでは、現実では不可能なコースを楽しみ、競い合う。オンラインゲームをしているという感覚よりは、実際に一緒にゴルフをしている感覚に近い。

 デートの最後には、メタバース内の美術館でプロの作家の作品を鑑賞した。約2~3時間のデートで、多彩な世界で様々な体験をすることができ、充実感に満ちた時間を過ごした。VRChatでは、ユーザーがワールドに入る人数に制限を設けることが可能なため、二人だけのプライベートな空間でデートを楽しむことができる。

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メタバースデートの魅力

 メタバースでのデートは、リアルでの旅行をしている感覚に近い。ただし、普通の旅行にゲーム性が加わっていることが、新しい体験価値を生んでいると感じる。無数に広がるさまざまなワールドを、一緒に見て回るだけでも十分楽しいが、それぞれのワールドに施されたギミックやゲームを行うと、より楽しさが増す。

(1)一緒に楽しい体験をすることができる

 一緒に楽しい経験をすればドーパミンの放出に役立ち、触れ合ったり抱擁したり、笑うことはオキシトシンの放出の助けとなる。一緒に遊ぶことは、絆を深め、コミュニケーションを深め、衝突を解決し、関係の満足度を高めるということも、ユタ州立大学などが報告している。実際、メタバースでは一緒にギミックを探したり、ワールドを探検したり、ゲームに関してもなにができるのかを一緒に試していくところから始めるため、共同作業をしている感覚もあり、絆やコミュニケーションが深まっていく。VRChatのワールドの設定を変更すれば、周囲に自分たち以外いない自分たちだけの空間を作り出せるので、人目を気にせず会話やデートを楽しむことも可能だ。

 また、リアルの見た目とは違うアバターを使ったデートでもあり、普段とは異なる一面が見れる感覚もある。アバター次第では、動物的な愛らしさも感じる。

(2)一緒に旅行をしている気分になる

 メタバースでのデートは、無数に広がるさまざまなワールドを行き来することになるので、旅行をしている感覚に近い。

 アメリカ旅行協会の研究によると、カップルで一緒に旅行すると、79%の人が関係性にプラスの影響があったと回答した。具体的な効果としては、94%がお互いにより近く感じるようになったこと、72%がロマンスが増したこと、そして77%が良好な性生活を送っていると答えた。Expediaによる調査でも、50%以上のカップルが旅行中に自宅にいる時よりもパートナーとの親密さが増すと答えている。

 カップルや夫婦が一緒に新しい体験から刺激を得ることは、長期的な関係性を保ことに効果的である。メタバースでのデートは、今まで体験したことのない旅行をしながら、しかもゲームまで楽しめるといった良いとこ取りなのかもしれない。VRChatをはじめとした多くのメタバースサービスでは、写真を取る機能が実装されているため、メタバースデートの様子を写真に残すことができる。

(3)離れていてもいつでもデートができる

 インターネットにさえ繋がればメタバースにアクセスできるので、離れていてもデートができることも魅力的だ。また、電話やビデオ電話とも違い、目の前にいるような感覚でデートができるので、リアルのデートの感じと大差がないように感じる。

メタバースでのデートはどのように進化するのか?

 メタバースがデートの新たなコミュニケーション方法として進化していく理由はいくつかある。

 まず、利便性が挙げられる。どこにいてもインターネットにさえ繋がれば仮想空間にアクセスでき、新しいデートの体験や出会いを探すことが可能だ。また、自分の好きな姿を演じることができるため、人々は潜在的なパートナーとのコミュニケーションにおいてよりオープンになりやすい。

 日本のVRChatユーザーの間では「お砂糖」という独特な文化も生まれている。これはVRChat内でのパートナー関係を指し、美少女アバター同士の甘い交流からこの名前がつけられたようだ。特徴的なのは、アバターの中身の性別に左右されない関係性である。

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 技術の発展とともに、メタバースでのデート体験はさらに進化していくだろう。既存のデートプラットフォームがVRでのデート体験をサービスとして提供し始める可能性も高く、また新しいプレイヤーが登場することで市場が変化することも考えられる。

 しかし、新しい試みには常にリスクが伴う。プライバシーの問題、精神健康への影響、仮想現実への依存症などが専門家によって指摘されている。また、メタバースでのセクハラ問題が浮上し、パーソナルスペースの設定などの技術的対策が取られていることも事実だ。メタバースでの新しい出会いや恋愛が発展すれば、それに伴う倫理的、技術的な課題も増えてくるだろう。

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 こうしたことから、メタバースデートは従来のデートの枠を超えた、新しい体験が味わえる可能性を秘めているが、安全かつ健全な環境を維持するためには、引き続き注意と配慮が必要である。メタバースのデート体験は、個人のプライバシーとセキュリティを守るためのガイドラインや対策の導入が重要であり、ユーザーは自身の精神的な健康やリアルな人間関係に影響を及ぼさないよう、メタバースでの活動を適切に管理する必要があるだろう。

メタバースデートは、デートの概念を広げていく可能性を秘めている

 筆者はメタバースで恋に落ちた経験は無いが、実際メタバースで知り合い、結婚に至ったというカップルも存在する。かねてからオンラインゲームを通じた出会いから交際や結婚に発展した例は少なくなく、ゲームがカップルや夫婦のコミュニケーションの場となることも珍しくない。

 メタバースでのデートは、現実世界の物理的な制約から解放されることで、創造的でユニークなデート体験を可能にする。バーチャルな空間での出会いや恋愛がもたらす新しい体験は、恋愛の形を再定義し、デートの概念を広げていく可能性を秘めている。メタバースデートは、将来的にはリアルなデートの代替手段として、または新しい恋愛の形として、さらに発展し広がっていくことが期待される。

齊藤大将

Steins Inc. 代表取締役 【http://steins.works/

エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究。バーチャル教育の研究開発やVR美術館をはじめとするアートを用いた広報に関する事業を行う。

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