VR美術展「ARTLINK」の挑戦--新しい形のアートコミュニケーション、海外交流にも効果

 日本において、芸術や美術館は多くの人にとって生活から距離があるものと捉えられている。有名アーティストの作品やSNSで話題のデジタルアートには関心があるものの、一般的には知らない人の展示会や美術展に足を運ぶ人は少ない。加えて、博物館や美術館の来場者数や収入も減少している。

 アーティストにとっても、個展を開く際の画廊の費用や作品の輸送費が生活を圧迫し、作品制作に専念するのが困難な状況にある。これらの課題は、芸術界にとって重要な問題となっている。

(画像提供:cotton usagi)
(画像提供:cotton usagi

 こうしたなか、新たな解決策を見いだすべく、そして美術の裾野を広げるために、画家の植村友哉氏と筆者の齊藤はVR展示会を開催してきた。この革新的なアプローチにより、来場者は自宅にいながら世界中のアートを楽しむことができ、アーティストにとっても低コストで幅広い観客に作品を届けるチャンスを生み出している。そしてこの度、海外と日本を繋ぐ複数アーティストによる総合VR美術展「ARTLINK」をVRChatで開催した。

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  1. メタバースで美術の裾野を広げ、アーティストと世界の接点を生み出すために
  2. VRで広がる美術コミュニティ バーチャルで世界と繋がる
  3. 第1回VR美術展「ARTLINK」を開催して--植村友哉氏の想い
  4. 美術展の未来形 VRが拓くアートの新しい地平

メタバースで美術の裾野を広げ、アーティストと世界の接点を生み出すために

(撮影者:筆者)
(撮影者:筆者)

 今回、12名のアーティスト(船曵信世marron chantilly島田直季正垣有紀吉田泰昌RAQELH。T。kiki yukariMIU奥田麻里子市橋淳子Yoshiya(敬称略))と、植村氏による総合美術展をVR空間で開催した。

 これまで植村氏と筆者の齊藤を中心に行われてきたVR美術展だが、今回は複数のアーティストを巻き込んだ初の試みであり、植村氏のリアルの個展とのハイブリッド開催となった。

 VR展示会の特徴は、世界中どこからでもネットに接続できる環境であれば誰もが参加でき、アーティストと直接コミュニケーションを取ることができる点だ。また、リアルでは難しい作品の展示方法や楽しみ方を体験できることも魅力である。

 今回のVR展示会に参加したアーティストたちにとって、VR空間で自分の作品を展示し、VRヘッドセットを通じて自分の作品について説明し、来場者とコミュニケーションを取ることは新たな体験となった。

アーティストがVR空間に入り、作品を解説している様子(画像提供:植村友哉氏)
アーティストがVR空間に入り、作品を解説している様子(画像提供:植村友哉氏)

 油絵やアクリル画、デッサンなどのアナログ作品をVR空間に展示することは多くのアーティストにとって新しい挑戦であり、作品の質感や細かい表現が伝わりにくいという課題もある。しかし、今回参加したアーティストからは、「新しい展示方法に驚いた」「世界中の人々にVR空間を通じて作品を見てもらえて嬉しい」といった前向きな反応が寄せられた。これらの声は、VR展示会がアーティスト、観客、そして世界を繋ぐ新たな接点として機能していることを示しているだろう。美術の裾野を広げ、新しい形のアートコミュニケーションを生み出すVR展示会は、今後も大きな可能性を秘めている。

VRで広がる美術コミュニティ バーチャルで世界と繋がる

 VRを活用した「ARTLINK」は、筆者とアーティストだけでなく、「WESON ART LINK」というバーチャル美術コミュニティのメンバーも共に準備を進めてきたものである。VR空間での展示会は、芸術に馴染みのない人々にもアートに触れる機会を提供し、家から気軽に参加できることが特徴だ。これまでに1万3000人以上が参加し、アーティストの作品解説を受けながら、気軽に作品についての会話や質問ができる環境が提供されている。

 また、VR美術展は国際的な交流の場としても機能している。例えば、植村氏はオセアニアのパラオ共和国との縁が深く、パラオ共和国をテーマにした作品を描くことも多い。新型コロナ流行の影響によって、海外での個展開催や文化交流が困難になったなか、VRを使えば移動や接触しなくても美術の鑑賞や交流ができる。

 「ARTLINK」ではパラオに限らず、アメリカのイリノイ大学との交流も行うことが実現した。イリノイ大学の学生と先生も参加し、日本の作品を海外にいる方に気軽に見てもらい、そこから交流をするという、まさにVR美術展が日本と海外を繋いだのである。

 通常の海外で展示会や文化交流を行おうとすると、作品を海外の土地に輸送したりなど、多大なコストがかかるが、今回の例のように、VR展示会を通じて低コストで国境を越えた交流が行えるようになった。このVR美術展は、日本と海外を繋ぐ新たな方法として、大きな可能性があると実感している。

(画像提供:cotton usagi)
(画像提供:cotton usagi

第1回VR美術展「ARTLINK」を開催して--植村友哉氏の想い

開館時のコンセプトアート(制作者:kiki yukari氏)
開館時のコンセプトアート(制作者:kiki yukari氏)

 近年ではデジタルグラフィック作品や3DCGなどで作られた展示は増えてきたが、油絵やアクリル画などのアナログな作品をVR空間に展示している例は数少ない。画家として高い評価をされ、VR展示会も行い美術の裾野を広げる新しい活動も行う植村友哉氏から、この「ARTLINK」を開催した感想を伺った。

 2年9か月に及ぶVR内での作品発表活動が実を結び、この度は私だけでなく12名の作家によるグループ美術展ART LINKが開催されました。第1回展開催にあたり、私の作家活動を現実で応援してくださる皆様、そしてWESON MUSEUMに関わる全ての皆様に心から御礼申し上げます。

 私のVRへの関心が高まったのは2019年にパラオ共和国で個展を開催したことがきっかけです。現地の高校、ミゼンティハイスクールの学生作品(デッサン、写真1)を同会場で展示し、その技術の高さに感銘を受けました。そして、パラオ水族館のカレンダーに起用された作品や、建物の壁に描かれた作品を調べるうちにパラオ文化に影響を受けて育つ美的な感覚が、日本文化のそれとは違う魅力を持っていることに興味を抱き、それらパラオの歴史や風土に影響を受けながら描かれる美術作品を多くの日本人に観てもらいたい、そして、パラオの皆様にも日本の作品を観ていただきたいと思うようになりました。

 しかし、海外での展覧会は作品の輸出入にかかるコストや損害の補償などその他にも大きな課題がいくつもあり、それらの対策は容易ではありません。そんな時にVR空間であれば課題を解決し、さらに世界中の方々に作品を観ていただけるのではないかと考えました。

 しばらくしてワールド制作を担当してくださる齊藤大将氏と出会い、2021年2月27日にWESONMUSEUM開館に至ります。ARTLINKでは先の課題を解決するに留まらず、学生時代の友人、森岡氏の仲介によりイリノイ大学からの参加者と日本・韓国からの参加者ARTLINK会場で会話、及び身振り手振りによる直感的な文化交流会も行われました。出品作家からも3名に参加していただくことで作品解説がなされ、観覧者からの質問も飛び交う、美術を軸とした国際文化交流が実現されたことをとても嬉しく思います。それらは今後の発展を予見させる小さくも大きな一歩だったと感じております。

 一方で、実物でしか美術作品の良さが伝わらないというご意見もあり、私も作家としては賛同しています。しかし、作家活動における作品鑑賞以外の部分ではVRのメリットを生かすことでしか果たせない画壇への大きな役割があるとも考えております。両者の進歩と歩み寄りによって美術文化発展の一助となれるよう皆様とともにこの活動を長く、大きく育てたいと思います。(植村友哉)

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美術展の未来形 VRが拓くアートの新しい地平

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 VR技術を活用した美術展の開催で最も喜ばしいのは、これまで美術に興味を持っていなかった人たちが、偶然訪れた私たちの展示会に参加し、美術の魅力に引き込まれる瞬間だ。テクノロジーを利用することで美術へのアクセスのハードルを低減し、美術を通じて世界中のさまざまな人々とのコミュニケーションやコミュニティ形成が可能になった。

 VR展示会は一見、従来のアナログな展示をデジタル化しただけのように見えるかもしれないが、そこには新たな人との繋がり、発見、そして可能性の拡大という、想像を超える価値がある。我々は、VRのような革新的なテクノロジーを用いて、これまでにない体験の提供や困難に直面している人々の支援を目指し、今後もその探求を続けていきたいと考えている。

齊藤大将

Steins Inc. 代表取締役 【http://steins.works/

エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究。バーチャル教育の研究開発やVR美術館をはじめとするアートを用いた広報に関する事業を行う。

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