LIFULL、伊東祐司氏が新社長に就任--不動産業で社会課題の解決目指す

 LIFULLは12月21日、井上高志氏が会長に就任し、代わって伊東祐司氏が代表取締役社長執行役員に就任すると発表した。LIFULLは今後、グループ全体の体制強化や成長戦略をどう考えていくのか。これまで取締役執行役員としてLIFULL HOME'Sの事業本部長を務めてきた伊東氏に、社長就任にあたって話を聞いた。

LIFULL 代表取締役社長執行役員 伊東祐司氏
LIFULL 代表取締役社長執行役員 伊東祐司氏
  1. ビジョナリー・カンパニーであり続けるLIFULL
  2. 不動産業界のいちばんの課題は「人手不足」
  3. 伊東社長が思い描く今後のLIFULLとは

ビジョナリー・カンパニーであり続けるLIFULL

――社長就任にあたって、声がかかったときの心境はいかがでしたか。

 LIFULLの中では有名な話なのですが、実を言うと、前任の井上(前代表取締役社長執行役員の井上高志氏)は45歳で社長を辞めると公言していたんです。LIFULLを100年続く会社にしたいという思いがあり、そのためには自分が若くて元気なうちに、2代目、3代目に社長職を譲っていきたいと。しかし実際に45歳になってみるとまだ後任が育ちきっておらず、そこからさらに10年ほど経って、今回の社長交代となりました。外部から誰かに来てもらうよりは、長年LIFULLにいて現場を知っている人間の中から社長を選出したほうがいいという話は前々から社内でありまして、私も2~3年前から社長職を意識して過ごしていたんです。

 実際に声をかけられたときは、LIFULLが100年続く会社となるためのバトンを受け継ぐことに緊張感を覚えつつも、人生における大きな挑戦になるとやりがいを感じました。

――数年前から社長就任への気持ちを準備されていたんですね。今後のLIFULLにおいて、変えていきたいところ、変えるつもりはないところはありますか。

 数年前から、取締役会などに出席した際は海外事業なども含めていろいろな意見を出し、自分が社長になったらこうしようというイメージを描くようにしていました。

 LIFULLは、社是と経営理念を大切にするビジョナリー・カンパニーです。LIFULLのアイデンティティでもあるので、会社が存続する限り、私もここを変えるつもりはありません。しかし逆に言うと、社是と経営理念以外は、時代や環境の変化に合わせて変えていかないと生き残れないと思っています。創業者が始めた仕組みだから、事業だからと固執していると、どんどん衰退していってしまうと思います。

不動産業界のいちばんの課題は「人手不足」

――不動産テックが盛り上がりを見せる中、LIFULLは10年近くトップランナーとして走り続けてきました。不動産業界におけるLIFULLの位置づけや役割について、どう考えていますか。

 10年前は不動産テックという言葉もありませんでしたよね。それなのに、気づけば市場にはスタートアップや新事業が増え、業界はすごく盛り上がっています。このことを私はとてもポジティブに捉えています。プレイヤーが増え、選択肢が増え、業界全体で業務を改善していこうという気運が高まっているのは非常にいいことですよね。

 一方、不動産業界で現在いちばん課題となっていることは、やはり人手不足です。建設でも他の業種でも同じだと思いますが、依然として採用は厳しい。しかし、機は熟してきているので、今後はいかにこの人手不足という課題を解決していくかが重要になってくると思います。生産性を上げるためのDXは、もはや待ったなしの状況です。これまで4~5人でやっていた業務を3人くらいでこなせるようにするなど、成功事例を作っていくことに我々も挑戦したいと思っています。

――AIを活用したり、デジタル化を進めたりといったことでしょうか。

 もちろんそれもあります。しかし不動産業界は、契約の最後のクロージングなど人がやらなければいけない業務がどうしても発生します。不安を感じているユーザーの質問に、すべてチャットボットで返信できるわけではありません。今のAIの力だと、そういった領域をデジタル化しようとするのはまだ非現実的です。しかし、人がやらないといけない仕事と、人がやらなくてもいい仕事とをきちんと切り分けて、業務に優先順位をつけて自動化していくことはできます。資料を作るとか、チェックするとか、主に事務作業の部分は、効率化できる部分だと思います。

――業界の人手不足を補うために、具体的に何か進められている施策はあるのでしょうか。

 「LIFULL Leadership」という、LIFULLの子会社があります。この会社は、経営陣に寄り添って次世代のリーダー育成をサポートする会社なんです。ときには人事制度や評価制度の改訂のお手伝いもさせていただくことから、不動産業界の大手企業を中心に、多くの引き合いをいただいています。人をしっかり育てて将来的に幹部にしたい、5年先や10年先を見据えた経営をしたいと考えている企業は現在、増えている印象ですね。

――不動産業界で働く人はこれまで、上司や先輩の背中を見て業務を覚えていく、やり方を盗んでいくといった独力の成長が求められていたと思います。しかし、時代はそうではないということでしょうか。

 従来のやり方では、もう難しいと思います。幹部や現場を巻き込んで、ボトムアップで提案してもらえるような関係性を構築しないと、もう人を育成できないし採用も難しいのではないかと私は考えています。新しい経営者ほどこのことを理解していますし、業界全体で、不動産業を人気職種にしていきたいですよね。

 人の育成以外に、我々は採用支援も行っています。「JOBRIDGE」というサービスで、人を採用したい不動産事業者と、不動産業界に就職したい方をマッチングさせる事業です。こちらも、大手企業を中心に好評をいただいています。JOBRIDGEは「宅地建物取引士」を養成する学校と提携し、宅建士のテストに合格した方なども対象にして、企業にご紹介しています。

 さらに、現在我々は「LIFULL FaM」という事業も推進しています。物件を更新したり、撮影したりといった業務を不動産会社から受託し、子育て中のママを中心とした「FaMパートナー」の方々に代行してもらっています。「ママの就労支援事業」ですので、お子さんを見ながらでも働けるような環境を整えています。育成、採用、アウトソースと、不動産会社が人手不足の問題に直面したときのソリューションは、LIFULLがすべてそろえているつもりです。

――人材育成や採用の話を聞くと、競合他社にいい人材を送り込んでいるような印象も持ちます。

 我々は不動産ポータル事業を行う企業として、業界を盛り上げるために優秀な人材を育てていきたいと考えています。空き家問題なども含めて、どう不動産を活用していくか、社会課題をどう解決していくかを考えていきたいと思っています。

伊東社長が思い描く今後のLIFULLとは

――前任の井上会長にはどのような印象を持っていますか。

 井上はビジョンの人である、という印象があります。小手先の話ではなく、どういう世界にしていくべきか、どうあるべきかにまず軸を立て、そこから出発してビジネスで解決していく方法を考える人です。

 社内ではよく、渋沢栄一の「論語と算盤」の話が出ます。論語とは我々に置き換えると、ビジョンのことです。正しいことをやり、社会課題を解決していく「論語」のために、売り上げや利益、影響力などの「算盤」が必要になってきます。2つは両輪でなければならず、井上はそれを実行してきた人だと思っています。

――今後のLIFULLは、伊東社長のもとでどのように変わっていくのでしょうか。

 先にお話した通り、社是と経営理念を変えないことは大前提です。その上で、数字でしっかり成果を出すことがまずは求められているでしょう。

 成果を出すためにしなければならないと私が考えていることは3つです。1つめはメインであるLIFULL HOME'Sの売り上げを伸ばし、業界の中のシェアを高めていくこと。2つめは、現在世界60カ国でサイトを展開している「LIFULL CONNECT」という子会社の、100億を超える事業規模の収益性を回復させること。さらに肝となるのは3つめで、新しい事業の軸を作っていくことです。具体的には、不動産金融の領域にチャレンジしていきたいと考えています。

 今、都心ではマンションが高くて買えないような状況が続いている一方で、空き家が増えているというミスマッチがありますよね。ただ、個人が空き家を購入しようとするとさまざまなリスクが伴います。そこで、不動産を小口化し、利用権が流動するような仕組みを作って、不動産投資がしやすくなるようなプラットフォームを提供できないかと考えているんです。この事業は大きな市場規模を秘めていると思い、実は11月に、不動産NFT事業を展開する予定の「LIFULL Financial」という会社を立ち上げたばかりです。空き家を1人で購入するのではなく、50人や100人で利用権を小口化して、1口分を自分が宿泊するために使ったり、誰かに譲ったり、売ったりできるようにしたいと考えています。この領域には大きなチャンスがあるでしょう。

――数字で成果を出し、新規事業を始める以外に、今後のLIFULLについてどのようなことを思い描いていますか。

 社名は「LIFULL」。これは2017年4月に変更した名前です。それまでは「ネクスト」。 新しい時代をつくるぞという意味を込めてネクストと名乗っておりましたが、あらゆる人々のLIFE(ライフ)をFULL(フル)にしていくという意味で、LIFULL(ライフル)という造語を掲げました。

 多様性の社会において、何が正解かはみんな異なっています。LIFULLの社員は、人それぞれに正解があること、多様な生き方を認めていくことに共感しています。そしてこの思いを実現していくために、社会課題を解決していきたいと考えています。例えば我々は、年齢や国籍、セクシュアリティなどを理由に賃貸の入居を断られてしまう「住宅弱者」と呼ばれる人々を支援するAction For Allというプロジェクトも行っています。当社の採用に応募してくださる方の多くは、LIFULLのこうした姿勢に共感してくれています。

 少子高齢化、住宅弱者、空き家と問題が山積みになっている現在の日本で、LIFULLが社会課題を解決したという事例を1つでも多く作っていきたいと考えています。そのためには規模と売り上げ、「論語と算盤」の算盤の部分が必要です。社会課題を解決し、日本の代表としてそのソリューションを世界に持っていけるような、そんな挑戦をしていきたいと思っています。

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