自治体に寄付することで、所得税や住民税が控除され、その自治体から返礼品がもらえる「ふるさと納税」。お得な制度だが、知っているもののまだやったことはない、という人も多いのではないだろうか。
そこで本稿では、ふるさと納税についてイチから解説。また、2023年のトレンドなども紹介しよう。
そもそもふるさと納税は、都会と地方の税収格差を是正するため、2008年から始まった制度。“納税”というものの実体は寄付で、自分が選んだ自治体にふるさと納税という寄付を行う。寄付先は自分が生まれ育った故郷に限らず、応援したいと思う地域や思い出の場所など、どこでもいい。実際は寄付することでもらえる返礼品を目当てに、自治体を選んでいる人が多いようだ。
この返礼品こそがふるさと納税のお得な部分で、自治体からは寄付額の3割の返礼品をもらうことができる。寄付額は2000円の自己負担金を差し引いた全額が所得税や住民税から控除されるので、実質2000円で3割の返礼品がもらえることになる。
例えば、3万円をふるさと納税すると、自己負担金の2000円を引いた2万8000円が税額から控除され、9000円分の返礼品がもらえる。つまり、2000円で9000円分の返礼品がもらえることになるので、実質7000円分が得できるということ。この得できる金額は、寄付額を多くすることでさらに大きくなる。仮に6万円を寄付すると、返礼品は1万8000円分となり、実質1万6000円分がお得になる。
期間は1月1日~12月31日までの1年間。この期間に何度、ふるさと納税を行っても、自己負担金は2000円のみでいい。
だからと言って、誰もが寄付すればするほど得になるわけではない。寄付額が「自己負担金2000円+所得税+住民税」を上回った分は、控除されずに実費になるからだ。
前述の6万円を寄付して1万8000円分の返礼品がもらえるのは、控除上限額が6万円の場合。仮に控除上限額が3万円だとすると、上限額を超えた3万円の寄付は控除されずに実費になる。つまり前者が2000円で1万8000円分の返礼品をもらえて得するのに対して、後者は3万2000円で1万8000円分の返礼品をもらうことになるので損してしまうというわけだ。
この控除上限額は人によって異なり、所得額や扶養家族の有無、子どもの年齢、住宅ローン控除の有無などによっても変わってくる。目安として、年収500万円の独身者や夫婦共働きの世帯の場合、年間6万1000円となる。控除上限額は総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」に「全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安」が表示されているほか、「さとふる」「ふるなび」「ふるさとチョイス」など、多くのふるさと納税サイトでも手軽にシミュレーションすることができる。自分ならいったいどれくらいの金額をふるさと納税できるのか、一度、調べてみるといいだろう。
最近では多くの自治体がふるさと納税サイトと提携しているので、ふるさと納税サイトから手軽に申し込むことができる。欲しい返礼品を検索して、ヒットしたさまざまな自治体の商品から選ぶので、まるでネットショッピングのような感覚で申し込みできる。人気ランキングや注目している地域、寄付額などからも返礼品を検索することができる。ちなみに人気の返礼品は肉、魚介類、米などだ。
欲しい返礼品が決まったら、クレジットカードやコンビニ決済、コード決済など、ふるさと納税サイトで利用できる方法で決済。その後、自治体から返礼品と「寄付金受領証明書」が送られてくる。この「寄付金受領証明書」は大切に保管しよう。翌年の3月15日までの確定申告で、寄付金控除の申請を行う際に必要だ。この確定申告を行うことで、ふるさと納税を行った年の所得税が控除され、翌年に支払う住民税が控除されるという流れになっている。
ただし、普段、確定申告をやり慣れていない給与所得者の場合、確定申告するのが面倒という声も多かった。そこで2015年に登場したのが「ワンストップ特例制度」だ。
これは医療控除などがなく、本来、確定申告をしなくていい給与所得者で、ふるさと納税した自治体の数が5つ以内なら、確定申告が不要にできるという制度。その際、同じ自治体に何度か寄付していても構わない。ふるさと納税先の自治体から返礼品と共に送られてくる「ワンストップ特例申請書」を、翌年の1月10日までに送り返すことで、自治体が控除に必要な情報を納税先の市区町村に連絡してくれる仕組みだ。
ただし、申請書の返信が翌年の1月10日に間に合わなければ、確定申告をする必要がある。確定申告も最近はマイナンバーカードを使って「e-tax」でオンライン申告できたり、ふるさと納税サイトによっては、控除に必要なデータをまとめてダウンロードできるサービスを行ったりしているところもある。仮に確定申告を行う場合も、手続きは随分ラクになってきている。
ふるさと納税を行う時に気を付けたいことは、寄付額が控除上限額を上回らないこと。12月にはその年の年収がある程度わかるので、上限額ギリギリまでふるさと納税することができる。そのため駆け込みで申請する人が多いのだが、年末ギリギリの場合は、寄付する自治体の申し込み期限を確認しておく必要もある。
その理由は、ふるさと納税をすると送られてくる「寄付金受領証明書」には納付日が記載されていて、その納付日が12月31日までの日付けでないと、その年の所得からの控除にならないから。また、納付日は寄付の申し込みをした日とは限らず、一般的には自治体が入金を確認した日になる。支払い方法によっては年内に確認が間に合わないこともあるので注意したい。
この「寄付金受領証明書」は紛失すると確定申告できなくなるので、ちゃんと保管しておきたい。また、「ワンストップ特例制度」を利用する場合は、「ワンストップ特例申請書」の送付を翌年の1月10日までに忘れずにしておこう。
12月にまとめてふるさと納税する場合にありがちなのが、肉や魚介類などの返礼品が一度に届いてしまって、冷蔵庫に入らなくなること。そんな時は季節のフルーツなどを選ぶと、届く時期をずらすことができる。
返礼品は基本、お届け日を指定できないのだが、中には期日指定できるふるさと納税サイトもある。また、自治体によってはポイント制を導入しているところも。ポイント制は寄付によってモノではなくポイントを獲得することができ、そのポイントを翌年に繰り越せるというもの。そのため2年分貯めて、より高価な寄付額の返礼品を狙うこともできる。今、欲しい返礼品がないという人も、このような便利なサービスを利用してポイントを貯めておけば、いざ欲しい返礼品があった時に活用できる。
ふるさと納税はここ7~8年で認知度が高まり、2022年の寄付額は約9654億円と1兆円に迫る勢い。2022年のふるさと納税によって2023年に住民税控除を受けた人も、約891万人に上る(いずれも総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」より)。とはいえ、まだまだふるさと納税を利用している人は一部に過ぎない。
人気の返礼品を多く用意して、多額の寄付を集める地方都市も登場。そのためより魅力的な返礼品を出そうと自治体の競争が過熱傾向にある。これまでに何度もルールが改定されてきたのだが、10月1日から経費5割と、地場産品についてのルールがより厳格化された。
ふるさと納税は寄付金の5割以上を自治体の財源とするため、それ以外の返礼品の金額(3割まで)、事務手数料、送料などの経費は5割までにするのが決まりだった。しかし、「ワンストップ特例制度」に関わる申請書の受付事務に関する費用、ふるさと納税の業務に関わる職員の人件費、ふるさと納税サイトへの手数料なども経費に含まれると変更された。自治体によってはこれらの費用の合計が5割を超えていたところもあり、新ルールによって同じ返礼品でも寄付額が高くなったり、分量が減ったり、その返礼品自体がなくなってしまうケースも考えられる。
また、返礼品はその自治体の区域内で生産された地場産品であることが定められている。だが、魅力的な地場産品を持たない自治体では、他の地域の肉を加工だけする、他の地域の米を精米だけして自分の自治体の返礼品にする、といったところもあった。これが新ルールによって、加工品などは同じ自治体内で生産されたものに限ることが厳格化された。
この新ルールによって、開始前の9月末までに駆け込みでふるさと納税する人が増えたのだが、デメリットばかりとは言い切れない。地場産品を持たない自治体でも、魅力的な観光資源があればふるさと納税増加のチャンスが生まれると、最近では観光や体験型の返礼品が増加傾向にあるからだ。2023年はコロナウイルスによる行動制限が緩和され、お出かけや旅行ニーズが加速していることもあり、パッケージ旅行やイベントの入場券、スポーツやレジャーなどの返礼品が増えるなど、新しい流れが生まれている。
新ルールによってお得部分が少し目減りしたとはいえ、依然、ふるさと納税がお得な制度であることに変わりは無い。それに特定の地域を支援することもできる。中国が日本産の水産物の輸入を停止する中、水産物の返礼品に対してふるさと納税が多く集まっているというニュースを聞いたことがある人も多いだろう。返礼品にはトイレットペーパーやティッシュなどの日用品もあるので、ふるさと納税で物価上昇の対策を行う流れも広がってきている。実は知れば知るほど、面白い制度なのだ。
ふるさと納税に興味を持ったら、この機会にぜひチャレンジしてみて欲しい。一度やってみるとその簡単さやお得さを実感できるはずだ。
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