静岡発「未来の食」を目指して--産学官金一体で、地域の自立と循環を

 本誌ビジネスニュースメディア「CNET Japan」は10月23日から11月2日、オンラインカンファレンス「CNET Japan FoodTech Festival 2023 フードテック最前線、日本の作る、育てる、残さないが変わる」を開催した。


 本稿では、「静岡発『未来の食』を目指して~静岡県のフードテックの取り組み~」と題して10月26日に行われたセッションをレポートする。

 登壇者は、静岡県 経済産業部産業革新局新産業集積課 新産業集積班長 工藤兼一郎氏、川口精機 代表取締役社長の大澤宏典氏、酪農王国 代表取締役の西村悟氏と、CNET Japan 編集長の加納恵。モデレーターは、スペックホルダー 代表取締役社長で、朝日インタラクティブ 戦略アドバイザーの大野泰敬氏が務めた。

 最初に大野氏が、「私自身、いま農林水産省の客員研究員として、各地域のフードテックを研究している。そのなかでも静岡県は、多彩な農林水産物に恵まれ、物流面でも非常に地の利がよく、大きな産業クラスターがあり、そこからいろいろな事業やビジネスが育っている」と話し、続いて3者が事業紹介を行った。

静岡県の「フードテック事業」が本格始動

 静岡県の工藤氏は、静岡県のフードテックに関する取り組みを中心に紹介した。

 静岡県は、駿河湾など豊かな水資源と温暖な気候を有する。また、陸海空の交通インフラが整っており、大消費地へのアクセスもよい。このことから、お茶、温州みかん、わさび、かつおなどをはじめとする、439品目もの農林蓄水産物を生み出している。2020年の食料品、飲料などの製造品出荷額は、北海道、愛知県に次いで全国第3位だという。

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 また県内には、食品やライフサイエンス分野での実績を持つ大学や研究機関も多く、そのシーズが商品開発などに生かされているという。

 工業技術研究所が食品製造に関する微生物ライブラリーを有するほか、静岡県内各地に農業、水産、畜産に関する公設試験場が立地している。

 このほか静岡県では、先端農業技術の研究開発などを手がけるAOI(アオイ)プロジェクト、海洋水産分野の先端技術によるイノベーションを促進するMaOI(マオイ)プロジェクト、優良品種の創出や栽培技術の高度化などで県の茶業の再生を図るChaOI(チャオイ)プロジェクトといった、さまざまな取り組みが進む。

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 工藤氏が担当する「フーズ・ヘルスケア オープンイノベーションプロジェクト」では、「食品を中心とする健康増進社会の実現」と、「異分野との融合によるイノベーションの創出」を目標に、「健康寿命」と「食料品等の付加価値労働生産性」において日本一を掲げ、具体的には6つの戦略に取り組んでいるという。


 特徴は、「フーズ・ヘルスケア オープンイノベーションセンター」を中核支援機関とする「産学官金が連携した推進体制」だ。

 センターは、食、化粧品、ヘルスケアに関する助成制度の運営、展示会、商談会への出展支援のほか、コーディネーターやアドバイザーを設置し、企業からの相談に常時対応できる体制をとっている。

 また、「FHCaOI(カオイ)フォーラム」として、1500社以上の食関連企業のネットワークを取りまとめている。


 前身となるプロジェクトから数えると、400以上の製品開発を支援した実績がある。特に、「機能性食品開発プラットフォーム」を通じて、機能性表示食品の制度開始当時より、支援の知見が蓄積している。2023年3月までに45社92品目の届出を支援し、2023年3月現在の静岡県の機能性表示食品届出件数は292件、全国4位となっているという。

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 最近では、社会課題を解決する「フードテック」の取り組みが注目を集めていることにも着目。静岡県内にある「製造・加工」分野のポテンシャルを生かした、新たな取り組みも始めたという。

 具体的には、「サステナビリティ」と「パーソナライズ」という2つの視点で、製品やサービスを開発して、静岡発の「未来の食」を国内外へ発信していくことを目指している。


 「サステナブルな仕組み・製品づくり」では、循環型のローカルサプライチェーンの構築や、廃棄予定食材を活用したアップサイクル製品の開発を通じ、地域の食品残渣利活用プラットフォームの構築などを目指す。

 「災害時にも活用できる健康食開発」では、食品加工技術と機能性食品開発という、静岡県の有する強みを掛け合わせることで、長期保存可能で健康にも配慮された、フェーズフリー食品や、機能性災害食の開発を目指す。


 2023年度からは、フードテック・ヘルステックビジネスの創出に向けて、県内外の企業との協業も支援しており、スペックホルダーに事業を委託、川口精機や酪農王国も支援対象事業者候補となっているという。


 静岡県事業としてのフードテックは、まさに2023年度から本格的に動き出したところだ。

 工藤氏は、「静岡発の未来の食を目指したビジネス創出に関心のある方がいらっしゃったら、県内、県外問わず、ぜひ本県新産業集積課にお問い合わせいただきたい」と呼びかけた。

川口精機、「食品残渣の飼料化」に貢献

 続いて登壇したのは、「スクリュープレス脱水機」の製造メーカーである川口精機だ。静岡県静岡市の企業で、1949年創業、75期目を迎えるという。

 もともとは、製造業におけるさまざまな機械の下請けを生業としていたが、2011年に「スクリュープレス脱水機」を開発、販売もスタート。現在では売り上げの約9割を本機械が占めている。


 「スクリュープレス脱水機」の用途は、水分が多い食品を絞る、脱水すること。たとえば、キャベツは約7割が水分で、固形物は約3割だというが、スクリュープレス脱水で脱水することで、個体と液体を分離できるという。

 現在、全国で約180台導入され、タイ、中国、米国など海外展開も進みつつある。主には、食品加工企業で採用されているという。


 主な用途分野は2つだ。1つは「液体の抽出」。たとえば、「ファンタグレープ」で色素の原料となる赤キャベツの搾汁、りんごジュースのりんごの搾汁、ココナッツミルクの搾汁などで、東南アジアでは「日本製は搾汁効率がよい」と高評価だという。


 もう1つは、「食品残渣の廃棄物削減」だ。食品加工会社では、1日に5トン、10トンという、大量の野菜の廃棄物が発生するが、このまま産業廃棄物になると費用がかさみ、環境にもよくない。脱水すれば70%も減らすことができるという。


 ほかにも、お茶を抽出した後のお茶殻や、ウイスキーの蒸溜所での麦芽の搾りかすは、特に水分の多い廃棄物が生じるため、「まずは脱水して減らしたい」というニースが高く、大手飲料メーカーのみならず、国内でいま急速に増えつつあるウィスキー蒸溜所でも導入が進められているという。



 「ただ脱水して減らすだけではなくて、その絞った固形分や液体分を、リサイクルして飼料化する」という点でも、このスクリュープレス脱水機は、利用企業から高い評価を得ているという。

 絞られた固形分を牛の飼料にリサイクルする、液体分をリキッドフィードとして豚の飼料に変えるといった事例が、実際に生まれているそうだ。


 「スクリュープレス脱水機」は、ウェッジワイヤースクリーンという特殊な構造を用いることで水が出る面積を多くして、またスクリュープレスの内部を徐々に幅を狭くすることで緩やかに圧縮をかけながら脱水することで、脱水効率を上げているという。



 また、搬送機や粉砕機など、周辺機器との統合も含めたシステム対応、機器のサイズや重量、脱水機能性の多様なラインアップによりユーザビリティを高めてきたほか、サンプルとして15kgを預かって小型機でテストし、「本当に飼料化できるか?」を事前に検証するサービスも提供しているという。

 大澤氏は、「飼料化の検証も積極的に対応させていただくので、お気軽にお電話かメールでお問い合わせいただければ」と話して講演を締め括った。


酪農王国、「フードサプライチェーン」構築を推進

 最後に、「酪農を通じた持続可能な地域資源の活用と継承」を掲げる、酪農王国が登壇した。

 静岡県田方郡函南町は、伊豆半島の入り口、背中には箱根山という立地で、そのなかでも酪農王国がある丹那地区は、酪農を主たる産業としてきた、世帯数284人、人口は700人弱、牛は1000頭、外周が4kmほどの小さなコミュニティだという。


 実は、丹那地区がある真下、地下200mには東海道線の熱海から三島への長いトンネルが通っているというが、地上はのどかな盆地。酪農の歴史は古く、「150年続く酪農の里」だ。主たる商品は丹那牛乳、静岡県内では学校給食を含めて広く愛用されている。


 酪農王国は、もともと第三セクターとして始まった。牛乳専門農協のJA函南東部が51%出資、函南町が25%、加えてオイシックスやフルーツバスケットなど、消費者団体が出資している。


 一方で、酪農家の減少は著しい。現在では酪農家は9軒、牛の飼育頭数は1000頭まで減ってしまった。「このままでは、あと3年、4年のうちに、4〜5軒まで減ってしまう」という、危機的状況に直面しているという。

 しかし、担い手不足、餌と燃料費の高騰、さらに牛乳消費の減少と、酪農家を取り巻く環境は苦境が続く。そこで、3つのテーマを挙げて、「自立」を目指した取り組みを進めている。


 1つめは、「自社の牧場の運営」だ。農協もしくは酪農王国が自社の牧場を運営することで、牛の頭数を維持しながら、「丹那牛ブランド」を確立し、熱海や箱根といった環境地へ地の利を生かして、乳牛と和牛のハイブリッド経営を図ることで収益を上げることを目指す。

 2つめは、「新規雇用」だ。地元の農業高校を卒業した酪農家になりたいという次世代を雇用して、生活の安定を図りつつ、彼らが実際に酪農家に弟子入りすることで、技術を継承し、若手の酪農家を育成していくことを目指す。同時に、IoTを活用したDX推進も図る。

 3つめは、「自給飼料率向上のための、耕作放棄地や休耕田の活用」だ。現在、最も力を入れているのがこの領域だという。

 輸入品に頼る飼料価格の高騰が続く昨今、「もし飼料が入ってこなくなったらどうしよう、買えない値段まで上がったらどうしよう」と、危機感が募っているのだ。そこで、自給飼料を作っていく準備を加速させている。


 そのためには、「フードサプライチェーンの構築」が必要になる。食品残渣を活用した、安定的な栄養価、安定的な量で、牛に給餌できることを目指す。次に、デジタル化による畜舎環境の改善と省力化も重要だ。すでに進んでいる取り組みもあるが、さらに改善しながら収益性を上げることを目指す。また、生産、流通、消費一体となった畜産事業の展開も欠かせない。


 西村氏は、「すでにある丹那牛ブランドを中心に、まずは堆肥を生産するプラントの稼働率を上げて、飼育頭数を増やせる体制を整えて、食品残渣とエコフィードのボリュームを増やすことで持続可能な酪農を目指したい」と、“函南町循環システム”構想を説明した。

 牛糞堆肥プラントでは、町内の学校給食から出た食品残渣の活用や、町内農家への堆肥の供給、町内で採れた野菜の給食への導入という循環も生み出せるという。まずは丹那地区で仕組みを作り、いずれは静岡県全体に循環の取り組みを広げる構想だ。


 コミュニティが経済的に自立し、企業活動によって休耕田、空き家、雇用、などの社会課題を解決することで地域住民の生活を豊かにし、最終的には農業と観光を結びつけた“理想郷”を作ること。西村氏は、「この3つを実現して、自分たちの理想郷を作ることが目標。社員50人も同じ目標を持って活動している」と話して、講演を終えた。

 質疑応答では、モデレーターの大野氏が、3者にそれぞれ質問を投げかけた。「畜産農家さんが購入する配合飼料よりも安い価格で供給できている」(大澤氏)、「理想は200〜300頭の牛舎を1人で管理できる状態。これからも新しい技術を導入したい」(西村氏)など、さまざまな有意義な情報が飛び交う場となった。

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