本誌ビジネスニュースメディア「CNET Japan」は2023年10月23日から11月2日、オンファインカンファレンス「CNET Japan FoodTech Festival 2023 フードテック最前線、日本の作る、育てる、残さないが変わる」を開催した。10月27日には西本Wismettac 事業開発本部 フードテック事業部 ディレクターの小貝広樹氏が登壇。本稿では、「日本の優れたFoodTech, AgriTech, AquaTechを世界へ共同展開」と題して行われたセッションをレポートする。
西本Wismettacは、創業110年、世界46か所の拠点を展開する、売上3000億円の東証プライムの食品商社。主な事業は2つ、「日本食の世界販売」と「青果の輸入」となっている。講演当日は 小貝氏が、イタリアのミラノから登壇。既存事業の内容と、世界を取り巻くメガトレンドを抑えたうえでの新規事業の事例を紹介した。
小貝氏は、大手金融機関でのM&Aアドバイザリー、同金融機関系PEファンドでの24年間の経験を経て、2015年にWismettac Groupに入社し、海外M&A、新規事業開発を担当している
最初に小貝氏は、同社の成長の歩み、主には海外進出の軌跡を紹介した。2016年から2023年までの10年足らずで、8社の外国企業をM&A。現在は、世界46カ所に拠点を有する。同社の強みは、まさにこの「海外拠点の多さ」だという。
日本食を世界で販売するためには、倉庫が必要で、倉庫の中は冷凍、冷蔵、常温の3温度帯をきっちり管理することが求められる。そして、セールス、ドライバー、それを支える総務や人事など、さまざまなビジネスプラットフォームも必要だ。
日本食販売を約90年間続けてきた北米では、すでに24か所の拠点に1000人の従業員を抱える。このほか、イギリス、フランス、ドイツ、スコットランド、イタリアなどのヨーロッパ、中国、韓国、シンガポール、香港、ベトナム、タイといったアジア、それからオーストラリアにも拠点を開設している。
取り扱う日本食は、約6000種類にのぼる。というのも、たとえば寿司だけでも、米、ネタになる魚貝、醤油や味醂などの基礎調味料、わさび、味噌汁、おかず、日本酒や焼酎などのアルコールや海外で大人気のラムネ、お茶飲料など、食材は多岐にわたる。ちなみに箸も必要だ。また、お菓子なども取り扱っているほか、プライベートブランドも強く、売上の約40%を占めているという。
販売先もレストラン、スーパーマーケット、テーマパーク、企業の食堂など、非常に幅広い。「シリコンバレーにあるような、誰でも知っている世界的に有名な会社の本社には、日本のお茶や、お寿司など、フリーミールでたくさんの日本食があるが、それも私たちが運んで販売している」(小貝氏)
そして正社員であるセールスマンやドライバーが、直接レストランやスーパーマーケットに足を運ぶという。このため、毛細血管のように日本食の販売網を構築できている。
もう1つの主要事業、輸入のほうも好調だ。アメリカのSunkistブランドを、日本で唯一取り扱うほか、青果事業ではレモンは国内シェア50%、オレンジは30%を占める。また、バナナは遠くエクアドルから、キウイはニュージーランドからと、世界中から青果物を輸入している。
また、チョコレート、シリアルなどのアメニティ事業、サプリメント事業も展開。既存事業としては、ほかにもグローバルEコマースもある。
このような事業展開を繰り広げるなか、10月16日に同社は「中期経営計画」を発表した。念頭にあるのは、世界を取り巻くメガトレンドに起因する、事業環境の大きな変化だ。
まず、アジア食の人気高と需要の上昇だ。日本は人口減少が叫ばれて久しいが、世界は真逆で、人口はどんどん増え続けている。これに連動して、アジア食の人気が高まっているという。また、気候変動によって、これまで採れていた作物が採れなくなるという危機に、世界中が直面している。
一方で、フードテックの技術革新によって、従来よりも生産性の向上や、品質の向上、パーソナライズの高度化が可能になるなど、時代は著しく変化している。
同社は、このような変化をチャンスととらえ、売上拡大を目指すという。「現在は売上3000億円、営業利益120億円だが、2035年には売上2兆円を目指したい。そのためにはまず、3年間で売上を5000億円、営業利益250億円程度まで、引き上げたいと考えている」(小貝氏)
その柱は4つある。既存事業の拡大はもちろんだが、新しい取組としては、「デジタルやフードテックを活用した新規事業」と、「フード×メディカル領域の技術を活用した複合的な商品開発」に力を入れるという。
新規事業においては、スタートアップ投資、デジタル、IPいわゆる知的財産、それからフードテックを使って、新しい取組を着々と進めている。具体的には、「中小企業との協業」「食の業界のDX推進」の2つを行なっているという。
その一例が、「EPポリマー社の海外事業展開支援」。元来ポリマーとは、水を吸着して離さないという特徴があり、99%が化学成分でできている。しかし、EFポリマー社が開発した製品は、100%天然由来。柑橘の皮、バナナの皮、サトウキビの搾りかすという、3つの素材で作られている。
これらの原料はお分かりの通り食品廃棄物だが、同社のポリマーを干ばつの農場に散布しておくことで、100倍の水分を6ヶ月間保水でき、40%の節水、20%の肥料削減、かつ収穫量増加につながった実績があるという。
すでに、アメリカにおける農林水産省の役割を担うUSDAに、西本Wismettacが直接働きかけて、「いままで地球上に存在しなかった天然ポリマーというものをアメリカに輸出していいかどうか」という許可を取得し、干ばつに悩む16州で許認可販売の許可も取得したうえで、実際に農家での利用を促進している。
スタートアップであるEFポリマー社には、西本Wismettacと組むことで、グローバル市場にリーチできるという大きなメリットがある。ちなみに、EFポリマー社はビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の支援を得ており、また2023年1月に開催されたスイス・ダボス会議でも取り上げられ、世界的に注目されているという。
また、メディカルフードの領域も強化中。食事を飲み込めなくて困っている高齢者のために、とても柔らかいものを作って提供している。これは、大学研究機関やスタートアップと協働し、テクノロジーをもって海外進出を図っている事例だという。
最後に小貝氏は、「今後、私たちが注目していく、世界で展開できそうなテーマについてご紹介したい」と話した。
まずは、レストランにおける省力化や省人化だ。「人手不足は世界中の悩みなので、これに対して日本のフードテックは役立つ」(小貝氏)。
次に、アレルギー対策だ。小麦、卵、牛乳、ナッツ、甲殻類、蕎麦など、さまざまなアレルギーを持ち、「食べたいものを我慢している」人が世界中にたくさんいるが、日本のテクノロジーを活用して、アレルギーを引き起こすアレルゲン物質を除去することで、たとえば低アレルギーの小麦を提供できるという。「アレルギーは、日本のフードテックで、世界で戦える領域の1つだと思う」(小貝氏)。
加えて、認知症も注目だという。アミロイドβという脳内物質が15年間蓄積すると、脳の中に黒い斑点ができて、認知症やアルツハイマーになりやすくなると言われているそうだが、発病後の投薬ではなく、未病の観点で食品開発できるのではないかという。「皆さんが普段はあまり食べない食品のなかに、アミロイドβの蓄積を抑制する成分があるとの研究結果が出ている。大学や企業と協働して認知症の予防に貢献できる商品を、多くの人の手に届く価格で、世界中に供給したい」(小貝氏)。
また、魚の消費と養殖が世界的に増加トレンドだが、一方で餌の主原料となるカタクチイワシが、気候変動によって獲れなくなる危機がある。日本のフードテックで、餌の供給不足を解消するソリューションを開発、提供できると睨んでいるという。
講演後の質疑応答では、「日本のフードテックは、世界的に見ると遅れている」という指摘もあった。
「グローバルな視点で考えると、干ばつや、アルカリ性土壌など、ビジネスチャンスはいくらでもある。けれども、日本の中にいるだけですと、その発想は出てこない。世界各国のフードテックの会社はグローバルな視点で発想が出てくるので、そういう意味では遅れているのではないか。いまは飛行機でどこでも行けるし、オンラインでどことでも交流できるので、特に若い方には世界の目線で物事を考えることをお願いしたい」(小貝氏)。
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