NTTをGAFAの対抗軸にしたい自民党、難しいと首をひねる競合3社--NTT法廃止の提言に透ける思惑

 自民党は12月5日、「日本電信電話株式会社等に関する法律の在り方に関するプロジェクトチーム(座長・甘利明衆院議員)」がまとめた提言をウェブ上に公開した。

 これまでKDDIやソフトバンク、楽天モバイルなどはプロジェクトチームが議論している提言の中身を見せてもらってない中、一部メディアが報道した記事から推測しながら「NTT法の廃止は絶対に反対」と表明してきた。

NTT法廃止への反対を表明する通信業界のキーマンら(左から日本ケーブルテレビ連盟で専務理事を務める村田太一氏、KDDIで代表取締役社長 CEOを務める高橋誠氏、ソフトバンクで代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める宮川潤一氏、楽天モバイルで代表取締役会長を務める三木谷浩史氏
NTT法廃止への反対を表明する通信業界のキーマンら(左から日本ケーブルテレビ連盟で専務理事を務める村田太一氏、KDDIで代表取締役社長 CEOを務める高橋誠氏、ソフトバンクで代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める宮川潤一氏、楽天モバイルで代表取締役会長を務める三木谷浩史氏

事前報道通り「廃止ありき」の内容

 ようやく自民党が提言内容を一般に公開したことになるが、結局、事前の報道通り「NTT法は廃止」ありきの提言にまとまっていたことになる。

 ソフトバンクの宮川潤一社長は「なぜNTT法を廃止しなければならないのか。面倒くさいことに一生懸命時間をかけるよりは、NTT法の一部改正でNTTのやりたいことができるではないか」とNTT法廃止ありきの提言に疑問を呈する。

 楽天モバイルの三木谷浩史会長もNTT法の見直しではなく廃止という結論に「なにか意図があるんだろうと思う」と不信感を募らせる。

 そもそも、このプロジェクトチームは「防衛財源の確保」を目的に、政府保有のNTT株を売却するにはNTT法の見直しが必要だというところからスタートしたはずだった。しかし、NTT株の売却話は棚上げとなり、なぜか「NTT法の廃止」ばかりが強調されている。

 三木谷会長は自民党が防衛財源の確保を持ち出したことについて「NTT法の廃止を目的にしていたのかとちょっと疑っている」というほどだ。

 おそらく、突然、自民党がNTT法の廃止を持ち出すと不自然であるため、まずは「防衛財源の確保」を隠れ蓑にして、NTT法の廃止という結論に持っていく手法がとられたのではないか。

 ただ、実際に自民党が公開した提言を読んでみると、「NTT法は廃止」という主張は一切、ブレていないものの、あちらこちらで、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルからの意見に配慮した内容も含まれている。

 このあたりが、来年以降、きちんと議論され、NTT法の廃止ではなく、見直しに留まるのかが、注目と言えそうだ。

NTTの企業活動に配慮

 提言を読むと、やはりNTTが現状、置かれている立場をくみ取り、NTTがこれから企業として活動しやすくなるよう配慮されている内容となっている。

 NTTには全国で電話や通信サービスを提供する責務があるが、これによって、固定電話事業で赤字を抱えてしまっている。NTTとしては赤字の事業はいますぐ辞めたいというのが本音だろう。

 地方など人がいない、ケーブルを敷設するのも難しい地域であれば、それこそKDDIが得意な衛星のスターリンクとつながる基地局を設置してもらい、スマートフォンによるサービスを提供すれば良いのではないか、という提案もなされているほどだ。むしろ、NTTだけに全国あまねくのサービスを押しつけるのではなく「KDDIやソフトバンクも協力しろ」と言わんばかりだ。

 NTTとしては赤字事業をなんとか切り離し、同社が注力しているIOWNで国際競争力を高めて、世界で戦いたいというのがいまの経営としての重点ポイントとなっている。

 NTT法では「研究の推進・成果の普及に関する責務」というのがあり、研究成果をオープンにして普及に努めなくてはいけない。しかし、この責務によって、例えば、NTTがどこかの企業とこっそりパートナーを組んで研究開発を進めたくても「相手の企業が研究内容をオープンにされては困ると、NTTとパートナーを組みたがらない」という状況が起きてしまっているという。

 それこそ、NTTがアップルと組みたくても、秘密主義のアップルとしては「オープンにされては困る」とNTTからの誘いを断ってくることも考えられるのだ。

 自民党の提言を読むと、この「研究の推進・成果の普及に関する責務」をすぐにでも廃止しようという強い意思が感じられるのだ。

「GAFAに対抗できるNTT」にピンとこない理由

 NTTがいま注力している「IOWN」とはザックリ言うと、これまで電気で動いていた半導体を光の処理に変えてしまうというものだ。

 IOWNにより、データ伝送容量は125倍以上、遅延は200分の1に縮小、電力効率は100倍以上になるという。例えば、スマートフォンは年に1回、充電すればずっと使い続けられるとNTTでは説明する。

 自民党や一般のメディアでは「NTTはIOWNによって、アメリカのIT大手であるGAFAに対抗できる」と期待しているようだが、通信業界では「それは違うのではないか」と多くの人が首をひねる。

 KDDIの髙橋誠社長は「(NTTとGAFAでは)レイヤーが違うので、どうやって対抗するのかは非常に疑問」と釘を刺す。ソフトバンクの宮川潤一社長も「そもそもNTT法を廃止したところでGAFAには勝てない」と切り捨てる。

 確かにGAFAのうち、Googleは検索や地図、YouTubeなどの広告ベースのサービスを提供している会社だし、Appleはメーカー、Facebook改めMetaはSNS、AmazonはECやクラウドが主な事業だ。

 一方、NTTの「IOWN」は半導体を置き換えたり、ネットワークを進化させるものだ。IOWNの対抗となるのは、インテルやクアルコム、NVIDIAといった半導体で商売をしている会社やサーバーベンダーなのではないか。

 「IOWNで世界のネットワークを変える」と言われれば納得だが「GAFAに対抗する」と言われるとピンとこないのだ。

 そもそもIOWNは新しいネットワークインフラなのだから、GAFAには積極的にIOWNを活用してもらう「パートナー」になってもらうべきなのではないか。日本のユーザーが欲しいのは、IOWN技術を内蔵し、充電は1年に1回だけでいいiPhoneだ。いまさら、NTTが自社ブランドと自社開発のOSで動く「IOWNスマートフォン」を作ったとしても誰も買わないだろう。

 自民党はGAFAを敵視し、NTT法を廃止することで、NTTをGAFAの対抗軸に押し上げようとしているが、そもそも、そうした考えた方は根本的に間違っていることに気がついてはいないのだろうか。

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