11月2日、京都市とパナソニック エレクトリックワークス社は、既存建築物のZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化の普及拡大を目的とした取り組みを、連携して行うことを発表した。この取り組みは京都市の公民連携・課題解決推進事業「KYOTO CITY OPEN LABO」の枠組みを活用したもの。既存建築物の外皮改修を行うことなく、低コストでZEB化改修を実現するモデル事例を、京都市内から生み出すことを目的としている。
ZEBとは、Net Zero Energy Buildingの略で、一次エネルギーの消費量を実質ゼロにしたビルのこと。2050年までの二酸化炭素排出量実質ゼロ実現を掲げる京都市にとって、市内でのエネルギー消費量の過半を占める建築物の脱炭素化は急務であったことから、同市はZEBに注目した。そこで、民間企業と連携して市の課題を解決する事業「KYOTO CITY OPEN LABO」においてこの課題に取り組む企業を募集、これにパナソニックが応募したことで、今回の連携が実現した。
連携の骨子は「外皮改修を行わずに既存建築物のZEB化改修を実現するモデル提案」を京都市から行うこと。既存建築物のZEB化改修には大きな費用がかかるというイメージがあり、なかなか改修に踏み切れないビルオーナーが多い。しかし、ZEB化に適した建物であれば、コストが高い外皮や躯体の改修を行わず、照明や空調などの内部改修のみでそれが実現できるという。
今回の取り組みでは、まずZEB化の可能性調査を希望する物件を、京都市内の市有または民間の建築物から募集する。続いて、応募があった物件の築年数や延べ面積、構造をもとに、外皮改修を行わずにZEB化を達成できる見込みがあるかを精査、可能性のある物件を絞る。この物件選定は2023年11月下旬までに終えることを目標にしているという。ZEB化の可能性ありと認められた建物では、2023年12月から2024年2月にかけて、現地訪問や図面を用いた調査による具体的な改修手法の検討が行われる。3月には補助金の活用や発注方法まで含めた具体的な提案を、建物のオーナーにする予定だ。なお、図面を見ての調査や改修の費用対効果の検証は本来であれば有償で100万円近い費用がかかるが、今回の取り組みの対象の物件に限って、無償で行われる。
今回の連携には、ZEBの認知度向上や普及拡大に向けての取り組みも含まれている。その一環が、パナソニック京都ビルのZEBショウルーム化だ。パナソニック京都ビルは同社のショウルームやオフィスとして使われているが、2023年3月にこのビルのZEB化改修が行われた。改修はビルの内部に留めた結果、コストは低く抑えられ、通常改修とほぼ同等だったという。同社では、このビルをZEBに興味のあるビルオーナーのためのショウルームとしても、活用するとしている。
同ビルの主な改修ポイントは、照明と空調だ。照明の面では、全館の照明をLED化。また、昭和期からオフィス照明は照度750ルクス程度で設定されることが一般的だったというが、同ビルのオフィスでは500ルクスに設定した。現代のオフィスには、昭和期にはなかったパソコンのバックライトなど照明以外の光があるため、照度を下げても仕事の効率には影響が出にくい。また、空間の明るさを表すパナソニック独自の指標「Feu(フー)」を活用し、照度を落としながら、人が感じる明るさを維持している。筆者の感覚では、750ルクスと比べると確かに暗いが、比較しなければ十分な明るさに感じられた。
空調では、室外機を高効率なものに変更した。また、室内機も省エネ性の高い4方向天井カセット形を導入。外気温や時刻の変化に合わせて、クラウド上で運転を自動制御するシステムも取り入れた。改修1年目となる2023年は、まだクラウドAIに適度な温度制御を学習させている途中だといい、人の手で温度を操作することもあるというが、パナソニックの担当者は「将来的には完全自動制御にしたい」と語っている。
ビルの駐車場には、車4台を駐車できるソーラーカーポートを設置し、1台のEVを運用している。充電器は最大5台の充電に対応できるが、コストの関係で現在は1台にとどめているという。ソーラーカーポートには蓄電池も備えられており、EVのバッテリーとあわせ、災害時の備えとしても活用される。館内のモニターからは、太陽光による発電状況や、電気の消費状況などが確認できる。
今回の発表について、京都市・環境政策局の担当者は「京都議定書が出されたこの都市において、ZEB普及の取り組みを行うことは、全国的にも意義のあることではないか」と述べた。2050年に向け、このような事例がより増えていくかもしれない。今回の発表は、その嚆矢といえるものになるだろう。
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