バルミューダ、2度目の下方修正で「非常事態宣言」の中、復活の兆し感じさせた新製品とは

 バルミューダは、2023年度第3四半期(2023年1~9月)業績を発表。売上高は前年同期比36.3%減の79億5500万円、営業利益が前年同期の1億5700万円から、マイナス11億4300万円の赤字に転落。経常利益は前年同期の7400万円から、マイナス10億2900万円の赤字となり、当期純利益は前年同期の4300万円から、マイナス18億2000万円の赤字となった。

業績サマリー
業績サマリー
  1. かつて40%前後で推移していた売上総利益率が低下
  2. 業績見通し2回目の下方修正で現状は「非常事態」
  3. 作り慣れた商品の改善を重ねコスト低減へ
  4. 他社とは違う、尖った新製品発売で「復活の兆し」

 バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏は、「外出機会の増加による支出先の変化や、物価上昇による生活防衛意識の影響を受けて苦戦した。また、売上げ減に伴い、売上総利益率が低下。経常利益では為替予約により、円安影響を一定程度回避している。当期純利益については携帯端末事業終了に伴う特別損失と、繰延税金資産の取り崩しに伴う法人税等調整額を計上した」と総括した。

バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏
バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏

かつて40%前後で推移していた売上総利益率が低下

 売上総利益率は、前年同期の33.2%から30.0%へと悪化。販管費比率は前年同期の32.0%から44.4%となり、自己資本比率は60.6%となった。

 「売上総利益率は重要な指標のひとつであり、それが30.0%という水準は非常に苦しい。かつては40%前後で推移していた。為替、営業利益、粗利率は強い相関関係を持ち、売上総利益率が悪いことが、利益が出ない根源的な理由である。粗利率をよくすることが最大のテーマである。一方で、自己資本比率は棚卸資産などの圧縮に努め、前期末水準を維持した」などと述べた。

 製品カテゴリー別売上高は、空調関連が前年同期比42.4%減の16億7300万円、キッチン関連が31.9%減の52億8200万円、その他(クリーナー、スピーカー、照明など)が32.4%減の9億9600万円となり、すべてのカテゴリーで前年実績を下回った。

 地域別売上高は、日本が前年同期比29.9%減の55億2000万円、韓国は57.5%減の13億200万円、北米が7.9%減の4億1000万円、その他が34.4%減の7億2200万円となった。

 「すべての地域で前年割れとなった。とくに韓国での落ち幅が大きい。外向け需要の拡大と生活防衛意識の高まりによる影響は、日本だけでなく、さまざまな国で起きている」とした。

製品カテゴリー別売上高
製品カテゴリー別売上高
地域別売上高
地域別売上高

業績見通し2回目の下方修正で現状は「非常事態」

 一方、2023年度(2023年1~12月)の業績見通しを下方修正。前回公表値に比べて、売上高は26億5000万円減少の前年比24.2%減の133億円、営業利益は8億3000万円減少のマイナス13億5000万円の赤字、経常利益が6億5000万円減少のマイナス12億円の赤字、当期純利益は7億5000万円減少し、マイナス20億円の赤字とした。5月に続いて2回目の下方修正となる。「修正値は、やり遂げなくてはならない数字として出している。主力製品である『BALMUDA The Toaster』のリニューアル、『BALMUDA The Plate Pro』による新製品展開などもあり、達成可能である」と自信をみせた。

業績予想
業績予想

 2024年度に向けた取り組みについて、バルミューダの寺尾社長は、「いまは非常事態である」と宣言。「最速での黒字化を目指すこと、早期の成長基調への回帰を目指すことに取り組む」という姿勢を強調した。

 それに向けた具体的施策として、「売上総利益率の改善」「固定費の圧縮」「家電カテゴリー製品の積極的な展開」の3点に取り組む。

 寺尾社長は、「売上高100億円を突破した頃から、10億円以上の営業利益を生み出してきたが、2022年度の営業利益は7500万円に留まり、2023年度はマナイス13億5000万円となった。中国や台湾で生産し、その多くを日本で販売しており、円安はマイナス影響を受ける。円安とコロナ禍での巣ごもり需要の反動影響に加えて、当社独自の事情として、2021年に携帯端末事業に参入したものの、2023年5月に終息した点がある。成長を目論んだいくつかの施策の成長戦略の見直しの影響を受け、収支バランスが取れず、苦しい状況にある。最速で収支バランスを取り戻し、最速で黒字化を目指す。2024年上期には黒字化し、バランスが取れたバルミューダの姿を描きたい」と、早期回復に取り組む姿勢を表した。

作り慣れた商品の改善を重ねコスト低減へ

 1つ目の「売上総利益率の改善」では、第3四半期の30.0%から、通期では27.4%とさらに悪化する見通しを発表。「2024年に向けて、旧製品の在庫処分を見込んでおり、在庫を一度きれいにすることで、バランスを取れる形にしたい」とした上で、2024年以降に向けて、これを5ポイントから10ポイント改善する考えを示した。

 「設計および製造工程の見直しにより、円安による不利な状況のなかでも原価の低減を進めたい。劇的な原価低減は見込めないが、トースターなどの作り慣れた製品は、どこに改善の余地があるのかを理解できる。その積み重ねにより原価低減を進める。日本での生産はまだコストが高いと考えている」と述べた。

 また、「値上げによる販売価格の最適化を進める」との考えも明らかにした。既存製品を対象にした一斉値上げは想定しておらず、新製品から最適な価格を採用していくことになるという。

製品一覧
製品一覧

 2つ目の「固定費の圧縮」では、各種費用の最適化、組織や人員体制の最適化を進める。

 「値上げを想定しているため、販売台数は減少するだろう。売上高を伸ばすというこれまでの考え方を改め、バランスを優先する。売上高が少し減っても仕方がないという姿勢で取り組む。それに耐え、利益を生む組織体制が必要になる」という。

 同社は、社員数100人強の体制で推移してきたが、携帯端末事業への参入にあわせて、事業拡大の方向性を打ち出し2021年および2022年には人員を積極的に採用。2022年には213人体制にまで拡大した。2023年は一転して人員を大幅に削減しているところだ。

 「バルミューダの規模で家電事業を進める上では、社員一人あたりの売上高が1億円という水準が、バランスが取れた規模だと考えている。以前のように売上高200億円を目指すということにはならない。それにあわせた人員規模にしたい」と語った。

 2022年に敷いた本部制度を廃止。2023年11月から、寺尾社長の直轄体制として10数部門を統括。正確な状況判断と迅速な意思決定を進めることになるという。「固定費削減だけでなく、時間の削減も重要なテーマである。最速での黒字化達成につなげ、早期に新たなバルミューダの形を作る」と繰り返し強調した。

 3つ目の「家電カテゴリー製品の積極的な展開」では、バルミューダが得意とするキッチンと空調のカテゴリーに集中して新製品を投入とともに、タイやシンガポール、マレーシアといった新たな地域への展開を進めているほか、中国、韓国、北米、台湾でも製品ラインアップの拡充を行っていることに触れた。

他社とは違う、尖った新製品発売で「復活の兆し」

 「現在の売上げトレンド、為替トレンドにおいても、利益があげられる状態で新製品を投入していく」としたほか、「タイやシンガポール、マレーシアでは、並行輸入品が販売されていた経緯があった。取引先といい縁があったので、2023年11月から展開を開始した」と説明した。

 2024年前半には、キッチンおよび空調で新製品を投入する予定であることに加えて、海外においては、5つの地域で製品ラインアップを拡充する予定も明らかにした。

海外マーケットの強化
海外マーケットの強化

 なお、2023年10月に発売したステンレスホットプレートの「BALMUDA The Plate Pro」については、「想定を上回る良好な売れ行きをみせている。予約時点で数1000台に達し、1週間で5000台以上の販売実績となった。その後も量販店店頭での体験イベントなども展開しており、強い売りが続いている。バルミューダらしい商品が出せたと考えており、バルミューダブランドの人気が、再びがついてきたという実感もある。他社とは違う、尖った製品を出していくことができた。2024年以降も重要な製品のひとつになる」と位置づけた。

 一方、2023年8月に発表した小型風力発電機についても説明。JAXAでの風洞実験では、良好なエネルギー変換効率を達成しており、この成果は、12月1日に予定されている風力エネルギー学会で発表する予定だという。また、10月30日から群馬県で実証実験を開始していることも明らかにした。「小型風力発電機は、成長基調への回復に向けて、次の事業の核として育てるために、粛々と開発を進めていく」と述べた。

小型風力発電機の開発
小型風力発電機の開発

 決算の数値には厳しい状況が残るものの、BALMUDA The Plate Proに代表されるバルミューダらしい製品が登場し、これが高い人気を博していることは明るい材料であり、バルミューダ復活の兆しを感じられるのは確かだ。かつては、業績見通しに対しても慎重な数字を示すなど、寺尾社長の経営は安定性を重視する印象が強かった。その経営手法が、強化される形で、また戻ってきたような様子を感じることができた決算発表だった。

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