バルミューダ寺尾社長「携帯端末事業撤退は私自身の力不足」--条件が整わず開発続行困難に

 バルミューダは、2023年度第1四半期(2023年1月~3月)業績を発表。そのなかで、携帯端末事業を終了することを発表した。

 2021年11月に第1弾製品となる「BALMUDA Phone(バルミューダフォン)」を発売したが、原材料価格の高騰や急激な円安の進行により、さまざまな条件が整わず開発続行が困難となり、今後の事業全体を総合的に検討した結果、携帯端末事業の終了を決定したという。

 バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏は、「使いやすい大きさ、持ちやすい形、日常的に使うアプリを提供し、生活必需品として捉えなおしたバルミューダならではのスマホにより、市場に新たな選択肢を提示できたと考えている。また、2022年以降も、ソフトウェアアップデートなどを通じて、BALMUDA Phoneの体験価値向上に知り組んできた」としながら、「次期モデルの開発を進めてきたが、環境が大きく変化し、開発費や原価の条件が整わず、開発の検討を中止した。これがきっかけとなり、経営資源の投入戦略を見直し、家電事業の強化と、バルミューダの独自性をより発揮できる新たな商品ジャンルの開発に、資源を集中して投入すべきと判断し、携帯端末事業の終了を4月に決め、5月12日の取締役会で正式に決定した」という。

バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏
バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏

 同社では、携帯端末は開発していた2号機の製品化を断念したものの、その次の製品開発に取り組んでいたことを明らかにしていたが、「ぎりぎりまで実現しようと本気で考えており、3月の株主総会でも、携帯端末の撤退は視野に入っていないと回答していたほどだ。だが、為替影響などを背景に、製品化が難しく、いよいよタイムアップの時期がやってきたと総合的に判断した。携帯端末は、新たなジャンルを開拓しなくてはならないという思いで行ったチャレンジであったが、こういう結果になり、残念である」とした。

 だが、「いいチャレンジであったと思っている。チャレンジし続けるのはバルミューダのDNAであり、そこに躊躇せずに取り組んだことはよかった。携帯端末は、大いなる夢と規模を持って飛び込んだ事業であった。使いやすく、持ちやすいものができ、持つことのストレスが少ないスマホである。私自身は、白と黒を5台ずつ保管しており、しばらくはスマホには困らない」とジョークを交えて述べた。

 「参入して感じたのは、ソフトウェアの品質の作り込みが困難だった点だ。この困難を乗り換えるには、時間と根性だけではなく、多大な資金が必要だった。バルミューダの規模と、スマホビジネスのスケール感の違いが大きく、存分に戦えなかったという悔しさはある。うまくいくことしか考えていなかったが、これは私自身の力不足である。こんなに時間を使って、こんなにも努力をして、こんなにも工夫をして、そのほとんどが成果につながらなかった体験はこれまでにない。努力が実らないことがあるということを、この歳になって勉強させてもらった。どこでどんな努力をするのかを考えないと、努力しているうちに人生が終わってしまうという危機感も持った」とした。

 「これまでにないアイデアが生まれ、インターネットテクノロジーに深く入り込むことができ、かなり鍛えることができた。この経験は、家電のIoT化に生きてくるだろう。個人的には家電はIoT化しても仕方がないと言ってきたが、いまは違うことを考えている。家電とインターネットテクノロジーを組み合わさることにより、これまでなかった便利さや楽しさを提案できるだろう。今回の事業終了の発表は残念だが、気持ちはワクワクしている。この経験は今後のモノづくりに生きてくる」と前向きに語った。

 携帯端末の開発で蓄積した知見は、今後、バルミューダが提供する製品に反映。インターネットテクノロジー関連の研究開発を積極的に進める姿勢を示している。

 今後、携帯端末事業に再参入する可能性についての質問に対しては、「いろいろなタイミングが合い、もう一度やってもいいと神様が言ってくれるならば…。ただ、今日の段階では、その答えを言っていいのかということもある。慎重に検討したい」と、言葉を選びながら回答した。

 なお、BALMUDA Phoneのサポートは継続し、純正アプリについては大幅なアップデートはないが、スケジューラーなどは提供していくことになるという。流通状況にもよるが、当面はBALMUDA Phoneおよび周辺機器の購入は可能だとしている。また、携帯端末で使用してきたBALMUDA Technologiesブランドは今後も継続し、インターネットテクノロジーを活用したモノづくりを続けるという。

守り切るだけでは良くない、反転攻勢に向け思い切り力を使う

 バルミューダが発表した2023年度第1四半期の売上高は前年同期比41.2%減の24億500万円、営業利益が前年同期の1億7200万円から、マイナス4億1600万円の赤字。経常利益は前年同期の1億4400万円から、マイナス3億5400万円の赤字。当期純利益が前年同期の9600万円から、マイナス11億4400万円の赤字となった。携帯端末事業の終了に伴い、5億3600万円の特別損失を計上している。

2023年度第1四半期
2023年度第1四半期

 「販売施策の一部が第2四半期以降に期ズレしたことを除くと、想定通りである。為替影響が少し改善したほか、原価率改善の成果がある。売上総利益率が31.1%となり、改善基調にある」と総括した。

 売上原価率は、前年同期の63.5%から68.9%へと、5.3ポイント上昇した。販管費比率は前年同期の32.2%から48.5%に減少。自己資本比率は60.2%となった。「携帯端末事業という大きなチャレンジを終了することになったが、それでも60.2%の自己資本比率があることは、足腰の強さを示すものになる」と述べた。

 製品カテゴリー別売上高は、空調関連が前年同期比37.8%減の4億6000万円、キッチン関連が41.5%減の15億9800万円、携帯端末関連が200万円(前年同期は1億7700万円)。その他(クリーナー、スピーカー、照明など)が22.2%減の3億4400万円となった。

製品カテゴリー別売上高
製品カテゴリー別売上高

 また、地域別売上高は、日本が前年同期比40.0%減の17億4400万円、韓国は55.5%減の3億1800万円、北米が26.2%減の1億1800万円、その他が28.0%減の2億2400万円となった。

 一方、2023年度(2023年1月~12月)の業績見通しを下方修正。売上高は期初予想に比べて7億5000万円減少の前年比9.4%減の159億5000万円、営業利益は6億2000億円減のマイナス5億2000万円の赤字、経常利益が6億円減少のマイナス5億5000万円の赤字、当期純利益が12億8500万円減のマイナス12億5000万円の赤字とした。

2023年度の業績見通し
2023年度の業績見通し

 製品カテゴリー別の売上高も見直し、空調関連が前年同期比23.9%減の28億9000万円、キッチン関連が3.1%増の111億7000万円、携帯端末関連が99.8%減の200万円。その他が9.8%減の18億8600万円とした。

製品カテゴリー別業績予想
製品カテゴリー別業績予想
地域別業績予想
地域別業績予想

 寺尾社長は、「少し価格が高い製品を市場投入している家電メーカーとしては、2022年前半までの約2年間は、コロナ禍による巣ごもり需要を享受した。気がつかないほどの追い風が吹いていたともいえる。だが、その反動が2023年も続くことになる。しかも、第1四半期の状況を見ると、外向き需要が強く、想定以上に反動が大きい」とし、「経費を削減して、防御の体制に移行することに基づいた予算としていたが、守り切るだけでは良くないと考え、2024年からの反転攻勢に向けた準備に、思い切り力を使った方がいいと判断した。経営リソースを既存事業と新ジャンルの開発に集中するために、携帯端末事業を終了したほか、今後の成長のための5億円の追加投資を実施。広告宣伝費に5億8000万円(当初見通しは3億2300万円)、研究開発費に4億円(同3億円)を投資する。これにより、2023年度のトップラインの良化と、2024年度のチャンスの最大化を図る」とした。

 また、2024年度前半までの取り組みとして、「成長基調への回帰と、収益力の改善を最速で実行する」と述べ、「既存事業の強化」、「収益力の改善」、「成長のためのたゆまぬチャレンジ」の3点に取り組む。

 「既存事業の強化」では、家電において、6月および11月に製品のリニューアルを行うほか、10月には新製品を投入。さらに、北米での販売力強化、東南アジアにおける販売地域の拡大、広告宣伝や販売促進の強化を行う。「収益力の改善」では、設計改善や製造効率化、仕入れ最適化による原価の低減、経費の最適化を進め、一部製品では原価の改善により、値下げを実施。具体的には、デスクライトのBALMUDA The Lightを、5月後半に値下げを実施することを明らかにした。「成長のためのたゆまぬチャレンジ」では、バルミューダの強みであるアイデアやデザイン、エンジニアリングの力を、より発揮できる新ジャンルの製品開発を進めるという。「新ジャンルの製品は、水面下で研究開発を続けていたものであり、なるべく早い段階で紹介したい。年内にはなんらかの発表をする。これまでの生活家電のジャンルを飛び越えたものになる」などと語った。

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