携帯端末事業から撤退--「BALMUDA Phone」1年半の歩み

 バルミューダは5月12日、携帯端末事業からの撤退を発表した。製品発表から約1年半。同日行われた決算説明会で、バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏が「素晴らしいチャレンジだった」と語った、スマートフォン「BALMUDA Phone」の歩みを振り返る。

「BALMUDA Phone」を発表するバルミューダの寺尾玄氏
「BALMUDA Phone」を発表するバルミューダの寺尾玄氏

 2021年11月16日、都内某所で開催された、バルミューダ5Gスマートフォン製品発表会は熱気を帯びていた。その1週間前ほど前から、同社サイトやTwitterで公開されていたティザー画像が話題を呼んでいたからだ。扇風機やトースターで家電業界に新風を巻き起こしてきた、あのバルミューダが作るスマホ。「BALMUDA Technologies」という新ブランドの立ち上げも発表された。

こだわりのホーム画面
こだわりのホーム画面
背面デザインもこだわったという
背面デザインもこだわったという

 寺尾氏は壇上で、「十数年ぶりにデザイナーとして自ら線を引いた」と、デザインへのこだわりを語った。4.9インチのコンパクトさと、河原の小石をイメージしたという手に馴染むラウンド型のザラっとした触感。あわせて開発されたオリジナルアプリ。製造元は京セラで、SIMフリーモデルの価格は10万4800円(税込)。キャリアではソフトバンクが独占販売することも発表された。

 発売開始は11月26日。スペックに対して価格が高いという反発の声も多かったが、11月19日にオープンしたバルミューダ初の旗艦店「BALMUDA The Store Aoyama」に展示された端末は、連日多くの人の手にとられていたという。だが翌年の2022年、年始早々に、一時販売停止となるトラブルが発生する。「技術適合証明の認証に確認すべき事項が発生した」というのがその理由。販売は1週間ほどで再開され、販売済みの製品にもソフトウェアアップデートで対応したものの、出鼻をくじかれる格好となった。

 2月にはソフトバンクが直営店限定ながら、一定の条件を満たせば販売価格の14万3280円が約半額となる施策を打ち出す。あわせてバルミューダ公式オンラインストアのクーポンがもらえる、「春の新生活応援キャンペーン」も展開された。

 2月には専用ケース「BALMUDA Phoneケース(チェスターフィールド)」もリリースされている。実はこのケースの開発過程を見せてもらう機会があったのだが、本体同様に何度も試作を重ねるなど、細部まで徹底したこだわりぶりに驚いた記憶がある。

「BALMUDA Phoneケース(チェスターフィールド)」の試作品
「BALMUDA Phoneケース(チェスターフィールド)」の試作品

 BALMUDA Phoneには独自のホーム画面をはじめ、複数のオリジナルアプリが搭載されている。中でも発表直後から、そのオリジナリティや使いやすさで注目されていたのが、マンスリー、ウイークリー、デイリーといった表示をピンチ操作で切り替えられるスケジューラーだった。

 バルミューダは3月、この「BALMUDA Scheduler」をAndroidスマートフォン向けに無償公開する。発表時には「オリジナルアプリが使えるのはBALMUDA Phoneだけ」と説明していたが、大きな方針転換となった。また、同時期にはSIMフリーモデルの価格も、7万8000円に値下げしている。どちらもBALMUDA Phoneの体験を、より多くの人に届けたいとの思いからだった。5月に実施した決算説明会で、寺尾社長はBALMUDA Phoneについて、「非常に厳しいスタートだった」と振り返っている。

 5月中旬には専用フォント「AXIS Balmuda」を採用したソフトウェアバージョン2をリリース。6月には「BALMUDA Phone ワイヤレス充電器」も発売している。

メディア向け説明会で披露された新フォントとワイヤレス充電器
メディア向け説明会で披露された新フォントとワイヤレス充電器

 9月にはAndroid 12対応のほか、画面デザインについて600以上の微調整をしたというソフトウェアアップデートを実施。11月にはBALMUDA Phone特設サイト「Another Story」が公開され、同月末にはBALMUDA Schedulerなどの大幅アップデートも行われている。

 一方で、発売から1年が経過し、そろそろと噂されていた後継機は発表されなかった。11月に実施した決算説明会で寺尾氏は、BALMUDA Technologiesブランドの新製品投入が後ろ倒しになっていると説明。また、円安により原価率が高騰していることを受けて、家電事業の売り上げ最大化に注力する方針も語った。

 2月の決算説明会では、前年の2022年に次世代機が計画されていたものの、為替などの影響で開発を断念していたことが明らかに。「撤退は視野に入れていない」と説明していたが、5月12日の決算説明会にあわせて、携帯電話事業の撤退が正式に発表された。

 撤退による特別損失は5億3000万円。それでも寺尾氏は「もし数年前に戻っても、同じ決断をしていたと思う。素晴らしいチャレンジだった」と語り、この間に生まれたアイデアから、これまで否定していた家電のIoT化にも前向きな姿勢を見せた。スマホからは撤退するが、「BALMUDA Technologies」ブランドは継続するとのこと。バルミューダの新たな挑戦に期待したい。

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