楽天グループは11月9日、2023年12月期第3四半期決算を発表。売上高は前年同期比9.7%増の1兆4912億円、営業損益は1796億円と、引き続き楽天モバイルへの先行投資が響いて赤字決算となっている。
同日に実施された決算説明会において、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、足元のビジネスが好調であることをアピール。同社のコアとなる「楽天市場」などのインターネットビジネスは売上高が前年同期比で13.9%伸びているほか、フィンテックセグメントも「楽天カード」「楽天証券」「楽天ペイメント」の好調が寄与し、こちらも売上高が前年同期比で13.6%となっている。
そのフィンテックセグメントでは、同日に楽天証券がみずほ証券との提携を強化し、みずほ証券が約870億円を出資して楽天証券株式の29%を追加取得したことを発表。また、申請していた楽天証券ホールディングスの上場を取り下げることも明らかにしている。
三木谷氏は今回の提携により、リアルに強いみずほ証券と、オンラインに強い楽天証券とのパートナーシップをさらに強固にすることを考えているという。一方で、楽天証券はあくまで出資を受けるにとどまっており、楽天証券、そして親会社となる楽天証券ホールディングスは引き続き楽天グループの子会社であることも強調。提携で楽天証券ホールディングスの価値を上げ、引き続き上場を目指すとしている。
一方、楽天モバイルの業績に大きく影響している楽天モバイルに関して、三木谷氏は「(2023年の)9、10月から、会員数が非常に増えてきている」と説明。10月の純増数は19.2万、契約回線数も542万に達したことから、三木谷氏は「2024年末までに800~1000万回線を目指す」と意気込む。
三木谷氏は、契約数が増加した大きなポイントは、解約率の低下にあると説明。同社の解約率は2023年第3四半期時点で2.06%、さらに10月時点での解約率は1.7%にまで低下したとのこと。それに加えて新料金プランの「Rakuten最強プラン」でさまざまなコンテンツをバンドル化したこと、そして地域に根差した販売促進体制を確立したことが、契約数の伸びに影響したと話している。
その上で三木谷氏は、楽天モバイルを黒字化して契約数を増やす「フェーズ3」に向けた取り組みをいくつか解説した。1つは、プラチナバンドとなる新しい700MHz帯の獲得である。三木谷氏は、楽天モバイルが仮想化技術を持つことから低コストで整備を進められると説明。楽天モバイルが総務省に提出した開設計画で提示した、10年間で544億円という設備投資金額で「十分お釣りがくる」との認識を示した。
楽天モバイルは従来の1.7GHz帯で整備した基地局に700MHz帯のアンテナを追加するとしているが、電波の特性上、周波数が低い帯域はアンテナが大きくなる傾向にあることから、強度などに不安が出てくる可能性がある。この点について楽天モバイルの代表取締役 共同CEO兼CTOであるシャラッド・スリオアストーア氏は、同社が使用しているアンテナの「質が違う」と説明。低い周波数帯でも従来より小型で、十分な出力が可能なものを用いて課題を解決できるとしている。
一方、KDDIとの新しいローミング契約に関しては、都市部の繁華街でローミングする基地局の決定に時間を要し、当初の計画からやや遅れているとのこと。ただ、三木谷氏は「殆どの所は年内に開始していただける」とし、既に稼働している一部のローミング基地局も含め、2024年の第1四半期にはほぼ全ての基地局運用を開始できるとの見解を示した。
楽天モバイルにはネットワーク品質だけでなく、契約数を増やし、売り上げを伸ばすことも求められている。三木谷氏はその策の1つとして、楽天グループのエコシステムを最大限活用すると説明。その施策として打ち出しているのが、12月1日から変更が加えられる、楽天市場の「SPU」(スーパーポイントアッププログラム)である。
今回のSPU変更により、楽天モバイルのユーザーであれば、会員ランクを問わず5倍のポイント付与が得られるなど、楽天モバイルの利用者に非常に有利な内容へと変更されている。その理由について三木谷氏は「楽天モバイルに入ればシナジーが出る」と説明。従来の楽天モバイルユーザーが契約後に楽天グループの各サービスを利用する割合が高まっていることを挙げている。
三木谷氏は、今後契約回線数が1500万、2000万にまで増えれば「楽天市場の流通総額が30~50%上がる」とも説明。SPUの変更によってシナジー効果が一層高まることに期待を示しており、楽天モバイルのARPUが3000円に達するとともに、楽天グループのエコシステムでさらに1000円のアップリフトを実現することが最終目標としている。
ただ今回のSPU変更によって、「楽天プレミアムカード」の利用者など既存ユーザー、特にヘビーユーザが損をする仕組みとなった。それゆえ発表直後からSNSなどで「改悪」との声が相次いでいたのも確かだ。
この点について、楽天グループの取締役副社長執行役員である武田和徳氏は、「そういう声も最初の頃は結構あったが、モニタリングすると1週間くらいでほぼ上がらなくなった」と説明し、ネガティブな声は一時的なものという認識を示した。
一方で、確かに損をするユーザーも出てくることから、三木谷氏はAI技術を使ったサービスなどでサービスの向上を図っていく考えも同時に示している。
設備投資額も、2023年に予定していた2000億円を下回るなど、三木谷氏は最大の経営課題となっていた楽天モバイルのコスト削減と契約・売り上げの拡大に向けて順調な様子を示す。一方で、直近の大きな課題となっているのは社債の償還だ。楽天グループは2024年からの2年間で約8000億円の償還が求められており、その資金繰りが不安視されている。
三木谷氏は「さまざまな形で銀行に協力やコミットメントも頂いている。全く問題ないと考えている」と答え自信を示すが、キャッシュフローの改善には今後力を注いでいくとの考えも同時に示している。
一方で、通信業界を巡る動きとして、政府によるNTT法の見直しに関する動きが注目されており、楽天モバイルはKDDIやソフトバンクらと共同でNTT法の廃止に反対する姿勢を示している。三木谷氏はNTT法については、現在の光ネットワークの基盤は公社時代に整備されたものであり、NTT法の廃止によってそうした資産を持つNTTグループの統合が進むことから「特別な法律で管理する必要がある」とした。
また、NTTが主張する研究開発の開示義務について、三木谷氏は「NTT法はNTTとNTT東西(東日本電信電話・西日本電信電話)だけが適用になり、それ以外はなっていない。研究開発はそこでやれば同じことができる」と説明。現行のNTT法の範囲内で十分対応できるとし、見直しは「単なる言い訳」と三木谷氏は厳しく批判している。
その一方で、前日の決算ではソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏が、プラチナバンドの整備に関してソフトバンクが協力してもよいと発言したことが話題になっている。この点について三木谷氏は「私も報道でしか聞いていない」とし、ソフトバンクだけでなくKDDIやNTTドコモなどとも強調していけるところは強調していくよう話をしていきたいとの認識を示した。
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