「楽天市場」等を運営する楽天グループが、2023年12月1日より「SPU」の特典内容を大幅に変更すると発表したことが波紋を呼んでいる。X(旧Twitter)では「改悪」がトレンド入りしたほどだ。
SPUは「スーパーポイントアッププログラム」の略であり、要は楽天グループや系列の特定サービスを利用することで、楽天市場で買い物をした時の「楽天ポイント」付与率がアップする仕組みだ。
SPUはこれまでも、市場環境や楽天グループの戦略によって内容が変化しており、都度賛否を巻き起こしているが、今回は大幅な改定ということもあって、一層大きな反響があったようだ。
とりわけ今回のSPU改定の目玉は、楽天グループが総力を挙げている「楽天モバイル」に関する部分だ。
従来、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」を契約しているとポイント付与率は2倍となり、さらに楽天ポイントのポイントプログラム「楽天PointClub」で最上位の「ダイヤモンド」会員なら3倍の付与率が得られた。一方、12月以降は会員ランクに関係なく付与率が4倍にアップする。
また、固定ブロードバンドサービス「楽天ひかり」、またはその代替となる「Rakuten Turbo」を契約している場合のポイント付与率も1倍から2倍に増加。加えて楽天モバイルのキャリア決済(Androidのみ)を2000円以上利用した当月のポイント付与率も、0.5倍から2倍へと大幅にアップしている。
確かに楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は8月10日の決算説明会で、KDDIとのローミング協定の調整が完了した秋以降に、大規模なキャンペーン施策でその認知拡大を進めるとしていた。
それだけに、現在のタイミングで楽天モバイルに重点を置いたSPUの変更を実施したことは、契約拡大のための大きな施策の1つであることは間違いないだろう。
ただSNSでの反応などを見ると、今回のSPUの変更はそうしたポジティブな変更よりも、もう一方のネガティブな変更に対する反響が大きく、“改悪”の声が非常に多く挙がったのも確かだ。
実際今回のSPUの見直しでは付与率が下がるサービスもいくつかあり、1つは「楽天銀行」と「楽天カード」を利用した時のポイント付与率が、最大1倍から最大0.5倍に引き下げるというものだ。
しかし、より大きなインパクトを与えたのは、有料のクレジットカード「楽天プレミアムカード」に関する変更であろう。楽天プレミアムカードを利用した場合、楽天カードの利用で得られる2倍のポイント付与に加え、特典として2倍の付与がなされ、合計4倍のポイントを得ることができていたのだが、今回の変更によって特典の2倍がなくなり、通常の楽天カードと同じ付与率になってしまうのだ。
楽天プレミアムカードに関する変更はSPUにとどまらず、今回のサービス変更に伴って、カードの付帯サービスの「プライオリティ・パス」にも変更が加えられた。プライオリティ・パスは国内外の空港ラウンジを利用できるサービスで、楽天プレミアムカード会員は無料で回数制限なくラウンジの利用が可能な「プレステージ」(年額469ドル、日本円で約7万円)と同等のサービスを、年額1万1000円で利用できるため海外渡航が多い人にも人気が高かった。
だが楽天プレミアムカードではその特典を変更し、2025年1月以降は無料で利用できる回数が年間5回に制限される。それでもなおプライオリティ・パスを直接契約するよりお得ではあるのだが、頻繁に利用していたユーザーにとって大幅な改悪と捉えられたことに間違いない。
サービス内容が大幅に変わってしまうだけに、発行元の楽天カードも楽天プレミアムカードなどの年会費返金を受け付けるとしている。今後も楽天プレミアムカードの解約が増えることは間違いなく、楽天カード、ひいては楽天グループの事業にも影響が出ることは確かだろう。
そしてもう1つ、やはり大幅な改悪と捉えられたのが、SPU対象サービス利用時に付与されるポイントの上限が大幅に減少したことだ。例えば楽天モバイルの場合、付与率は確かに4倍に高まったものの、付与されるポイントの上限は従来6000ポイントだったのが、12月からは2000ポイントに減らされている。
同様に、楽天カード利用時の付与上限は5000ポイントから1000ポイントに(楽天プレミアムカード利用時は5000ポイント)、「楽天トラベル」利用時の付与上限は5000〜15000ポイント(会員ランクによる)から1000ポイントに減少するなど、いずれも上限額が大幅に減少していることが分かる。
上限額の減少で損をするのは楽天市場のヘビーユーザーだ。例えば楽天モバイル契約者(非ダイヤモンド会員)が現在のポイント付与率2倍で上限の6000ポイントに到達するには、楽天市場で30万円の買い物をする必要があり、よほど大きな買い物をするのでない限り、一般的なユーザーが上限に到達するのは困難だ。
ただ楽天市場で毎月のほぼ全ての買い物をこなすなど、楽天市場で毎月、相当な金額の買い物をしている「楽天経済圏」への依存度が高いヘビーユーザーであれば、ポイント上限の影響を大きく受ける可能性がある。それゆえポイント上限を大幅に減らしたことは、多くのお金を落としていたヘビーユーザーが楽天経済圏から離脱し、売上に大きな影響を与えてしまうリスクも抱えることになる。
楽天プレミアムカードの解約や楽天市場ヘビーユーザーの離脱の可能性が高まってもなお、楽天グループ側は「今回のSPU変更で8割以上の人は獲得できるポイントが増える、もしくは変わらない」と説明しており、離脱の影響は限定的と見ているようだ。
そして一連のSPUの変更と楽天グループの姿勢からは、楽天モバイルへの先行投資でグループが厳しい状況にあるだけでなく、グループ自体の戦略が「楽天モバイル中心」に大きく変わろうとしている様子も見えてくる。
それは楽天グループが「少数のヘビーユーザー」から「多数のライトユーザー」の獲得に重点を置こうとしている点だ。従来のSPUは、ポイント付与上限が高かったことからも分かる通り、高額還元を武器として、少数のヘビーユーザーにたくさんお金を使ってもらうことに重点を置く戦略を取っていたといえる。
だが競合する携帯3社を見ても分かる通り、携帯電話サービスの契約者数は規模が大きく、携帯電話サービスの顧客がまんべんなく自社系列のサービスを利用するだけでも収益に大きく貢献してくれる。それだけに、契約数増が至上命題となっている楽天モバイルに注力するのであれば、グループの戦略自体もモバイルに合わせて“広く薄く”に転換しようというのが、今後の楽天グループの戦略となってくるのではないだろうか。
ただ、そのためには、当然ながら楽天モバイルの契約数自体を増やしていく必要があるし、そのためには2026年にKDDIとのローミングが終了することを見据え、最近免許を獲得したプラチナバンドを活用したネットワークの整備を進めていくなど、さまざまな課題をクリアする必要があるだろう。
ヘビーユーザーとの決別とモバイル重視の戦略が功を奏し、楽天グループの業績に好影響を与えるのかどうか、今後の動向に目を配っておく必要がありそうだ。
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