2022年11月の登場以降、革新的なAIとして一世を風靡しているChatGPT。まるで人間のような会話が可能な自動生成型AIは、人間の仕事を代替しうる存在として、大きな注目を浴びている。「ぜひ仕事に活かしてみたい」という読者も多いだろう。
一方で、どうすればこれを使いこなせるのか、わからないという方もいるはずだ。そこで今回は「ChatGPT、70点の回答を100点に育てあげるプロンプトマネジメント講座」と題し、日々の仕事に活かすために必要な知識や使い方を連載でお届けする。解説は、大手企業の新規事業創出をサポートするフィラメントの代表取締役、角勝(すみまさる)氏。角氏は、新規事業やそれに適した人材育成のためのアイデアを練るための相棒として、日常的にChatGPTを使用している。
前回、AIの思考に必要な情報を網羅し、適切に整理した構造化プロンプト作成のコツについてお伝えした。今回は実際にそれをNew Chatに投稿し、ChatGPTの反応を見てみることにしよう。
まずは前回作成した、構造化プロンプトを見ておこう。下の画像をご覧いただきたい。
このプロンプトでは、ChatGPTに6つのプロセスからなる依頼をした。問題を小分けにして指示すると、ひとつの問いごとに回答を返してくれるし、あとから遡ることも可能になる。まずは「①まずLINEとヤフーの両方の強みを言語化して教えてもらいたい」の答えを見よう。
丁寧にプロンプトを作成した甲斐あって、しっかりした回答が返ってきた。また、文末に「LINEとヤフーに関する更なる詳細情報や特定の焦点を持っているかどうかをお知らせいただけますか?あるいはこの情報で進むことが適切だと思われますか?」とのリクエストがあったので、対応しておこう。LINEとヤフーによって設立されたPayPayについての話が抜けていたため「LINEとヤフーの共通の強みとして結びつきの強いグループ会社であるPayPayがあることもあげられます」とポストした。そして返ってきた答えが以下だ。
PayPayがどのようなサービスかも把握しているようだ。PayPayの会社設立は2018年。ChatGPTは11月に発表された「GPT-4 Turbo」であれば、2023年4月までの情報なら持っている。なおそれより新しい情報は、ユーザーから与えなければならない。
さて、次の問いに進もう。「(2)その強みが生かしやすくて事業として利益率が良くスケールもしやすい業界を教えてもらいたい」だ。ChatGPTが「(2)の質問に対する回答を準備します」と言ってくれたので、「次に進んでください」と伝えると、次のような回答があった。
ヘルスケア・ウェルネス、オンライン教育、フィンテックと、3つの業界が提案された。対して私は、新たな情報を2つ与えることにした。「マイナンバーカードの利用範囲の拡充」と「電子マネーによる給与支払いの解禁」だ。いずれも2021年9月以降に動きのあったことで、ChatGPTが持っていない情報である。新情報を与える際は、以下のように丁寧に伝えることが大切だ。
新情報を伝えると、ChatGPTが勝手に「(3)その業界でまだ多くの人が気づいていない課題でLINEヤフーであれば合理的コストで解決できるものを教えてもらいたい」へと移った。しかも、マイナンバーカードや電子マネーについての新情報を与えたのにつられてか、フィンテック業界に絞った記述をしてきた。
あくまで推測にはなるが、ChatGPTがさまざまな思考を働かせた結果、その記憶容量の限界を超えたためにプロンプトの初期の内容を“忘れて”しまい、直近の会話の内容から類推して回答を出してきたのだと思われる。とはいえせっかく答えが返ってきたので、まずはフィンテック業界から考えていくことにしよう。
しかしここで、1点大きな問題を見つけた。スマホでのマイナンバーカード認証について、いちいち情報を手で入力しなければならないと認識しているようだ。スマホでのマイナンバーカードスキャンにストレスがないわけではないが、今後は生体認証などの活用で簡略化していくと思われる。それについてはこちらで指摘しておく必要があろう。またこの回答を読む限り、先ほど伝えた新情報のうち「電子マネーによる給与支払いの解禁」については意識されていないように感じる。それについてももう一度、伝えておくことにした。それが以下のポストである。
するとChatGPTは、ビジネスアイデアを以下の画像の通り3つ提案してきた。だが今度は私が与えた新情報につられてしまったようで、どれも偏った内容になっている。
とはいえせっかくここまできたので、具体的なビジネスプランまで考えさせてみようと思い「次に進んでください」と伝えた。その結果が以下だ。
それぞれについて多少は具体化された内容が提案されたが、個人的にはワクワクしない内容になった。すでに取り組んでいる企業がほかにありそうなサービス領域が多く、またLINEヤフーのもつ強みが直接的な優位性にはつながらなさそうに思えたからである。
今回は、構造化プロンプトの失敗例をお見せするような内容になった。しかし、まだここから軌道修正する方法は残っている。「(2)その強みが生かしやすくて事業として利益率が良くスケールもしやすい業界を教えてもらいたい」で提案された、別の業界について課題を整理、ビジネスプランを考えさせるのだ。次回は、ヘルスケア・ウェルネス業界に目を移して、再び新たなビジネスを考えていく。ヘルスケア・ウェルネス業界は、マイナンバーと健康保険証の統合、オンライン診療の恒久化、さまざまなヘルスログデバイスの普及などの要素が絡まりあって、今後の大きな変化が予測されるビジネス領域である。ChatGPTがこの領域でどうビジネス創出を誘導するか見ていこう。
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
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