コロナネイティブと呼ばれる2024年卒学生たちの就活時期は、ほぼ終わりを迎えたようです。コロナ禍の影響で、従来とは異なるスタイルの就活を行った2024年卒学生たちの就活の捉え方、そしてその特徴とは?
前回に続き、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が、1000名を超えるアンケートデータなどを元に、2024年卒の就活動向を解説します。
コロナネイティブと呼ばれる2024年卒学生たちの就活には、3つの特徴的な動向が見られ、その一つ目、70%近い学生がコロナ禍自体をポジティブに捉えている点について前回の「24卒コロナネイティブ就活生、7割が『コロナ禍の影響』をポジティブに捉える」で解説しました。
今回は、まず、2つ目の特徴である、内定承諾後の辞退に抵抗がない、と答えた学生が3割以上いる点に着目します。
<内定承諾後、内定承諾辞退をすることに対する意識について教えてください>と<実際に、内定承諾後に辞退をしたことはありますか?>の質問への回答を見てください。
まず、左側のグラフですが、34.5%の学生が、「内定承諾辞退に抵抗がない」と答えており、次に右側のグラフを見ると、実際に「内定承諾辞退をしたことがある」という学生が30.5%にも上ることが分かります。
これに関しては、二つの要因が考えられます。一つが「大手志向」、もう一つが「人事や企業との繋がりの希薄化」です。大手志望者については、その数や割合自体はここ数年それほど変わっていません。対して、ベンチャーや外資系、中小企業にチャレンジしたいと考える学生が年々減少傾向にあります。
大手企業の就活スケジュールは他に比べて、遅めにスタートします。早めに優秀な学生と出会って確保したい、と考えるベンチャーや中小企業からのオファーは、大手の選考が始まる前に承諾期限が来てしまう。そのため、学生は一旦承諾する。しかし、その後、大手から内定が出て、先の内定を辞退するといったケースがよくあります。
この現象は決して真新しくはないのですが、ここ数年でさらに大手志向が進んだため、その割合が増えて目立ってきている。結果として、3割以上の学生が内定承諾辞退は「しょうがないこと」と考えるに至ったのでしょう。
もちろん、ベンチャーや中小企業に学生を惹きつける魅力があり、内定をもらった時点で就職活動自体を止める学生も存在します。しかしながら内定辞退が増えた原因は、「人事・企業とのつながりの希薄化」にあると思われます。
前回の「24卒コロナネイティブ就活生、7割が『コロナ禍の影響』をポジティブに捉える」で説明したように、オンライン化によって就活が効率よくできるようになりましたが、一方で、対面と違い、会社の雰囲気などが肌感として伝わらないというネガティブな要素も生まれました。
オンラインによるコミュニケーションでは、人事担当者をはじめ、企業で実際に働く人々の息遣いを生で感じることができません。そのため、せっかく、関心を持って受験した企業から内定が出ても、対面ありきだった頃に比べると、強い覚悟を持って入社を決断することが難しくなったのでしょう。
学生は、企業との距離がしっくりするほどに近く感じられないうちに、内定承諾の期限を決められてしまう。そして、一旦承諾したものの、関係性も薄く、覚悟みたいなものが滑り落ちているので、「内定承諾」の重みが感じられず、辞退することに抵抗がなくなった、と我々は分析しています。
そして、3つ目の特徴が、「タイパ」、タイムパフォーマンス重視の傾向です。
<どういう想いで就職活動に臨んでいたかを教えてください>という質問に、4つの選択肢の中から「効率よく」を選んだ学生が44.9%、つまり半数近くに上ります。就活は、「新卒で入る会社を決める」という大きなチャンスを目前にした人生の岐路です。その間、学生たちは納得がいくまで全力で活動するものという「常識」がコロナ前には確かに存在していたので、45%が「効率よく」就職先を決めたい、と考えていることは少し意外に感じました。
もちろん、ただ効率よくさっさと済ませればいいのではなく、就活に真剣に取り組んでいる様子も伺えます。
<就活を行う中で、以下のコンテンツは対面/オンラインのどちらが良かったですか?>の質問に対して、説明会は、8割近くが「オンラインの方が良い」と答えていますが、「複数日程インターンシップ」は、6割が「対面の方が良い」を選んでいる。つまり対面とオンラインのメリットとデメリットを分析し、コンテンツによって使い分けているようです。
「エントリーしてとりあえず名前を登録しておこう」「必要な情報だけ集めたい」と単に接点を持つことを目的としている企業に対してはオンライン。一方、自分自身の印象、データ、評価などのインパクトを残しておきたいと思える企業には対面で接する。これは、就活スタイルの進化なのかもしれません。
企業側も同様に、接点を持つためのコンテンツはオンライン、時間をかけて自社の魅力を知ってもらい、理解を深めてもらうためのコンテンツは対面にする、という使い分けができます。
また、上記のアンケート結果にて、「面接」や「座談会」に特に偏りがないのは、学生の好みが表れているとも言えます。「面接」は単に合格か不合格かが決まる機会と捉える学生もいれば、社員の人となりや会社の雰囲気を知ることができるチャンスと捉える学生もいる。期待度が人によって異なるのでしょう。
今後、コロナ禍が収束しても、このタイパ重視の傾向は変わらないと考えられます。ですから企業側は、学生目線で「この企業の採用はタイパがよくて参加しやすい」と感じられる就活コンテンツを設計するべきでしょう。
以上のように、コロナネイティブの2024年卒の学生たちは、コロナ禍による大きな社会状況の変化を当たり前のものとして、就活に取り組みました。オンラインと対面を使い分け、コロナによる就活への影響をむしろポジティブに捉えるタフなところがあります。
一方で、リアルな経験値が乏しい中「こんなものだろう」と決めつけた世界で、タイパよく情報を集め意思決定をする、予定調和的な傾向も感じざるを得ません。
コロナ禍を乗り切ったタフさは素晴らしいですが、もっと、意欲と熱意をもって選択肢を広げ、時には悩みながら、自分の可能性にチャレンジするような就活に臨んでほしかったという思いは否めません。その点で、企業側も学生を積極的に導くようなコミュニケーションをとり、選考を彼らの可能性が広がるチャレンジの場として提供していただきたいものです。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力