イノベーターと称される超優秀層の学生たちの志望先に変化が表れていますが、どのような背景があるのか?また、まもなくサマー期に入る2025年卒学生の就活スケジュールは24年卒と比べてどのような違いが予測されるのでしょうか? Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO COO兼CHRO)が、就活生からのヒアリング、企業へのアンケート結果などを踏まえて、解説します。
前回は2024年卒学生の就活動向を総括しましたが、その中でもイノベーターと呼ばれる超優秀層の学生たちの動向について、触れたいと思います。特にデータはないのですが、ヒアリングなどからそういった超優秀層の志望先に大きな変化が起きていることが感じられました。
「優秀」の定義は一義的であってはならないと思いますが、ビジネスシーンにおいて「イノベーターレベル」とみなされる優秀な学生たちが存在するのは確かです。例えば、大学の研究で深めた学びを活かして、先進領域などで在学中に事業を起こし、チームを組織し、最終的に事業売却といったExitまで経験するような猛者たちのことです。そのような優秀人材は、イノベーションが起きやすく、社会構造、産業構造が変革されるような潮目を狙って動く傾向があります。過去10~20年間、日本にとってそれはIT業界に絞られていて、そこに人材も投資も集まり、技術発信の中心でした。そこに大きな変化が起きているのです。
グーグルやメタなどのグローバルIT企業が、軒並みレイオフを発表するような状況において、超優秀層の学生たちは、もはや企業名、ブランド、業界といった不安定なものには関心を示さないようです。
「IT」といった「業界」ではなく、「SDGs」や「エネルギー」など抽象度の高い言葉をキーワードに、自分のスキルや経験が活かせる環境、イノベーションが起こる可能性に満ちた領域に飛び込んで行きます。超優秀層が就職を考えるとしたら、業界に関係なくイノベーティブな企業を狙うでしょう。
株式時価総額でトヨタ自動車を抜いたテスラのCEOであり、最近はTwitter社の買収劇でも話題になったイーロン・マスクは、イノベーターの代表とも呼べる存在です。彼はSDGsやエネルギーにこだわり、テスラでは電気自動車、自動運転技術の開発に注力しています。また、宇宙ロケット事業に進出するなど、業界の枠を超え、次のフロンティアを目指して技術革新を実現し、発信し続けています。
業界、会社、ブランドという枠ではなく、世界を変える技術やチャンスそのものが、優秀な人材を惹きつける時代なのです。
さて、まもなくサマー期を迎える25年卒の就活に目を向けてみましょう。コロナ禍や悟り就活の傾向などの影響を受け、動き出しのタイミングの二極化が続き、それがさらに進んで平坦化、ランダム化することが予想されます。
かつて「新卒採用」は、優良企業に就職することで長期的に安定した人生を送るための千載一遇のチャンス、学生にとっては「プラチナ切符」として活用されました。しかし、この連載で解説して来たように、Z世代の就活に対する認識は、大きく異なっています。
昨今の就活生たちは、企業で働くこと自体が、決まったフレームに自分を押し込めることだと感じ、会社に入ることで自分の個性が埋没することを懸念します。
また、転職へのハードルが低くなったこともあり、新卒採用時の就活に重きを置かなくなりました。SNSで同年代インフルエンサーたちの活躍を目の当たりにし、個性を殺してまで就職する理由が分からない。それでも就職するとしたら大手企業で安定感と満足できる給与を手に入れ、自由時間にやりたいことをする。就活はそのような生活を実現するための手段に過ぎないので、タイパよく、効率よく終えたい。Z世代にはこのような思いがあり、そういった人々にとって就活のプラチナ切符としての価値は、大きく下がっているのです。
その結果、就活に対する熱意、動き出しのタイミングは個々の学生でバラバラになります。今は、早期層と後発層という二極に分かれていますが、今後は、就活スケジュールの個別化が進むでしょう。3年生のサマーから4年生の春までじっくり取り組む人もいれば、3年生の10月に始めて11月に終える超早期層も生まれるし、4年生の4月という超後半戦から始めて6月までに内定を狙うという人も出てくる、といった具合です。
そうなると、企業は学生の動きに合わせて、就活の窓口をずっと開けておかなければならない。すると、学生側も就活はいつでもできる、と考える。まさに、いたちごっこです。
今まで日系大手企業は、選考の解禁を6月と定めていましたが、いよいよ内定時期を早期化する動きが出ています。今年2月に、総合商社の三菱商事が2024年度入社の新卒採用について、3月から採用面接を実施すると発表しました。
政府や経済界による連絡会議で提示されている現行のルールでは、企業側の広報活動は大学3年の3月にスタートし、面接など採用選考は大学4年の6月から行うことを求めています。日系大手企業は、長らくこのルールに従っていましたが、遂に超人気業界の総合商社の雄、三菱商事が採用面接の開始時期を3ヶ月も早めたのです。これまで紳士協定的にそれを守っていた他の総合商社はもとより、大手企業が追随することは想像に難くありません。
また、新卒採用市場で外資やベンチャーは、日系大手企業より早めにオファーを出し、日系の波が来ても内定者がそちらに逃げないように努めるのが定石でした。こちらも、戦略を変えなければならないでしょう。
今年の4月に弊社が実施した大型就活イベントで、参加企業の人事担当者にアンケートを取ったところ、2割以上が24年卒に対して「内定出しのタイミングを早める」と回答しました。
いつ頃にどの業界、企業がどのような選考を行うのか?学生はいつ動き始めるのか?いよいよ企業側も学生側も、お互いのスケジュールが読めず、25年卒の新卒採用マーケットは混迷することが予想されます。
就活スケジュールが混迷し、ランダム化が進む中で、一つ確かなことは、大学の長期休暇中は、学生たちがいつもより就活に集中するということです。企業側もサマー、オータム、ウィンターの休暇を活用する取り組みを続けるべきでしょう。
アンケートによると、サマーインターンシップの平均エントリー数は、23年卒は12社、24年卒は9.86社と下がりましたが、 25年卒は12.16社と回復傾向にあります。前回掲載したデータからわかるように、この時期に動き出すのは積極性のある優秀層と呼ばれる学生たちなので、企業にとっては優秀学生らと接点を持つ大きなチャンスとなります。
最後に特筆すべきことですが、インターンシップが以前より直接的に就職活動に紐付くことになります。というのも、今までは経済産業省・文部科学省・厚生労働省による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方(通称:三省合意)」によって、インターンシップを通じて得られた学生情報を、企業が採用のために利用することは禁じられていました。
ところが、2022年4月に「採用と大学教育の未来に関する産学協議会(通称:産学協議会)」で、一定の条件を満たした場合に限り、学生情報を採用活動に利用することが認められたのです。これに対応する形で三省合意が改正され、一定の基準を満たす内容の「インターンシップ」を実施することで、学生情報を採用のために活用できるようになりました。
これによって、かつては3年生に学業やゼミを優先することを推奨していた大学側も、インターンシップへの参加を促すようになる可能性があります。また、企業にとっては、そこで学生の認知を取ることが今まで以上に重要になります。今後はインターンシップの活用を意識しながら、自社ブランドの組み立てなどに務めることが必要になるでしょう。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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