2024年卒の就活も、いよいよ終盤となり、6月に入って日系大手企業が内定を出す時期を迎えれば、ほぼ終了です。就活生へのアンケート調査の結果及び、学生らとのディスカッションから得た声を元に、2024年卒の就活動向について総括したいと思います。
今までこの連載で述べたことの繰り返しになりますが、2024年卒の就活選考スケジュールは、予想通りに二極化が進みました。新卒採用市場で、就活の早期化がキーワードになって久しく、コロナ後はさらに早期化が進むという予測がありました。同時に、長期化して早期に動く層と後発層に二極化することが予想されましたが、その傾向が顕著になったのです。
データ<本腰を入れて選考を受け始めたタイミング>を見ると、まず、6月に飛び抜けて、大きな山が一つできているのが分かります。その後、12月あたりに上がり始め、3月まで続くもう一つの山があります。明らかな二極化と言えるでしょう。
6月に山ができた理由ですが、就活のアンテナを高く張っている学生たちは、サマー期を逃しません。企業側も、この時期に動く層には積極性があり、就活に対して自分なりの考えをしっかりと持つ優秀な学生が多いと捉え、インターンをたくさん開催します。
一方で、このデータからは重要なサマー期を逃した層が40%近くいることも分かります。早期層に遅れ、冬から春にかけて就活に力を入れ始めた後発層と言えるでしょう。
また、志望企業における「大手志向」が進むと予測されていましたが、結果は「やや増加」という程度です。<【23/24卒比較】志望する企業区分>のデータですが、24年卒学生に対して今年4月時点で取得したアンケートによると、全体の86%が「大手企業」を志望するという結果でした。
「キャリア選択で重視すること」というアンケートも行いましたが、「風通しの良さ」などが上位に入った23年卒に比べて、24年卒は「企業や業界の安定性」といった項目が上位でした。数字の上では微増ですが、何れにしても86%の学生が大手志望で、安定志向も見受けられます。
また、このアンケートは複数選択が可能で、中には「大手」、「中小」、「ベンチャー」の3つを選ぶ学生もいました。ただ、グレーで示された23年卒に比べてブルーの24年卒が、「大手」以外のすべての項目で少ないパーセンテージとなっているのは、大手以外を複数選択した人が少なかったことを示します。つまり、複数選択ができるにも関わらず、選択肢を広げない、極端に言えば、大手一本に絞った学生が増えたという分析も可能です。色々な企業を受けて、結果的に大手に入社できればいい、というのではなく、大手しか受けない、という学生も多いようです。そう考えると、相対的に大手の志望率は、23年卒に比べて高くなったと言えるでしょう。
<【23/24卒比較】志望する企業区分>のデータから、ベンチャーを志望する学生が減ったことも分かります。かねてよりベンチャー企業には一定の強いブランドイメージがありました。それは、「リスクを取ってチャレンジできる優秀な人材が挑む高み」というものです。ベンチャー志向の学生は、安定した大手に入ってからベンチャーに転職するのではなく、いきなりベンチャーに入るチャレンジャーであると高く評価する声もあります。ところが、どうやらその神話が崩れつつあるようです。
日本で新進気鋭の若手起業家たちが次々と会社を立ち上げた、IT企業のベンチャーブームが起こったのは、20年ほど前です。当時は、20代の経営者がバリバリ働く会社に自分も若いうちから入って活躍したい、という気持ちで志望した若き学生も多かったでしょう。その時代に創業して大企業になった会社は今やメガベンチャーと呼ばれるようになり、採用人数も増え、気が付けばヘッドも50代になっていたりします。就活生の目線で見ると、かつてのベンチャーとしての期待に応える企業ではなくなって、他の大手企業との違いがない、ということになります。ヒアリングでも「経営者と若者の目線がずれて来た印象がある」という意見も聞かれました。
また、1月の連載(「Z世代の「悟り」就活の背景、彼らに対してNGな口説き文句とは?」)でも解説しましたが、昨今の新卒市場では、就活を「早く始めて早く終わる」ことが常識となりつつあります。投下した時間あたりのリターンを指すタイパ(=タイムパフォーマンス)という言葉を耳にしますが、まさにタイパのよい就活を行い、ある程度自分の希望を満たすような企業からオファーがあれば、そこで終了する。記念受験として入社難度の高い企業や人気企業を受けるために就活を長引かせることもほとんどありません。
これが「悟り就活」の特徴で、24年卒にはその傾向が顕著になりました。24年卒は、本選考のエントリー数が減少傾向にあり、4月に実施したアンケートによれば、平均エントリー数が16.2社でした。昨年同時期に23年卒に行ったアンケート結果は、平均20.1社なので、25%近くも減ったことになります。また、<業界を絞り始める時期>のデータを見ると、23年卒(グレー)では7割近くが「学部3年、修士1年の10?12月」と答えており、これはサマーインターンシップが終わってから少し経ったタイミングです。きっと、サマー期に色々な業界の企業でインターンを体験し、その後じっくり検討して、志望業界を絞ったのだと想像がつきます。
ところが、24年卒(ブルー)では、時期が分散し、さらに早期化しています。しかも、全体の3割強の学生が「学部3年/修士1年の6~7月」まで、つまり、サマーインターンを待たずに業界を絞ったことになります。
インターンなどを通じてより多くの企業に出会い、自分の可能性を探って、選択肢を広げよう、というようなプラスアルファを取りに行こうとする動きが見られません。より早い時点で自分の可能性を見極めて、エントリーする業界、企業を絞り、タイパよく就活を終えて、さっさと市場から抜け出して行く。これがデータから読み取ることができる、24年卒の「悟り就活」の特徴です。
次回は、24年卒の中でも超優秀層と呼ばれる学生たちの志望先の変化、および25年卒の就活スケジュールについて解説します。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス