2016年、千葉県のゴルフ場でドローン配送サービスを一般向けに提供したことを皮切りに、ドローン事業に取り組んできた楽天グループ。最近では、楽天グループ内でのシナジーも生まれつつあるという。
今回は、楽天グループ 無人ソリューション事業部 ドローン事業課でシニアマネージャーとしてドローン事業をリードし、楽天ドローン 取締役も兼務する宰務正氏に、“楽天ドローン”の現在地を聞いた。
楽天グループ 無人ソリューション事業部では、「ドローン(無人航空機)」と「UGV(無人地上車両)」を用いた新たな価値提供を目指し、さまざまな取り組みを進めてきたという。当初、ドローンの取り組みは、主に物流領域の活動が盛んだった。
その歴史を振り返ると、2019年7〜9月、神奈川県横須賀市で西友と共同で、離島にあるバーベキュー場へのドローン配送サービスを実施。2021年1月には三重県志摩市において期間限定で、離島住民へのドローン配送サービスを提供した。
同年8〜9月には、長野県白馬村で、1600mの高低差がある山小屋への物資輸送にドローンを活用。人間が50〜60kgの荷物を背負い8時間かけて輸送していたところ、ドローンを活用して省人化・効率化を図る実証実験を、地元事業者との協働で行なった。
JP楽天ロジスティクス、長野県白馬村の山岳エリアにおけるドローン配送の実用化に向けた実証実験を実施
さらに同年12月には、千葉県の都心部の超高層マンションへ、ドローンが海上を飛行するオンデマンド配送を実施。先駆的な挑戦を次々と発表し、存在感を放ってきたことは記憶にも新しい。
直近の状況を聞くと、物流に関しては、2023年1〜3月に秩父市において実証実験に参加した実績もあるが、(過去の実証実験でリリースした、品物の注文からドローンの飛行状況などを確認できるアプリも含めて、)定常的なサービス提供には至っていないという。むしろ、ドローンのサービサーとして、調査や点検などを役務として提供しており、分野も多岐に渡るという。
宰務氏は、特に建物調査の領域では、「2017年のサービスから2023年8月までの実績で、東京都内や近郊を中心に、合計530棟以上のドローンによる建物調査を、サービス開始以来、無事故で行なってきた。売上額、受注件数ともに、建物調査が最も多い」と語る。
また、点検の領域では、「楽天モバイル基地局開設における竣工検査を2020年4月から、現地調査を同年11月から行なってきた。従来は人間が3時間かけて調査していた、かつ落下すると人命が損なわれるリスクがあるところを、ドローンに置き換えることによって、時間短縮および安全性向上を図ることができた」(宰務氏)という。
近年、これらと両輪で注力しているのは、「エコシステムの形成」だ。具体的には、ドローンスクールの運営による「人材育成事業」と、ドローンパイロットと仕事のマッチング機能を持つ「プラットフォーム事業」に注力する。
楽天が運営するドローンスクール「楽天ドローンアカデミー」は、2021年2月に群馬県と楽天が包括連携協定を締結したことから、同年12月に群馬県みなかみ町において、町有施設を活用して開校。「2022年12月5日の改正航空法施行当日には、国土交通省が承認したスクールリスト11校のうちの1校としても名を連ねた」(宰務氏)という。
現在は、東京都江戸川区にも、広さ150坪超、天井高約10mの屋内練習施設を有する東京校と併せて2校を運営し、国家資格取得を目指すコースのほか、用途別のコースも複数提供している。
2022年11月、育成した人材に向けてお仕事マッチング機能を持つプラットフォーム「Rakuten Drone Gateway」の提供も開始した。主な機能は、「仕事支援」と「飛行支援」の2つで、「DIPSやFISSとのアプリ連携は実装済みで、気象予報、雨雲レーダーなども確認できるようになっている」(宰務氏)という。
現在も追加機能を開発中。お仕事案件とフライヤーのマッチングは、現状ではウェブ上で応募された中からプランナーが判定してアサインしているが、将来的な自動化を目指しているという。
「現在、楽天グループに約10人、楽天ドローンに約20人が在籍しているが、建物調査、基地局の点検、スクールについては黒字化し、生業として成り立っている。今後は、プラットフォーム事業も黒字化を目指していきたい。一方で、自社の利益だけを追求するのではなく、ドローンに関するエコシステムを形成して、業界の発展を目指していきたいと考えている」と宰務氏はいう。
その機動力となるのは、やはり楽天グループが保有するアセットをベースにした、ドローンの用途開発および新規事業創造だろう。すでに黒字化した領域のように、まずは楽天内部で試行錯誤を重ねて「型」を作り、例えば地元事業者やスクール受講生へのスキルトランスファーを行ったうえで、お仕事案件の獲得と提供を拡大していく。同時に、DXにおけるドローン活用事例など、新たな用途の開発と「型」作りを進めていく。
楽天グループ内でのシナジーから生まれた、新たな用途開発事例を聞いた。すでにリリースされているものとしては、2022年3月に楽天損保と共同で、ドローンを用いた建物屋根部の高所損害調査で、5Gを活用してリアルタイムで鑑定を行う実証実験を行なったという。
「東京都世田谷区でドローンを飛ばし、楽天モバイルの5Gを使ってリアルタイム映像を伝送して、鑑定人が神田にあるオフィスでその映像を見て、鑑定することに成功した」(宰務氏)。ちなみに、世田谷区から神田は車で40〜50分かかる。
また、同年11月には楽天グループ、楽天野球団、仙台市の3者による包括典型協定に基づいて、仙台市水道局の協力のもと、ドローンを用いた水管橋点検調査の実証実験を実施。これは、楽天地域創生チームとのコラボレーション案件でもある。「竣工から約40年経過した橋において、これまでは人間が入れない箇所の点検をできなかったところを、ドローンで点検した。ただ見るのではなく、仙台市水道局様が疑似漏水を発生させた現場を、ドローンに搭載した赤外線カメラで検知できることを実証した」(宰務氏)と語る。
今後も、「よりドローンが使われる社会」を目指して、挑戦していくという。具体的には、建物調査をはじめ、すでに役務として提供できている領域については、さらなる市場の拡大を目指す。
また、上述のような楽天グループが保有するアセットを活用した、あるいは楽天グループ内のシナジー効果を期待できるDXにおけるドローン活用や、“まだ見ぬ”ドローンの活用方法の模索も続ける構えだ。物流領域においては、引き続きオペレーションの省人化やコスト削減を図りながら事業化を見据えつつ、UGVとの連携なども視野に入れるという。
「新規事業に携われることや、ドローンなどの最先端技術に触れて仕事をできることは、社会人経験のなかでも稀な経験で、さらにそれが社会に役立つということは、ビジネスパーソンとしてとても貴重な経験だ。チームメンバーも、大変なこともあるが楽しみながら、未来を作っているという認識で、ありがたいことにやめる人がいない。これからも、私自身だけではなく、チームメンバーとともに、自分たちがやっていることには価値があるという想いで、ドローン業界の発展を目指していきたい」(宰務氏)と述べた。
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