東京モーターショー改めジャパンモビリティショー(JMS)が開幕した。隔年開催、新型コロナウイルスの影響で2021年が中止になり、今回の2023年は名前が変わっての開催となった。自動車メーカーが中心の展示会となるものの、ホンダジェットの飛行機あり、空飛ぶクルマあり、水素で動く電車ありと、まさにモビリティのショーとなった。
モビリティ全般のショーだが、主催は日本自動車工業会なので、やはり中心はクルマ。今回、話題の「マツダ・アイコニック SP」や、「ホンダ・プレリュード コンセプト」、そして、「ニッサン ハイパーフォース」。プレリュードは、思わず欲しくなる人も多く、これを見るためだけにショーに行くのも悪くない。
ただ、昔ながらのモーターショーに期待していたものとはだいぶ異なっている。しばらくぶりに行ってみようかと思った人には、行ってみて「思ったのと違う」とならないよう、展示内容をある程度予習しておいてほしい。
まず、展示されているクルマは、その多くが電動車だ。原則として電動車の展示、と言ってもいい。電動車とは、電気で動く部分があるクルマなので、BEVとする純電気自動車だけでなく、日本では一般的なハイブリッドカーや、水素による燃料電池車も含まれる。
自動車メーカーのブースも、以前のように速いクルマ、走ってわくわくするクルマ、そして少し頑張ればそれらのクルマを買えるかもしれない、という展示ではなく、環境対策を前面に押し出しているところもあるため、純粋にクルマの走りを楽しむことをはばかられる気持ちになってしまうかもしれない。
そして、モビリティとは、人が乗るものだけでなく、モノを運ぶロボットやシステムもモビリティとなる。自動車メーカーのブースでさえ、ホンダやスバルは飛行機を展示しているほど。そうしたことを含めて「未来」を見る展示会となるため、最新のクルマを見ることだけを目的にした人にとっては「これじゃない」感がたくさんで帰宅することになりかねない。
まずは、JMSは、クルマを含めた人やモノの移動の未来やエネルギーの進化を感じられる展示会、と認識した上で訪れてほしい。
環境だ、未来のモビリティだ、と言っても、行ったからにはまずカッコいいクルマを見てほしい。
ホンダのプレリュード コンセプトを見ようと思ってホンダブースに向かうと、まず、目に入ってくるのはホンダジェットのモックアップだ。特徴的な位置にエンジンがついた翼が付いていないので、飛行機に見えないかもしれないが、室内に入り、コクピットにも座ることができる。
巨大なホンダジェットに目を奪われてしまうが、そのまま進んでブースの奥にプレリュードが鎮座している。展示車の完成度からみて、市販可能性は十分あるモデル。電動化スポーツモデルということでハイブリッド仕様を想定しているということだ。
そして、マツダのブースに向かうと、たくさんの「マツダ・ロードスター」が迎えてくれる。ほかが電動車ばかりのなか、マツダブースのロードスター推し、つまり電動車でないスポーツカーをたくさん展示していることに安心する。
奥に行くと2ドアクーペのアイコニック SPが置いてある。2つのドアは跳ね上げ式で、展示のクルマは外部からの操作で、自動で開く。「2ローターRotary-EVシステム」としていてパワートレインの仕組みを名言していないが、ロータリーエンジンで発電して電気モーターで走ること想定していると思われる。
アイコニック SPはこのまま発売するような段階のクルマではないため、このデザインがどう現実のクルマに反映されるのか楽しみではある。一般的にコンセプトカーは、1台にさまざまな取り組みを集約させて搭載していることもあり、アイコニックSPのどの部分がどのクルマに反映されるのかは待つしかない。展示は階段状の客席のようなところからゆっくり見ることもでき、アイコニック SPを眺めながらひと休みできるようになっている。
そして、日産はニッサン ハイパーフォースを展示した。全固体電池を搭載し、最高出力は1000kWを発生、日産の電動駆動4輪制御システムの「e-4ORCE」を搭載する。まだ実用化されていない自動車用の全固体電池を搭載ということから、未来予想図の域を出ていないが、馬力換算では約1300PSオーバーの高出力パワーユニットで4輪に駆動力を最適に配分することから、実現すれば恐ろしく速いクルマになる。
市販に程遠いスタイリングながら、現在のGT-Rのイメージを少し残していることから、このスタイルをベースにあらたなスポーツカーが登場する可能性はある。
今回、バッテリーで駆動する純電気自動車(BEV)は多数展示されている。特に話題の中国のBYDが出展し、同社のラインナップを見ることができる。日本導入と導入予定のラインナップのほかに、大型ミニバンの「D9」とオフロードSUVの「U8」も展示されている。
電動車の特徴として、電気モーターで駆動すると駆動輪の制御を非常に細かく、自在に制御できる。それを生かして前後左右に別々のモーターを搭載して駆動すれば、左右のタイヤを別々に動かすことも難しくない。BYDのU8はその場で戦車のように向きを変える「タンクターン」ができる機能を持っており、ブースでも1日数回、その場で回転する実演を行っている。
同様の機能はメルセデス・ベンツが展示したコンセプトカー「コンセプトEQG」にも搭載され、同様にブースで実演をしているが、BYDのU8はすでに中国で販売されているクルマということが違い。この機能が実用的かどうかはわからないが、電動車ならでは機能が実感できる展示となっている。
メルセデス・ベンツはまた、BEVの超高級車を展示している。これまで高級車が追い求めてきた低振動、低騒音ということに加えて、排ガス臭なしという快適さをいとも簡単に実現してしまうのがBEVとなる。
また、前述のニッサン ハイパーフォースは、1000kWの高出力だが、あまりに大きな出力を路面に確実に伝え、コーナーも含めて安定して走行できるのも電動車の特徴。すでに日産は電動駆動4輪制御システムの「e-4ORCE」を実用化、BEVの日産アリアやエクストレイル e-POWERなどに搭載し、雪道を含めた不安定な道の走行で一定の評価を得ているからハイパーフォースも期待できる。
そして、電動車は電気モーターがガソリンエンジンよりも小さく、アイドリングも不要で回転範囲も広い。室内スペースを広くとったり、駆動レイアウトを比較的自由にしたりできる。
日野自動車の「DUTRO Z EV」は低床の配送車で、荷室が広く荷物が積みやすい。または、いすゞのフルフラット路線バス「ERGA EV」は今回が世界初公開で段差のないノンステップバスを実現している。トヨタも全長4m未満ながらスペースを最大化したBEVのコンセプトカー「KAYOIBAKO」を展示した。
今回、電動車をメインに展示しているが、環境以外になかなか電動車のメリットをアピールした説明が少ないのが残念なところ。なぜ、電動車なのか、という疑問があるのなら、ブースの説明員にぶつけてみるのもいいだろう。ブースには難しい質問にも答えらえる技術者も説明を行なっている。
モーターショーの時代からクルマの仕組みを学べるブースはたくさんある。それはモビリティのショーになっても同じ。
例えばベアリングのNSK(日本精工)は、ベアリングを自分で組み立てられるコーナーを用意した。NSKは過去にもこのコーナーを用意していて、ベアリングの仕組みを自分が組み立てることでしっかり覚えることができそうだ。
また、KYB(カヤバ)は油圧関連の展示を行ない「パスカルの法則」によって油圧を使って楽にモノを動かせることを自分の力で体験できるようになっている。
そして、主要製品であるショックアブソーバーの展示では、KYBは模型や実機を触れるようにし、ショックアブソーバーの動きを体感できる。なかにはスマートフォンで減衰量を調整できる実際のショックアブゾーバー製品も混じっており、そのままKYBのショックが欲しくなってしまう仕掛けになっているのはなかなかだ。
子供向けには、絵を書いて楽しむコーナーなどが豊富に揃っているほか、子供向けのコーナーとしては、職業体験のキッザニアのモビリティショー出張版の「Out of KidZania in JAPAN MOBILITY SHOW 2023」が開催されている。
キッザニアは事前予約が必要となるが、各自動車メーカーが趣向を凝らし、クルマに関わる製造や整備などさまざまな職業体験ができる。体験料金が必要になるが、子供連れならほかでは得難い体験ができそう。ちなみに、JMSの入場料は高校生以下であれば無料だ。
各メーカーブースでクルマの展示のほか、「モビリティが実現する、明るく楽しくワクワクする未来」として、まとめて展示しているコーナーが「Tokyo Future Tour」だ。西ホール1階の多くを使い、LIFE、EMERGENCY、PLAY、FOODの4部門と大型映像などで構成され、それぞれで未来を展示している。
自動車も一応はあるが、さまざまなモビリティが集結しており、そのなかでも特に大きな展示として、JR東日本の燃料電池で動く水素ハイブリッド電車「HYBARI(ひばり)」2両1編成のうちの1両、FV-E990-1がまるごと展示してある。
ブースには特に詳しい説明はないようだが、FV-E990-1は燃料電池を搭載し、トヨタも開発に参画している試験車両となる。水素貯蔵ユニットと燃料電池装置を搭載しており、床下に搭載する燃料電池ユニットを間近に見ることができる。
また、このコーナーには空飛ぶクルマも展示しているほか、PLAYのコーナーではアトラクションも多く用意される。
Tokyo Future Tourを見学したあとは、スタートアップのコーナーや、試乗体験プログラム「Personal Mobility Ride」も西ホール1階に用意される。さまざまなパーソナルモビリティを体験したいなら、要チェックだ。
JMSは東京ビッグサイトをほぼ全部使い切るほどの巨大イベント、なかなか端のほうまで行きにくいかもしれないが、自動車メーカーが多く出展する東1~6ホールの先、東7・8ホールもぜひ足を運んでほしい。
モータースポーツ車両の展示と、キャンピングカーエリアがある。キャンピングカーは高価だが今すぐ買える実車が多数展示してあり、気軽に見ることができる。
また、東7・8ホールの先、屋外に出るとASV/ZEVの体験として最新車の試乗が用意されている。
場所が対極となる南ホールにはスーパーカー展示、カスタマイズカーコーナー、そして、記念限定トミカが買えるトミカコーナーがある。
JMSのまさに端と端になるが、ぜひ行ってみてしい。そして疲れたりおかながすいたりしたら、南ホールへの通路ともなる西ホールの屋外展示場にはもうひとつの「JMS」として肉系のキッチンカーが集結した「Japan Meat Show」も開催されている。
このほかにも紹介しきれないほど、展示は多く、イベントも多数だ。出展者数が2019年の192社から今回は475社まで増えたというのも納得だ。
なかには、水素をエネルギーとした音楽フェスまで併催されており、これはモビリティと本当に関係があるのか? と少し悩んでしまうものもあるが、とにかく展示は多い。すべての展示がすべての人に満足いく展示かというと、そうではないものの、あまり気負いせずに展示物を見つけていく、という気持ちでいけば、意外と楽しめる可能性は高いだろう。
反対に、走って楽しめるクルマの展示が多くないと許せない、というのなら、ジャパンモビリティショーに来るのは慎重になったほうがいいかもしれない。しかし、それでも、好奇心を働かせ、新しさに触れて、楽しみを見つけたいと思う気持ちがあれば、ジャパンモビリティショーで楽しい1日が過ごせるはずだ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス