優秀な「QuietComfort Earbuds II」(QC Earbuds II)の登場からわずか1年後に、Boseが新しい299ドル(日本では3万9600円)のフラッグシップノイズキャンセリングイヤホンを発売することを予想していた人は多くなかっただろう。しかし、同社は2023年の新製品として「QuietComfort Ultra Earbuds」(QC Ultra Earbuds)を発表した。このニュースを受けて、一部のQC Earbuds IIユーザーはきっと動揺したはずだ。一方、QC Earbuds IIを購入しかけたものの、もう少し優れた製品の登場を期待して購入を見送っていた人は、おそらく歓喜しただろう。そして今回発表されたのは、まさに「少し優れた製品」である。
QC Ultra Earbudsには、新しい「金属処理」など、設計面でいくつかの改良が施されている。見た目はQC Earbuds IIと同じだが、スタビリティバンドがわずかにアップグレードされており(スタビリティバンドにはくぼみがあり、ずれにくくなっている)、「かみ合わせたようなフィット感が向上」している。また、IPX4の防滴性能も備えている。
QC Ultra Earbudsには、依然として、ワイヤレス充電ケースが付属していないが、QC Earbuds IIとQC Ultra Earbudsの両方に対応する新しいワイヤレス充電ケースカバーがまもなく49ドル(日本では7150円)で発売される。個人的には、ヘッドホンのワイヤレス充電がそれほど重要だとは思わないが、価格を考えると、この機能を重視する人にとっては、同梱されるべきだろう。
ほとんどの変更点は内部にある。QC Ultra Earbudsには、QC Earbuds IIと同じ「Qualcomm 5」シリーズのチップが内蔵されている。しかし、Bose独自の新しい空間オーディオ機能を支援する追加チップもいくつか含まれている。同社はその機能を「Boseイマーシブオーディオ」と呼んでおり、「コンテンツの音質を強化し、深みを与える」ことがその役目だという。最も注目すべきなのは、ヘッドトラッキングテクノロジーを可能にするIMUチップ(加速度計とジャイロスコープが1つになった慣性計測ユニット)が新たに搭載されていることだ。
Boseによると、QC Ultra Earbudsと「QuietComfort Ultra Headphones」(QC Ultra Headphones)はいずれも「Snapdragon Sound」テクノロジースイートを搭載しており、ロスレス機能や低遅延機能など、オーディオストリーミング用の最新コーデック「Qualcomm aptX Adaptive」に対応する(「Google Fast Pair」も搭載されている)。唯一の問題は、aptXオーディオコーデックを使用するには、どうやらQualcommのSnapdragon Soundに対応したデバイスが必要かもしれないことだ。
筆者は、aptXオーディオに対応している「Google Pixel 7」とQC Ultra Earbudsをペアリングしてみたが、開発者モードにアクセスした後でも、デフォルトでHDオーディオ用のAACオーディオコーデック(「iPhone」はAACを採用している)になってしまった。Snapdragon Soundに対応しているはずのサムスンの「Galaxy Z Flip5」とペアリングしたときも、同じことが起きた。ただし、ASUSの「ROG Phone 6」(同じくSnapdragon対応スマートフォン)に接続したときは、aptX Adaptiveを使用できた。
なぜこうしたことが起きるのかは分からないが、これはとても腹立たしい問題であり、いわゆる高帯域幅のオーディオコーデックに興味のある消費者を明らかに混乱させている。個人的には、aptXよりもソニーのLDACオーディオコーデックの方が好みだが、オーディオコーデックの好みはかなり主観に依存するものだ。もっと言えば、ほとんどの人は音質の違いになかなか気付かないだろう。
イマーシブオーディオに話を戻そう。ヘッドトラッキング対応の空間オーディオを備えたほかのヘッドホン(例えば、Appleの最新の「AirPods」)と同様、QC Ultra Earbudsにも2種類の空間オーディオモードがある。ヘッドトラッキングを使用しない「静止」モードと、ヘッドトラッキングを使用して、オーディオを「頭の動きに合わせて移動させ、常に目の前から音が再生されている」ように聞こえる「移動」モードだ。これと同じイマーシブオーディオ機能は、Boseの新しいオーバーイヤーヘッドホンのQC Ultra Headphonesでも利用できる。ただし、この機能を使用すると、バッテリー持続時間が短くなることに注意してほしい。中程度の音量レベル(75デシベル)でアクティブノイズキャンセリングをオンにしている場合のバッテリー持続時間は約6時間だが、同じ条件でイマーシブオーディオを有効にした場合は、4時間程度となっている。
最大の変更点である新しいイマーシブオーディオ機能のほかに音声通話の性能もいくつか強化されているが、われわれが実際に試してみた感じでは、違いはそれほど分からなかった。Boseによると、「ダイナミックマイクミキシングとアダプティブフィルターを搭載することで、理想的とは言えない環境でも、よりクリアに音声を拾うことができる」という。これについては、後で詳しく解説する。
AppleがAirPods向けの空間オーディオをリリースしたときに強調していたのは、空間オーディオによってある種の疑似サラウンドサウンドモードが作り出され、映画視聴時のオーディオが強化されるということだった。当初、空間オーディオが音楽にもたらす恩恵はそれほど宣伝されていなかったが、「Apple Music」のカタログでは、ドルビーアトモスミックスを楽しめる楽曲をまとめた「空間オーディオの世界」というプレイリストが用意されていた。時とともに、このプレイリストの楽曲は増加している。
Appleとは対照的に、Boseの場合、イマーシブオーディオをほぼ音楽鑑賞専用の機能として宣伝している。イマーシブオーディオは、映画のサウンドトラックを含むあらゆるステレオ楽曲で動作するが、ドルビーアトモスミックスについては言及されておらず、音楽鑑賞を重視しているようだ。
Boseによると、イマーシブオーディオは、「特殊効果以上の機能で、より幅があり広々としたサウンドステージを作り出してくれるので、オーディオプラットフォームやデバイスに関係なく、コンテンツが多元的で重層的になる」という。
楽曲によって効果にばらつきがあり、きちんと機能する場合とそうでない場合があるものの、イマーシブオーディオは概ね宣伝通りの機能を提供しているように思う。ただ、「静止」モードに設定している場合でも、頭を動かすと、サウンドの位置がわずかに変化してしまう。これは、人によって好き嫌いが分かれるだろう。
ほとんどの楽曲で、イマーシブオーディオを使用すると、音質が顕著に変化する(前述したように、その効果は楽曲によってばらつきがある)。例えば、Diddyの楽曲「Another One of Me」では、イマーシブオーディオをオンにすると、サウンドは明らかにより開放的になり(そして、頭から遠くなったように感じた)、オフにすると、少しこもったように聞こえた。Apple Musicの「空間オーディオの世界」版は「Spotify」版よりも少し力強くパンチのあるサウンドだと感じた、ということにも言及しておくべきだろう。つまり、音質は音源によって異なる(このテストでは、「Qobuz」も使用した)。
また、一部のデジタル処理がアップグレードされ、全体的な音質がわずかに改善されたようだ。QC Earbuds IIと比較すると、明瞭さと低音の鮮明さが向上したように聞こえる。ソニーの「WF-1000XM5」イヤホンの方が音質はややはっきりしているかもしれないが、QC Ultra Earbudsも同じ水準にある。全体的に素晴らしい音質で、「iOS」や「Android」の「Bose Music」コンパニオンアプリのイコライザーでサウンドプロファイルを調整することも可能だ。
筆者のテストでは、音声通話の音質はQC Earbuds IIよりも少し改善されていたが、それでも、「AirPods Pro 2」などの競合モデルと比べると、バックグラウンドノイズが多い。騒音の少ない環境では非常に良好だが、ニューヨーク市の騒々しい街中で実施した負荷テストでは、通話の相手から、バックグラウンドノイズがかなり聞こえると言われた。筆者の声はかなりクリアに聞こえたが、バックグラウンドノイズも負けていなかった。
マイクのアップグレードや位置の変更は行われていない。音質の向上は、マイクがユーザーの声を拾う精度を高めると同時に、周囲の騒音(風雑音を含む)をより効果的に除去しようとするソフトウェアアルゴリズムの微調整によるもので、そう単純ではない。QC Ultra Earbudsの通話品質は「良好」と評価できるが、騒がしい環境での通話に関しては、上位にはランクインしない。少なくとも、Verizonのネットワークで「iPhone 14 Pro」を使って実施した筆者のテスト結果から判断すると、そういう評価になる。
これらの小さな改善点がソフトウェアアルゴリズムのアップデートによるものなら、QC Earbuds IIにも同じアップデートを適用して、音声通話の性能を向上できるのではないかと思った人もいるかもしれない。しかし、その可能性について筆者がBoseに確認したところ、明確な答えは得られなかった。
冒頭で述べたように、QC Ultra EarbudsはQC Earbuds IIから大幅にアップグレードされたわけではないので、QC Earbuds IIを持っている人は、わざわざアップグレードする必要はないだろう。とはいえ、筆者の感覚でいうと、15%ほどはQC Ultra Earbudsの方が確実に優れている。QC Ultra Earbudsは、ほとんどの人の耳に非常によくフィットするはずだ。また、おそらく市販されている中で一番優秀なノイズキャンセリング機能も備えている。自然な外音のトランスペアレントモードもあり、周囲の音が大きくなりすぎた場合には、新しい「ActiveSense」機能によって、アクティブノイズキャンセリングがオンになる(AirPods Proの適応型オーディオ機能のようなものだ)。全体的な音質もQC Earbuds IIより少しだけ優れており、明瞭さも増している。また、イマーシブオーディオ機能を使用すると、サウンドに開放感が生まれる。
Bluetoothのマルチポイントペアリング機能には未対応だ。また、ワイヤレス充電を利用したければ、追加で49ドルのアクセサリーを購入するしかない。しかし、これらの不満を別にすれば(マルチポイントペアリング機能とaptXへの対応は、ファームウェアのアップグレードで実現してくれることを期待しよう)、QC Ultra Earbudsは市場でまさに最上位に位置するワイヤレスイヤホンの1つであり、AppleのAirPods Pro 2やソニーのWF-1000XM5イヤホンの有力なライバルにもなり得る出来栄えだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果