2023年に入り通信品質の大幅な低下が問題視されてきたNTTドコモは10月10日、通信品質改善の取り組みについて記者説明会を実施した。ネットワーク本部長 常務執行役員を務める小林宏氏が登壇し、新たな取り組みについて説明した。
小林氏は冒頭、「顧客にネットワーク通信品質で心配をかけたことを認識している」と話し、現在取り組んでいる通信品質改善策についてを説明した。
まずは著しい通信品質の低下が指摘されていた東京都内の4つのエリアに関する対策状況について言及し、渋谷エリアでは渋谷駅のホーム工事で進んでいなかった屋内アンテナの再設置などの対策が進み、いずれも通信速度の向上が図られ安定した通信ができるようになったと説明した。
また、新宿・池袋・新橋エリアに関しても、5G基地局の設置や増強などによって、通信速度の向上と安定化を図ったという。だが小林氏は、これらエリアでのネットワーク対策が「これで終わりではない」とも話し、今後もトラフィックの状況を確認しながら、必要な対策を継続的に進めるとした。
また小林氏は、品質改善のプロセスにLLM(大規模言語モデル)を導入し、SNSの「つながらない」といった投稿を分析し、対策が必要な具体的な場所を抽出する取り組みも発表した。ドコモは従来からネットワークのトラフィック情報にユーザーからの声を掛け合わせて機械学習させ、トラフィック急増の予兆をメッシュ単位で検知していたが、これをより高度化させた格好だ。
また対策検討・実施の部分では従来のエリアチューニングに加え、設備の高度化による対策も進めるという。その1つがMU-MIMO(Multi User-MIMO)に対応したMassive MIMO設備の導入だ。Massive MIMOは多数のアンテナ素子を用いることで通信容量を増やす技術だが、MU-MIMO対応のものはアンテナのサイズが大きく消費電力も大きいことから、NTTドコモはこれまで導入に消極的な傾向にあった。
だが小林氏によると、MU-MIMO対応Massive MIMO設備の小型化と省電力化が進んだことで、国内でも設備を設置するビルのオーナーから許可を得やすくなったという。加えて、同設備の導入で通信容量を2倍に拡大できることが確認できたことから、今後は積極的に導入を進めていくとした。
そしてもう1つ、5Gのアップロード品質の改善を進めているという。5Gと4Gのうち最適なアップロードの通信経路を選べるよう基地局を高度化させることで、とりわけ5Gのセル端付近でのアップロード速度が2倍になるとしている。
さらに小林氏は一連の問題を受け、300億円を先行投資して将来を見据えた全国ネットワークの集中品質対策を、2023年12月までに進めると明かした。その対象は1つに、既にトラフィックが多い箇所に加え、トラフィックの増加で近い将来対策が必要になる箇所を含めた全国2000箇所以上のエリアだ。
また、都市部だけでなく、基地局数が少なく増加するトラフィックに耐えられない可能性がある地方や郊外などもエリア改善の対象にしているという。
そしてもう1つは鉄道路線であり、乗降客数の多い路線を中心に対策が進めるという。前者については既に90%以上の対策が済んでいるというが、後者の鉄道については現在情報の分析を進めている最中で、今後既存基地局を中心に活用した対策を進めると小林氏は説明した。
では具体的に、どの程度の通信品質を実現すれば改善されたと判断するのだろうか。小林氏は具体的な基準として「主要な動画サービスでHD画質(の動画)を最低限見られるネットワーク品質、それを割らないようにやる」と回答した。
他にも小林氏はいくつかの通信品質改善に向けた取り組みについて説明した。その1つが大規模な集客イベントでのトラフィック対策で、エリアカバーの調整など既存基地局を活用した対策だけでなく、屋内では可搬型基地局の「キャリー5G」、屋外では5Gにも対応した移動基地局車を増配備して対策を進めるとした。
そしてもう1つは通信衛星に関する取り組みで、2023年10月11日に新しい衛星通信端末「ワイドスターIII」の提供を開始する。
静止衛星を経由して日本全国で通信できるほか、ダウンロードの通信速度が従来より高速な1.5Mbps、さらに複数の周波数帯を束ねる「キャリアアグリゲーション」に対応するエリアであれば3Mbpsでの通信が可能になる。さらに、Wi-Fiを通じてスマートフォンをハンドセットとしても活用し、携帯電話番号の利用も可能となる。
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